第四話 「虚しい因縁と儚き必然」



「リボォォォォォォォォ……」


太陽が照らしている砂漠の中でキッザーは荷物を持って止まらないと汗と戦いながらをリボを見て言う。


「なんだ? そんなだるそうな声を出して」


しかし、リボは熱さを感じない体なので、スカッとした顔でキッザーの顔を見ないで前へと歩く。機内の方はクールダウンをしっかり行っているにちがいない。ショートしてる様子も前兆の兆しもない。


キッザーは片腕に持っている大きなバッグを上げてリボに突きつけた。


「荷物が重いからリボ、持って❤」


可愛らしく、愛らしく目をうるませて頼むが。


「断る」


リボは可愛く言ったキッザーの頼みを即答。


「うわ! 即答!! いいじゃん、けち!!」


キッザーはブーブーと文句を言う。


「自分の荷物ぐらい自分で持て。お前今までその遣り取り、7回目だぞ? もうすぐ町に着く。それまで我慢しろ」


リボの冷たさは砂漠の暑さを冷ますようだった。

だが、キッザーは納得いかず、ズバリ聞いた。


「じゃあさ、あと何キロぐらい?」


「ざっと58キロだ! あはははははは!」


リボは笑いごまかそうとした。


「……。そこまで歩っていれっか! しかも、笑いごまかさないで?! 僕なんだか泣けてくるよ?!」


キッザーはリボにツッコミを入れるしかなかった。


 


 


 


そして、ようやく日にちを費やして2人は砂漠を越えた。


「お腹すいただろ? 何か買いに行こう」


リボはにぎやかな広場へ行く。


「さっき立ち聞きした話だとこの街は古代から情報の街と言われるくらい情報屋が沢山あったが今ではかなり減っているそうだ。探すのも大変みたいだぞ」


リボは残念そうに舌打ちをした。


「へー、そうなんだぁ……」


キッザーもへろへろでその後について行くだけでも倒れそうな勢いだ。


リボはある店のオヤジに言った。


「その牛乳とリンゴとパンをくれ」


「あいよ」


リボがその場を去ろうとすると何故か足が重い。


見ると、少女がリボの足を掴んでいた。


少女は金髪でフワフワした髪、白いワンピースに白い肌で、包帯で右目と右手をおおっていた。目はブルーで白人だ。とても可愛いらしい少女だった。一言で言うと花の妖精みたいだった。だが、その可愛らしい子には似合わない薄汚れたシンプルなワンピースを着ていた。しかも、足は裸足だ。


「貴方は人形ですね?」


妖精みたいな少女は可愛らしい声だった。


「ああ、そうだが?」


リボはそれがどうしたと言う顔で少女の質問に答えた。


「え?! 言っちゃっていいの?」


「言わなかったら、めんどくさそうな確率があるから仕方がないだろう」


「なんだよ……。それ」


貧民街では言わないほうがいいと言っていたので、リボのいい加減さにげんなりくるキッザー。


「お兄ちゃん! これ人形だって……」


少女は人ごみの方へ叫んだが、兄らしき人はいなかった。


「……。にいちゃぁぁ――――」


少女は半泣き状態でそのまま兄がいたらしい場所を見続けていた。


「どうしたの?」


優しい声で聞くキッザー。


しかし、小さい女の子は隠し玉を無くし、半泣き状態でビクビクしていた。

キッザーも人形と思っているのか聞いていない様子だ。


「僕は人形じゃないんだ。ほら、温かいでしょ?」


キッザーは幼女の手を掴むと自分の体温を感じさせた。


幼女はそれでほっとしたのか、少しは怯えなくなった。


「ハァ……。おじさん。先程買ったのを1つずつくれ」


軽くため息すると店の親父に頼んだ。


だるそうな声を出して店の親父はリンゴと牛乳、パンをくれた。


リボはいくつかの銀貨を渡すとキッザーに少女の分とキッザーの分の食料を渡した。


「やさし!」


「今回だけだ。私なら放っておくことに越したことはないだからな」


リボは無情な事を言うが、キッザーにはわかっていた。これがリボなりの優しさである。

「素直じゃないなぁ。もう……」


少し呆れてニヨニヨと馬鹿にするように笑うキッザー。


「…………」


リボは腕を組み、メアリーに対してキッザーはどのような対応をするのか気になる様子だ。黙って様子を伺っている。


「じゃあ、僕と一緒にこっち来てくれる? 大丈夫。変なことしないからね。ただお兄さんを探そうって言っているんだよ」


キッザーは広場の噴水に指を向けた。広場なので人も多い。


少女はそれで安心したのか軽くうなずいた。噴水の傍のベンチへと座る3人。


キッザーは牛乳を飲み始めた。しばらく飲むとストローから口を離した。


「飲まないの? 飲んでいいんだよ」


キッザーは人懐っこい笑顔で言う。


少女はオドオドして、軽くお辞儀をしてから牛乳を軽く飲んだ。


「この牛乳おいしいね」


キッザーが少女に言った。少女はただ頷く。


「そんなものがおいしいのか? 人間の食べ物は本当にわからん」


「リボは人形だもんね。わからないのはそのせいだよ。リボはこの油でも打っときなよ」


「……」


リボはその油を出されてからそれをじっと見た。


そして、リボはつまらないのか、舌打ちをして、その油を奪うように取った。


「ねぇ、君の名前は?」


リボが黙って油を注しているところを見届けると、少女の名前をキッザーは聞いた。


「…メ、メアリー・D・ホンディーですぅ。皆からメアリーと呼ばれています……」


メアリーという少女は警戒しながら言った


「メアリーちゃんだね? よろしくね。僕はキッザーでこの人形のお姉さんはリボ」


「よろしく」


キッザーが笑いながら言うと冷たく言い放つリボ。


「こんなクールな姉さんだけど、ホントはすっごい優しくて、素直じゃなくて、可愛いお姉さんだからね」


「私は優しくもないし、素直でもないし、可愛くない。勝手な妄想を押しつけるな。 ……お前、ここまでの徒歩で軽く恨んでいるだろう?」


「さぁ、どうでしょう?」


キッザーはそうやって可愛らしい笑みでとぼけているが、その一方で、後ろで暗いオーラを漂わせている。


たぶん、キッザーの腹黒さであろう。


リボはキッザーの黒いオーラに勘付いている。


「仲いいですね」


フフッと笑うメアリー。


やっと笑ったメアリーにほっとするキッザー。


「それじゃあ、お兄さんの名前を――」


そのときだった。


いきなり、リボが真剣な表情でその場に立つ。


「どうしたの? リボ」


キッザーは慌てて聞く。


「今、殺気を感じた。ここは危ないかもしれん。移動しよう。こんなとこで戦っては危ない。被害が及ぶ」


「……。人間のことを考えてくれるのですか? 初めて見ました。こんな、優しい人形」


おっとりした口調でメアリーが感動した。


「もう、人を巻き込みたくないだけだ! キッザーはその子を守れ!」


リボはふとブルザーを思い出した。あれは間違いなくリボが巻き込んで死に追いやってしまった1人だ。


そして、3人は人通りが少ない広場に出た。


「物陰に隠れていろ」


リボはキッザーに言った。


「わかった。リボも気をつけなよ?」


キッザーは心配そうな顔をしてリボの顔を見た。


「ああ。わかってるよ」


リボはそういうとキッザーの頭を撫でた。


キッザーはメアリーを連れて、心配そうに物陰に隠れた。


「いい加減出てきたらどうだ? ついて来ているくらいわかっているぞ?」


リボはボロボロで誰も住んでいないような住宅との間から15、6歳の少年が出て来たのを発見した。


「俺に気づくなんて大した人形だな。妹をさらった罪、言い訳は聞かんぞ」


少年は紺色の髪を、後ろで髪を束ねており、背中には大剣を背負っていている。目は髪と同じく綺麗な紺色をしていて、マントを付けていて綺麗に整った顔をした少年だった。忠義な犬に似ている。


「お兄ちゃん! 私は攫われてないし、お兄ちゃんがまた迷子になっただけじゃない! この人形は優しいんだよ! 喧嘩はやめてよ!」


物陰で兄に訴えるメアリー。


「俺は迷子じゃねぇ! また、人形に感情移入するな! 人形狩りはどんな人形でも倒すんだ。俺達の仕事は人形を狩ることなんだ。今、正気に戻してやる!」


兄はリボを睨み、大剣を抜いた。


リボは片手で目をおおいかぶせて、クククと笑いだす。


「何がおかしい?」


「迷子がしゃしゃり出るな。私を誰だと思っている? 私を倒す? 馬鹿げたことを言うな。青二才が」


兄は怒りにワナワナと震える。


「俺は……迷子じゃねぇー!」


兄は歯を食いしばって大剣でリボを襲おうとする。


「人間はほんと愚かだな。人形と人間の力も都合よく忘れてしまう」


リボは素手で大剣を受け止める。


「結構重いふり下ろしだ。それは褒めよう。だが、生ぬるい!!」


「何をごちゃごちゃと……!」


兄は剣に力を入れるとリボは警戒し、一旦離れた。


兄も一緒に離れる。


「人形のくせにやりやがるな」


「こんなことでばてるな、人間。こんなの準備運動にも入らないぞ?」


リボはあざけるように笑う。


「その口落としてやる!」


兄は大剣を握っている両手に力が入り血管が浮き出る。兄は大きく振りかぶるとメアリーが物陰から出て来て叫んだ。


「いい加減にしてよ! お兄ちゃん……! お兄ちゃんもっとちゃんと話を聞いてよおおおぉぉぉ!!」


「やばい!」


メアリーは泣き叫ぶと、首に掛けてあるネックレスの石盤から、太い光線をリボとメアリーの兄の間をめがけて放った。


メアリーの兄は顔を青くし、動きもしない。


リボは舌打ちをしてメアリーの兄を抱きかかえて光線を避けた。


光線はあっという間に消えてなくなっていた。


残っていたのは赤く熱された地面だけだった。


「いったい、何なんだ?」


リボは瓦礫がれきの上で上手いこと着地した。


「メアリー!」


「メアリーちゃん?」


メアリーの兄はすぐリボから離れて、メアリーが隠れている物陰へと行き、キッザーはいきなり倒れたメアリーを抱えていた。


「メアリー! 大丈夫なのか!?」


メアリーの兄はキッザーから乱暴にメアリーを奪った。


メアリーの兄はメアリーの青ざめた顔の頬を軽く叩く。


だが、返事はなかった。


「死んではないぞ」


リボは横に屈んで、メアリーの兄の耳元でささやいた。


「本当か?」


メアリーの兄は青ざめた顔ですがるような目でリボを見た。


「顔が少し青いがな。たぶん貧血か何かだろう」


「信じていいんだろうな?」


「ああ」


「嘘だったらお前覚悟しろよ」


「ハイハイ」


威嚇いかくするメアリーの兄に対してリボの顔はすずしげで適当に返事を返すだけだった。


「どこかに逃げられたくない、ついて来い」


「まぁ、かまわないが、聞きたいことがある」


「ああ、いいぜ。でも、歩きながらでいいか? 砂漠を歩くことになる。そのガキの水分いるだろ? ほら、この水をやる」


メアリーの兄は色々と説明し、キッザーに水を投げ渡してくれた。


「僕はキッザーだ。ガキって名前じゃない」


口をふくらませて子供みたいに怒るキッザー。


(お前は充分子供だよ)


リボは口を膨らませているキッザーを見て呆れながら思った。


「私の元々の名はNo.0201だ。だが、キッザーがつけてくれた名はリボだ」


リボはメアリーの兄に自己紹介をした。


「俺はナイトメア・D・ホンディーだ」


ナイトメアはメアリーを担いでリボ達を誘導しはじめた。荷物をそれぞれ担ぎ、砂漠の中を3人は歩きはじめた。


「この人形の主人はお前なのか?」


ナイトメアが口を開き、キッザーに聞いた。


「私に主人などは存在しない。キッザーはただの旅仲間にすぎない」


キッザーではなく、リボが答えた。


その台詞を聞いていたキッザーの笑顔は消えてしまう。


その様子をナイトメアは逃がすことはない。


ナイトメアはじっとキッザーを見て返事をする。


「そうか」


「私はこの町のどこかに有能な情報屋がいると聞いてここに来た。約2世紀前はこの街は情報都市だったと聞いている。今もその情報屋が数がたいぶ減っているとここにきてわかった。今もあり続ける有能な情報屋、お前は知っているか?」


リボはナイトメアに聞く。


「……今、向かっている俺らの家。そこが、お前達が探している数少ない情報屋だよ」


「本当か?!」


「そんな偶然って」


リボは顔が輝き、笑顔をあふれさせるが、キッザーはこの状況を怪しむ。


「偶然じゃない必然だろ」


ナイトメアはキッザーを鼻で笑った。


 キッザーはナイトメアのドヤ顔見て、腹立たしく、ムッとする。


そのときだった。


「「!!」」


ナイトメアとリボは息ぴったりの警戒態勢に入った。


「どうかしたの?」


「すごい数の人か人形がここに向かってくる……!」


リボは両手にサブマシンガンを握った。


ナイトメアは短剣を取り出した。


この砂漠では大剣を振り回すほど体力を消耗しょうもうするだけなので、ナイトメアは短剣を選んだのだ。


次第に東側から砂埃が異様な範囲でたっていた。


リボはこのとき何かしら感じてはいた。

人形に感じることはできない。

だが、何かを感じていたのだ。


(なんだ? 私の胸辺り何かがうずいているようだ……)


リボは胸元の服を握り、顔をひそめた。すぐさま目玉の中の遠隔レンズを変えると、すぐに遠隔レンズから元に戻した。


「なんなんだ? あの数……! あの戦争ほどではないが、こんな人数どこから連れてくるんだ?」


リボは驚愕きょうがくし、頭が真っ白になった。

リボが見た敵の数は1,000体以上はいたのを確認した。


「なんだ? あの椅子に座っている奴……」


大群はナイトメアの肉眼でも見えるようになり、ナイトメアが言った。

数に呆けていたリボはナイトメアの言葉を聞いて我帰りに確認をとった。

確かに豪華な椅子に黒ずくめの人か人形かわからないような奴が座っている。


5メートルほどの距離まで来ると大勢の人形がリボ達に飛びつくように襲って来た。


ナイトメアは短剣を片手に人形を斬りつける。


リボはサブマシンガンを両手にキッザーを守るように人形達を撃ち続ける。


「き、きりがない」


リボはやばいと思い始める。


そして、ナイトメアがすごい汗をかいて踏ん張っていた。


(この暑さではもう耐えきれないな……)


リボには暑さはわからないが気温、湿度はわかる。


そう思った瞬間ついにナイトメアは人形達に取り押さえられた。

ナイトメアは人形に罵倒ばとうするが、人形なので意味がない。


そして、人形達はキッザーとメアリーを捕まえる。


「この野郎! メアリーを離せ。汚い手でメアリーに触れるんじゃねぇ!!」


捕まってなお、ナイトメアは叫び続ける。その叫びはあまりにも震えていて、恐怖に包まれていた。まるで、もう何もかも失いたくないように。


そして、リボもナイトメアについ気をとられて後ろから押し倒されてしまい、敵にうつぶせ状態で両手も抑えられた。


「リボ!」


キッザーは暴れたが、びくともしない。


すると、人形達は半分に分かれて、そこに大きな道ができた。


そこに人か人形かわからない人物がリボのいるところへと歩いて来た。


「お久しぶりです。お姉様」


目の部分だけ出ていて目が滑稽こっけいなものを見るように目が笑っているが、そいつは全身黒ずくめの奴だった。


「どういうことだ? お前ら仲間なのか!?」


ナイトメアは敵意をリボと黒ずくめに向けて、再び暴れてだし、聞いた。


「はっ! 誰が仲間だ。こいつなんか死ねばいいです!」


黒ずくめの奴はリボの顔を踏む。


「私はお前なんか知らない」


リボは自分の強い眼差しをその奴にぶつける。


しかし、そいつはそのことを聞いて、眉を上げ、全身黒ずくめだったのが、着ているものを掴んで脱いだ。


15歳くらいの女の子で大きな黒いリボンをつけて、髪は金髪の淀んだゴールドのショートヘヤー。闇のように真っ黒の目の色は危険を感じさせる。黒いタンクトップにミニスカート。後ろに細長い刀を2本持っていた。


胸も豊かで、もう少し言えば身長がリボより低くキッザーよりは高いことだった。姉妹のわりに顔は似てないが、雰囲気がどこか似ていた。


この妹も人形なのだろう。


妹は動物に例えると危ない匂いを漂わせる黒豹のようだった。


「私は妹など知らん。私はいらん記憶はとことんメモリーの奥へ放っておくのでな」


リボは、妹を名乗る人形に吐き出した油をほおける、睨みつける。


「いいわ。教えてあげましょう」


妹と名乗るものは更にリボの頭を踏み、地面がくぼんだ。


「私はNo.0202! お姉様と同様に人間なんかの感情の一部を持っているのよ! さぁ、映画でもはじめましょう! 昔々……。それは180年前のお話ですっわ!」


No.0202はリボの頭をもっと地面に食い込ませる。


「No.0201ねぇさま。起動をお願いしまし!」


リボは舌打ちし、言うことを聞くことにした。


『過去のデータを起こします。どのくらい前のデータを起こしますか?』


リボの目はうつろになり、声を発すると別の女のアナウンスが流れる。


「そうね……。180年前でお願いいたしますわ」


No.0202はふふふっと笑った。


『了解しました。データを起動します』


リボは口を大きく開けた。すると、映像カメラが出て来た。


カメラから映し出された映像は平凡な庭だった。


綺麗に整っている。花や木が綺麗に生いしげっている。


そこに二人の老人と今と姿が変わらないリボが庭に入って来た。


その映像を見たNo.0202は眉を顰める。


老人は杖を突いた男性でリボは綺麗な可愛いピンクのドレスを着ていた。そして、頭に現在のリボも付けている大きな赤いリボンを付けている。今とは変わりのない姿だが、その表情は幼さを感じさせ、元気いっぱいの希望に満ち溢れているひまわりの花のように元気な女の子にしか見えなかった。


老人は元気よく庭を走り回るリボを嬉しそうに見ていた。


そして、庭に置いてある椅子に座り難しそうな本を読み始めた。


「見て、見て!」


小さな子供のリボは無邪気に四つ葉のクローバーを老人に見せる。


「四つ葉のクローバーだね」


老人はリボに笑って答えた。


「四つ葉の……クローバー?」


リボは可愛らしく首を傾げる。


「ああ、そうだよ。その四つ葉のクローバーを持っていると願いが叶うんだ」


「わぁ、すごいね。じゃあ、おじいさんにあげる!」


リボは満足そうな笑みを浮かべて渡した。


「ありがとう、No.0201よ。優しい子だね」


おじいさんは嬉しそうにリボの頭を撫でた。


「えへへ。おじいさん、おじいさんは何をお願いしたいの?」


「私か? そうだね。No.0201が人間になってくれたら嬉しいね」


おじいさんは遠い目で青い空を見上げた。


「人間? おじいさんと一緒になるってこと?」


「嫌かな?」


きょとんとするリボを見ておじいさんは苦笑いを浮かべた。


「ううん。私、おじいさんと一緒なら嬉しい!」


リボは無邪気に笑って庭を走り回る。


そこで、玄関のベルが鳴り響いた。


「どなたかな?」


おじいさんは何かを待っていたかのように少し早歩きをして玄関のドアを開けた。


リボもその後について行く。


『No.……0809で……ござい……ます。例の……物を渡しに…………』


ボロボロになった青年の人形が家の中に倒れ込んだ。


そして、弱々しくそして不気味に黒く光る石をおじいさんに渡した瞬間に人形は機能停止してしまった。


「ありがとう。No.0809よ。直してやるからな」


おじいさんは青年をそっと抱いて研究室に入って棚に人形を置いた。


「No.0201!」


おじいさんが叫んでリボを呼んだ。


研究室の出入り口の前で立っていたリボはすぐにおじいさんの元へと駆け寄った。


「No.0201、妹が欲しくないかい?」


リボの頭を撫でて言った。


「……妹?」


リボはおじいさんの手の中にある真っ黒で禍々まがまがしい嫉妬しっとの石を見て言った。


「ああ、そうだよ。妹とはね、時には寂しいときや悲しいときに姉妹が支え合うんだ。No.0201君がお姉さんになるんだよ」


リボは石を見て不安がったが、おじいさんの顔を見て自信を持った。


「おねいさんかぁ……。楽しみだね!」


リボは嬉しそうに笑窪えくぼを作って笑った。


おじいさんも安心して笑った。


「では、はじめるかの。待っていなさい」


おじいさんはリボの頭を撫でた後、1年間を掛けて研究室に居座った。


しかし、結果はうまくいかなかった。


リボは座り込んで頭を抱え込んだおじいさんを見て、おじいさんの傍へと駆け寄った。


「すまない。君のような素晴らしい人形はできないみたいだ」


リボは研究机を見た。


未完成な女の子の人形がそこにあった。手足もない。


しかし、起動しているはずがないのに起動されているみたいだった。


見られている不気味感があった。


「おじいさん。私はおじいさんといれれば平気だよ。気にしないで」


「優しい子だよ。本当に……。No.0201よ。紅茶を入れてはくれぬか?」


おじいさんはか細く笑った。


リボも妹になるはずだった未完成の人形を見てから笑った。


そして、時が経ち、13年後あの戦争が起きようとしていた。



感情があるリボには悲しくて辛い戦争が待っていた。


おじいさんはリボをかばったが、連れて行かされ、未完成の人形も連れて行かされた。


その中にNo.0202もいた。


そこで映像は終わり、リボは意識を戻す。


No.0202は両手を広げて、悪魔みたいに笑った。


「そして、私は連れて行かされて、研究員どもに作りなおされたんですの。私が、作りなおされた後にどうしたと思います? 殺してやったわ! もちろん全員ですの! 自分の作った人形に殺されるというあの恐怖に満ちた顔が堪らなくイってしまったの! 思い出しただけで身震いが止まらない」


そのことを聞いてリボとナイトメアはくずを見るような目でNo.0202に向けた。


No.0202は両目を瞑り、嬉しすぎて頬を赤く染め、息が荒くなると何度も身体を震わせて悶える。


「そして、運命の人に会えた。やるべきことは徐々に進めている。残っているのは復讐よ……! 製作者ができなくて悩んでいるとき、私は起動していたの。そして! お前が幸せそうにしているのに嫉妬した。私の製作者を持っていって……。私はあなたが憎かったのよ。製作者に特別な扱いを受けていたお前に嫉妬したのよ!」


No.0202は腰に付けている二本の刀を抜いて両手で持って大きく振り上げた。


「死んでくださる? おねぇさま」


No.0202は不敵な笑みを浮かべた。


しかし、リボは動揺しなかった。


「忘れてしまったのはすまなかった。だが、お前は私が見ない間によっぽどの屑になったんだな」


「ふん。減らず口を。ま、あんたはここでくたばるのよ!」


No.0202は笑って刀を振り下ろした。


「…………?」


そのとき、リボは小さく何かを呟くように言った。


「……!」


その途端、No.0202の顔は真っ青になった。


真っ黒の2本の刀はリボの顔に刺さる寸前で止まった。


 


 


「ね……! ねぇたら!」


真っ黒な空間の中にNo.0202にそっくりな女の子が浮いていた。


女の子は真っ白なワンピースを纏って白いリボンを付けている。


だが、No.0202と似ているのだが、顔が部分的に違って目を潤ませ、大人しい感じの目を持っている。性格も弱々しさを感じられる。


まるで、1本だけ咲いている鈴蘭のようだった。


「何よ!?」


今度は真っ黒のワンピースを纏っていて真っ黒のリボンを付けている。


No.0202に似ていて、強気な性格を持っていそうだ。


今戦っているそのNo.0202そのものだ。


「もう、やめようよ」


「何よ! 今更!」


「だって、おねぇさま動揺もしないんだよ?」


「馬鹿なのよ……」


黒No.0202は聞く耳も持たない。


「じゃあ、どうして私達の事がわかるの? どうして二重人格って気付いたの? どうしてか言える?」


涙をぐっとこらえて気弱な白No.0202は訴え続ける。


黒No.0202は黙って考えた。


「私は本当の人格よ……! とりあえず、引きましょう」


「ここで? あと、一息で……!」


「いいから! ちゃんと様子見なきゃ」


黒No.0202は悔しそうに唇を噛み締めた。


その行動で血のようなオイルが滲み出る。


「わかった。様子を見よう」


黒No.0202は肩を下ろし、ため息をついて言った――――


 


 


 


「会議は終わった。引き上げるぞ」


No.0202は苦々しくリボを見ると舌打ちをして刀を納めた。


リボの上にいた人形達はぎこちなく首を傾げてリボから降りた。


「やはりそうか……」


座り込んでオイルを少し吐き出した。


「お前の目の色が少し違っていたのでな。しかも、お前の相棒さんが目で語っていたよ」


No.0202はげんなりした表情で言った。


「最初の間だけ何かを殺すたびに変わりましたの、この泣き虫に目だけ」


「泣き虫に」を強調させて言った。


「克服できたと思いましたのに……」


No.0202はイライラし始めて、髪をクシャクシャと掻きはじめる。


「それは残念だったな」


「もう、気分は最悪で仕方がないわ。ここは一旦引かせてもらうことにしましょう。また最っっっっ高の舞台を用意させて頂きましょう!」


普通の会話なのにとげを感じた。


そして、ふんっと鼻をならして、引いて行く人形達の中へと消えた。


「ねぇ、リボ、大丈夫? 今の何だったの? なんで見逃してくれたの?」


人形達に解放されたと同時に、キッザーがリボの元に来て、聞いた。


「私なら大丈夫だ。歩きながら説明しよう。ここは体力が保たなくなるだろう」


リボはナイトメアに手を伸ばすが、ナイトメアはその手を無視して1人で立った。


「この位どうしたことない」


「どうだか」


やれやれと首を振る。


「疲れて倒れた奴が何威張ってんだか」


「うるせぃ!」


リボが馬鹿にするとカッと怒鳴るナイトメア。


「お前はあいつらの仲間じゃないのはわかった。だから、案内も続けよう。ちゃんと説明しろよ」


ナイトメアはメアリーを担ぎ、「ちゃんと説明しろよ」と言ってリボに指差した。


「わかっている。だが、あまり話に突っ込んでくるなよ。喋り疲れて倒れてしまったら、こっちの立場が厳しくなるんだからな」


リボは馬鹿にするように鼻で笑って言った。


その横でキッザーが温かく微笑んでいた。


「さぁ、行くぞ。キッザー、自分の荷物は自分で持て」


リボはその辺に落ちていた大きな荷物を拾い、砂を払い退けてキッザーに渡した。


キッザーはブツブツと文句を言うが、皆は歩きはじめる。


「あれは本当に私の妹だ。皆にも迷惑かけてしまった。すまない」


リボはずんずんと砂漠を歩く。


「何故、ここに来たかと言うとあいつは私と同じ感情を持っているみたいだ。だが、一部とも言っていたな」


「お前、あの感情石の1つのか!?」


ナイトメアはリボが注意したのにもかかわらず、話を中断させた。


「質問はあとだ。とにかく歩け」


リボは呆れた顔でナイトメアを見た。


「~! わかったよ、話を進めろ」


ナイトメアはリボの呆れた顔に腹を立てたが、今はエネルギーを消耗するより歩くことを優先しようと頑張って歩く。

ナイトメアは何故か嬉しくもどかしいのか口を噤んだ。


「あいつは私を作った人に優しくされたが、あいつは誤作動によりずっと軍兵に連れていかれるまで私をうらやましがっていたんだ。もし、動けたら自分も私みたいに優しくされたのではないかってな。そして、私に嫉妬し続けた」


リボは一呼吸をしてまた語る。


「なぜ、去ったのか気になるだろ?」


二人とも軽く頷く。


「あの時刺される寸前にあいつの目だけが怯える目になった。あのサディストがだ。だから、敢えて聞いたんだ。『おまえは誰だ?』とな。私は、こいつが二重人格だって気づいたんだ。あいつは何故わかったのかと焦る。そして、態勢と情報を整えるため一旦帰ると予想した。サディストにはムードにこだわる奴もいるんだよ。だから、もう少しでクライマックスを自分が止めてしまい、ムードを壊してしまった。だから帰った。ってのもあると思う」


三人は黙々と砂漠を歩き続ける。


「質問していいか?」


ナイトメアが水を飲みながら聞いた。


「ああ、もういいぞ。なんだ?」


「お前は……本当にあの伝説の感情石の1つなのか?」


ナイトメアは目を何故か幼児みたいにキラキラさせて聞いた。


「すまない。私は何もわからないんだ。私が1体なんで笑ったり、泣いたりできるのかもわからない」


リボは言ってもいいのか、困っているキッザーを無視して、リボは平然と答える。


「いや、絶対あの伝絶級の品物の石だ。人形には軽蔑けいべつするのも出来ないからな。さっきお前の妹に軽蔑していたからわかる。しかも妹まで嫉妬までして恨んでるって言っていたからな」


「そうなのか?」


「ああ、お前は本当に泣いたり笑ったり怒ったりできるか?」


「うん! リボって、すごいんだよ! 泣いたり、笑ったり、拗ねたり、照れたりしてすーごく、可愛いんだ」


キッザーはリボの代わりに人形にはできない特有を話す。


「だっそうだ」


リボはあまりにも詳しすぎるキッザーに呆れてしまう。


ナイトメアは構わず質問をする。


「恋とか嫉妬、怒ったり、威張ったり、食い意地が張っているとか、願ったりとかだらけたりとかしないのか?」


「しないよな?」


「うん。おじいさんのために人間になりたいらしいけど。それはおじいさんの願望らしいから。リボは願ってないね。あとはしてほしいのは、特に恋と嫉妬」


キッザーは奇妙に涎を垂らして嬉しそうに言う。


「あいつのことはほっといてくれ」


「え?! 放置? でも、そんなプレイも大好きだよ!」


ナイトメアは頷いて、話を続ける。


キッザーは本当に無視続ける2人に喚いたが聞いてもらえず、いじけた。


「あくまで俺の仮定の話だが、。感情の石とは七つの大罪が抜けた残りの感情なんだよ。人間は七つの大罪で成り立っていると言われているが、実際そうか? 俺はそうは思わないな。嬉しい気持ちや恥ずかしい気持などそれも感情の1つだが、その嬉しい気持ちは七つの大罪のどれかに入るか? 答えは否だ。確かに好きな奴に褒められたら嬉しくなるのは色欲だ。だが、親に褒められて嬉しくなるのは色欲か? 色欲は性的な欲望って意味だ。親に性的な欲望とはちげーだろ。まぁ、そうなりゃあ、犯罪だがな」


「確かに。だが、これはお前があくまで思っていることだ」


リボは片手をあごに添えて考えにふける。


「ああ、そうだ。まぁ、でもお前の力は七つの大罪の残りでの感情でお前はどんなときだって泣けるし、笑う。」


「七つの大罪って実際何があるの? 色欲はわかったけど」


キッザーがふざけるのをやめて真面目に聞いた。


「七つの大罪は色欲、暴食、嫉妬、傲慢、憤怒、怠惰、強欲だ。お前の妹は嫉妬だっただろう? その石の力は嫉妬内で出来る感情が表に出る。嫉妬で泣くことが出来るが、人が死んだ悲しみはわからない。泣くことはできないんだ。人間は感情で肉体的に強くなったり、弱かったりとするから大事なもんだと思う」


「なるほど」


「あくまで俺の仮定の話だ。本当なのかはお姉に聞いたらいい」


「わかった、ありがとう」


リボは自分自身が知ったことに少し安堵し、優しく、愛らしく笑った。


その愛らしさにナイトメアの魅入られてしまう。


「おぉ……。おれは別にかまわないけどさ……」


その様子を見て、苛々して、拗ねてしまい、いつもより倍くらいに頬を膨らますキッザー。まるで蛙だ。


「それより、お姉の情報網はやばいから期待しとけ」


「ああ、そうさせてもらうよ」


「お姉が言っていたことは本当だったんだな! 早くお姉にも知らせなくちゃな!」


ナイトメアは姉をよく慕っているのだろう。興奮して、歩くスピードを上げた。


「その話を聞かしてくれたのは姉なのか?」


「ああ、そうだぜ。お姉はあの話が好きなんだ。よく聞かせられたんだよ。俺はその話は信じていなかったけどな。あの煙が見えるだろ? あれが店だ」


確かに煙突から煙が立っていた。


ナイトメアは店の前に着くと綺麗な店の近くにある池の水を飲み水を頭にぶっかけている。


キッザーは地面に大の字になって倒れ、息を荒々しく肺に息を入れた。


店はサラサラの砂漠にはさすがに建ってはいない。


あまり広くもないセメントの上でちゃんと建っていた。


店の横には綺麗な水が池の中に溜まっている。


店の出入り口を開けたのはナイトメアだった。


ナイトメアはメアリーを担いで中に入り、リボとキッザーも後に続く。


中は紙や本ばかり重ね上げている。


あまり足の踏み場がないし、中は電気も点いていない。


「誰かいないのか?」


ナイトメアに聞いた。ナイトメアはロングチェアーにメアリーを寝かせていた。


「なわけがないと思うぜ? おーい! 馬鹿お姉!」


叫んだ瞬間に上から物音がした。


「ほら、いただろ?」


階段から下りてくる音がした。


「何度同じ事を言わせればわかるんじゃー!」


そう言ってナイトメアの姉らしき人はナイトメアの頭に跳び蹴りを喰らわした。


「いってぇな!」


本棚に飛ばされたナイトメアが言う。


「む……。メアリー、また出したのか?」


店の中にメアリーを横にして寝かしている事に気づく姉。


「ああ、そうなんだよ。大丈夫かな?」


「貧血だよ。上で寝かしときな」


ナイトメアの姉は暗い部屋の中でも見ただけで判断してしまう。


ナイトメアはホッと胸を撫で下ろした。


リボはやはり情報屋ということもあり、怪我や症状の経験も豊富ということに少し驚いていた。医者でもない限り、パッと見ただけでは判断も難しいものである。


しかし、情報屋はあっという間に暗い部屋でもわかってしまった。


「昔から怪我とか見てきたのか?」


「まぁね、お嬢ちゃん。でも、年上には敬語はつきものだよ。こっちゃあ280歳なんだから。人形のお前ですらまだ作られてないだろうね」


(さすが、情報屋だな。3世紀近くも生きていてお元気なご老婦なんだろう)


顔は暗くて見えない。


「電気点けようね」と言ってパッと電気が点いた。


「!?」


リボは目をパチクリさせ、口をパクパクと空気を欲しがる魚ように開閉している。


目の前にはご老婦ではなく、若い女性が立っている。


垂れ目だが気が強く見え、美人だ。


女性はチャイナドレスを着て、髪は左右両方にお団子をして綺麗に化粧までしていた。


「どうせ、婆だと思った顔ね。精神年齢が280歳、肉体年齢は28歳よ。私はね、人の10分の1しか肉体年齢は年を取らない。そういう病気なんだよ」


(さすが、長寿! リボが人形だってこの暗い部屋でも一発でわかっちゃうんなんて)


キッザーは冷や汗を垂らして感心しているとリボはコホンと咳をして、納得した。


キッザーは開いた戸を閉めた。


「私の旧名はNo.0201でも、今はリボという名をくれたのがこちらの少年はキッザー・ホークアイスです」


「私はこの情報屋のオーナーを勤めているエリナ・ソフィーナさ。あの子らの義理の姉だよ」


エリナはタバコを吸い始めた。


「で、何が聞きたい?」


「私は何なのか知りたいんです。そして、人間になるにはどうしたらいいのか、それはどこにあるのか」


リボは率直に聞いた。


「お姉! こいつ8つの感情の石と関係があるんだと思うんだ」


ナイトメアがメアリーを運び終わったため階段から降りて来ながら言う。


「何を根拠にそう言うんだい?」


エリナはニヤッと悪ガキみたいに楽しそうに笑った。


「こいつ、人形なのに感情があるんだ。それでな、七つの大罪のどれにも当てはまらないんだぜ!」


「それが本当ならそうなるだろう。確かに笑うのかい? 泣けるのかい?」


エリナは少し考え耽ると口を開く。


「はい」


リボは淡々と返事をするとエリナは有名人が来たかのように驚いた。そして、前髪をかき上げて笑った。


「こりゃあ大物が来ちゃったねぇ! まさか感情の石とは」


「やはりナイトメアが言った通りなのですか? リボは入れ物なんですか?」


1人で笑うエリナにキッザーがオドオドして聞いた。


「それは後で教えてあげよう。……にしても感情があるのに何故そんなに無なんだい?」


エリナはリボに近づいてリボの横にいたキッザーの頭を撫でた。


「私がこうなってしまったのは……」


リボは俯いて下唇を噛んだ。


「人形戦争をやってからあまり感情を出さなくなってしまったのです」


馬鹿にするように笑っていたのをやめ、再度悪戯っぽく笑う。


「いい情報持っているじゃないか……。私はね。情報交換でこの店をやってるの」


「つまり、お代は欲しい情報ってこと?」


キッザーが聞いた。


「ああ、そうだよ」


「それならお安いご用だ」


リボは顔を上げた。


「でも、ありがとう」


「?」


「あんたらを戦争なんかのために巻き込んでしまってすまないと言うほうが正しいかもね」


エリナはタバコを吸って吐いていた。


「人間は人形に恨まれても仕方がないね」


「いいえ、人間を恨んだら私の大切な人まで恨んでしまう事になってしまいますよ」


戦争に勝手に連れて行かれ、おじいさん以外は勝手な人間ばかりがいると思っていた。


リボは涙を流しながら笑った。


(これまで見知らぬ人に礼を言われたが、戦争して礼を言われるとは……。私はただ無駄なことをしてしまったと思っているのに)


「……」


キッザーはこんなに澄んだ人形を初めて見た。


(なんて綺麗なんだろう……)


キッザーはその姿に見とれてしまった。


貧民街で見たリボより更に美しさがあった。


エリナはニッと笑った。


「気に入った! 今日はもう遅い。泊まっておいき」


「やったー! ありがとうございます!」


キッザーは飛び跳ねて喜んだ。


「この喜びは野宿ばかりしていたね?」


エリナはわははと笑った。


「そうなんです。もう腰が痛くて!」


エリナは余計に腹を抱えて大笑いした。


「すみません。お世話になります」


リボは恥ずかしくなってきた。


「いいや、気にすることない。ほんと、素直な子供はいいねぇ!」


最後はからかいにしか聞こえなかった。


リボは余計に恥ずかしくなってくる。


「この3階の奥に1つ空いている部屋がある。そこを使うといい」


エリナは笑って流した涙を拭きながら言った。


リボは一礼してキッザーと一緒に上がって言った。


「わぁ、広いね」


部屋に入るとベッドとランプと箪笥たんすしかなかった。


「そうだな」


リボは少しいしげたようなに返事を返す。


「どうしたの? どうしていじけてるの?」


キッザーは首を傾げて聞いた。


「何でもない! お前はここにいろ! 私はあの兄妹を見てくる!」


リボはキッザーにツンとした物言いをして部屋をあとにした。


「もぉ、可愛いなぁ。リボは……」


キッザーは苦笑して言った。


そして、部屋の窓の傍に来て窓を開けた。


「父さん、母さん。僕はどうしちゃったのかな? だって、リボが笑ったり、泣いている顔を見ると心がズキズキするんだ」


キッザーはそう言って綺麗な月にお願いした。


 


 


「入るぞ」


リボがドアをノックしたらナイトメアの声がした。


「いいぞ」


リボは許可を得ると入った。


「なんかあったのか?」


ナイトメアはリボの行動が荒いことに気が付いた。


リボはあっという間に顔を紅く染まった。


「ない!」


「わぁ、顔赤いぜ?」


ニヨニヨと馬鹿にするように笑うナイトメアを無視した。


「よくなったか?」


「ああ、だいぶ良くなってきた。ありがとうな。まさか、人形に借りができるとは。俺もまだまだだな」


ナイトメアは自分の駄目さ加減に溜息ためいきをついた。


「人形を舐めるな。それよりメアリーと言う名だったよな? 目を覚ましたぞ?」


ナイトメアはそれを聞いてメアリーの方へと振り向いた。


「お兄ちゃん……。リボさん」


「よかった……」


ナイトメアは声を聞いて安堵あんどした。


「もう喧嘩してないの?」


ボーとして聞くメアリーをナイトメアは抱きしめる。


「よかった……! 本当によかった……」


ナイトメアのすすり泣く声が聞こえた。


(どうして人間はこれほどか弱い生き物何だろう? 私はそう思います。間違っていますか? おじいさん)


リボは2人の兄妹を見て思った。


「リボさん」


メアリーの声ではっと我に返る。


「兄を止めてくれてありがとうございます!」


メアリーは天使のように可愛らしく笑った。


自分が止めたのも知らずに……。


「いや、止めたのは私ではない。お前だよ。メアリー」


「私? じゃあまた……」


メアリーは泣きそうな声を出して俯いた。


「メアリーのせいじゃないよ」


ナイトメアがムッとリボを睨んでメアリーを慌ててなだめる。


正直に言っただけのリボは肩をすくめる。


「そろそろあの光の力は何か聞いていいか?」


リボは遠慮しないで聞いた。


「あれは……」


メアリーが答えようとした。


しかし、ナイトメアがメアリーに手で制した。


「俺が言う」


ナイトメアは覚悟を決めたと言うかのようなため息をついた。


「メアリーは魔術師なんだ。このペンダントの模様は魔法陣」


「なんでそんなに使って欲しくなさそうなんだ?」


「メアリーはまだ9歳。9歳で魔法を強力に使えるのは稀にしかいない。すごいことだが、使えば、体は保たないんだ。まだ、未熟だからな。使うほど寿命が縮む。だから使わせたくない。でも、俺達の親の形見はこれだけなんだ。肌身離さず持っておきたいんだ」


ナイトメアはメアリーの頭を撫でながら言った。


「エリナさんは義理の姉と言っていたな……。親はどうした?」


リボの声には同情が欠片も混ざってなかった。


「親は人形に殺されたんだ……」


「……」


 


 


 


―― 8年前――


ナイトメア、9歳。


メアリー、1歳。


「いやぁぁぁ!!」


断末魔の叫びが飛び交っていた。家々が燃え盛り、崩される。


飛び交う悲鳴や、魔法の呪文を叫び、魔術が飛び交った。


ここは魔法の発祥地はっしょうちの街だった。


兄妹の街にいきなり攻めてきたのは沢山の人形だった。


「ナイトメア。いいかい? ここに隠れているんだ」


「お兄ちゃんなんだから、メアリーを頼むわ」


額に血を流し、尊敬できる父は息子の頭を撫でて瓦礫の陰に隠した。


優しく微笑み息子を安心させる、自慢の綺麗な母。


「父ちゃん!」


「これ以上、私達の子どもを傷つけたくないの。わかってちょうだい」


すでに人形達のせいでメアリーは所々に火傷を負ってしまっている。


そして、首飾りをしていた。


あの魔法陣のペンダントだった。


「母ちゃん、行かないで! お願い、1人にしないで!」


泣いて叫ぶが、ナイトメアの父と母は振り替えらずに燃え広がる炎へと消えてしまう。


ナイトメアは瓦礫から出ようとしたが、人形がこちらに来たことを確認し、すぐに瓦礫の陰に隠れる。


メアリーには薬で何も知らずに寝ている。


でも、効果が切れたらどうなる?


火傷の痛さで泣きだしてしまうかもしれない。


そして、ばれて殺されるかもしれない。


メアリーだけは何としてでも兄として助けなければならない。


ナイトメアは自分の考えていることにぞっとし、とりあえず安全なところを探そうと人形に見つからずに出ようとするがメアリーは泣き出してしまう。


ナイトメアは焦って走り、大広間に出た。


しかし、沢山の人形に囲まれてしまった。


ナイトメアはメアリーを自分の身体で覆い被さるように守るように隠す。


『排除』


1人の人形が言い、武器を構える。


『『排除』』


沢山の人形が言い、武器を構える。


ナイトメアはもう死んでしまうのだと思い、目をつむった。


「こんなガキと赤ん坊に寄ってたかって苛めて楽しそうだね。私も混ぜておくれ」


ナイトメアは目を開けるとそこにはチャイナ服の女性が立っていた。


女性は1体の人形を瞬時に殴り倒し、次々と襲ってくる人形を倒し、ついには全員倒してしまう。


「おばさんは誰?」


あまりにも圧倒的な力に驚いてしまう。


しかし、女性は顔を引きつって、ナイトメアの高さに合うようにしゃがみ込む。


そして。


「誰がおばさんだってぇ? おねぇさんよく聞こえなかったなぁ?」


ナイトメアの頭を掴み、片方ではこぶしを作っている。


あまりにも怖いと言葉の威圧感を感じたので、とりあえず言い換えるナイトメア。


「おねぇさん……」


女性は納得して話してくれた。


「あたしはエリナ・ソフィーナ」


 


 


 


「何故、ここに来たのかって聞いたら、必然だよって言ったんだ。お姉はそれから俺らのために旅をやめてここで自分の今までの経験したことを売っているんだ。俺らのために」


「そうか。だから、復讐のために人形狩りなんてしているのか?」


リボは考え込むように顎を擦る。


「そうだ」


ナイトメアは背中の短剣に手をやり、リボが攻撃してこないか様子をうかがった。


「それはすまなかった」


ナイトメアはてっきり、リボも人形狩りの犠牲者の復讐をすると思って警戒したが、リボは深々と頭を下げて誤った。


ナイトメアは驚いてリボに聞いた。


「な、何でお前があやまんだよ!」


「いや、例え私じゃなくても私達人形が起こしてしまったことだ。だからと言って許されことではない。謝らせてくれ」


ナイトメアは唖然とリボを見た。


「もう気にしてないやい! いいからこの部屋から出ていってくれ」


ナイトメアは口を尖らせて、シッシッと手で指図する。


気にしてなかったら人形狩りなんてしないだろう。


リボはナイトメアの素直ではないことにニヤッと悪戯な笑みを浮かべて部屋を出た。


 


 


「珍しいねぇ……。本当に。それがまして、人形だとねぇ」


部屋を出ると壁に凭れかかっていたエリナがいた。


「……」


リボは、気づいていたかのように別に驚きはしなかった。


「これからもあの子等をよろしくね」


(これから……?)


どういうことなのか聞こうとしたが、すぐに下の階へと下りってしまった。


リボは何も聞かずに自分の部屋へ戻った。


部屋にはキッザーがいなかった。下にでも降りていて食事でもしているのだろう。


リボは気にせずコンセントが後ろに来るように床に座り込みエネルギーを補給のため服をめくり背中の折りたたみ式のプラグを立てて差し込む。


(早くおじさんに会いたい。もし、会ったらどうしようか)


 そう思いながらエネルギーを消費しないよう仮停止する。また、呼ばれればすぐ起動できるようにするためだ。


 


 


「リボ、降りておいでぇ」


キッザーに呼ばれて起動するリボ。


リボはプラグを抜いて立ち上がり、下に降りると四人は椅子に座って紅茶を飲んで楽しんでいる。


「リボ。まず、先払いで頼んだよ」


エリナは大人っぽく微笑んだ。


「わかりました」


リボはキッザーの空いた席に落ち着く。


「何年前かは知っての通り、174年前の話になります」


 


 


 


「離して! 助けてぇ、おじいさん!」


リボは軍人に連れ去られそうになっていた。


「頼む。その子だけは見逃してくれぇ!」


おじいさんは軍人の足に引っ付く。


「これは国家の法令だ。いいからあのNo.0201の扱い方を教えろ」


軍人はおじさんの胸あたりのシャツを掴み上げ、銃を向ける。


おじさんは悔し泣きをして唇を噛み締めて血が出る。


「あの子の起動スイッチがある。背中スイッチにある……」


おじいさんはそこまで言うと泣き伏せてしまう。


「よし、行くぞ。そいつの背中の起動スイッチを押せ。静かになる」


軍人は通信機を使って伝える。


『了解』


「おじいさぁー……」


リボはそこまで言うと動かなくなってしまった。


 


 


次に目が覚めたのは、真っ暗な広い部屋。


リボは閉められたドアを叩いて、何週間も怒鳴り続けていた。


「おじいさぁん、おじいさぁん! おじいさぁん!!」


「無駄だよ……」


少し離れたところに少年の人形がいた。


周りにも動かない人形やバッテリーがなくなって動かない人形もいた。


「どうして無駄なの? ここはどこ? どうしてこんなに沢山の人形がここに集められているの? 私は捨てられた……の?」


リボは最後の疑問は力なく聞いた。


真っ暗な部屋に1つ鉄柵で囲んだ窓がある。その窓から月の光が差した。


月の光のおかげで話しかけて来た少年の姿が見えた。


緑色の綺麗な目をした大人しく綺麗でどこか悲しそうにも見えるが、無表情な少年だ。


「ここの扉はレーザービームさえ効かない。こないだ確かめた奴がいたからね。ここは城の特別な牢屋みたいなところ。どうして集められたのかは近々ここの国と外国で戦争をするみたいなんだ。兵士は生身を使わず、人形を使う。君はどうかはわからないけど、僕は売られたんだ」


少年のセリフに感情は籠められていない。リボのように感情を持っていないから。


「ごめんなさい」


「いいんだ。別に」


「私達はここでじっと指をくわえて待たなきゃだめなの?」


「うん。時が来たら戦うのさ。むなしいだけの戦いをね」


リボはその後、少年はサーカス団員だと知り、サーカスの話を聞かせてもらった。


そして、3ヶ月すると牢屋のドアが開いた。


リボ達は用意されていた服や武器を持たされ、撃ち方の見本だけを見て戦場へと行かされた。何もない荒野で敵と戦う、戦う、戦う。


リボは油だらけになっても戦い続けていた。その辺には首のない体、首だけ、顔が潰されているのがそこら辺にゴロゴロと転がっていた。


その後、3年が経つとこの国は勝った。私が唯一、1人だけ生き残ったのだ。


私はまだいるかもしれない敵を勝ったのもわからず、3週間近く放浪し続けた。


もしかしたら、あの少年はいるかもしれない。もしかしたら、生き残ったのかもしれないと思い、自分は探した。結局その少年は見あたらなかった。


そして、迎えが来て、自分勝手な国の奴らに自分勝手に起動スイッチを押され、永い眠りから目覚めると液体カプセルに永久保存されていた。


多分、また何か護衛に使う気でいたのだろう。


しかし、私は自力で起動スイッチを入れてあの城を出た。


 


 


 


「まぁ、ざっとこんなもんだな」


「これじゃあ、リボが可哀想だよ」


メアリーは頬を膨らませて両手でベシベシと机を叩く。


「そうだね。しかし、私達のためでもあるんだ。身勝手である。本当にすまないよ」


エリナは悲しそうな目で窓を見た。


リボは笑って、スッと一筋の涙を流す。


「これで2回目ですよ。礼を言われるのは……。こんなに戦争のことでありがとうなんて。また涙を流してしまいすみません」


リボは嬉しそうに言い、涙を拭いた。


「いいや、かまわないよ。本当に泣くんだねえ。何度見ても驚くよ」


エリナはタバコを吸って吐く。


「俺もだ」


ナイトメアも顔を赤くし、口を尖らせて言った。


キッザーがその姿を見て笑うと、横に座っていたナイトメアに殴られた。


「エリナさん、聞かせてください」


「わかっているよ」


エリナは仕事机に行き、2つの巻物を取って来た。


「まず、あんたの石が他の石の大きな入れ物って知っているかい?」


リボは首を横に振る。


「ナイトメアに少々聞きました。昔話があるそうですが、それは聞かされてません。七つの大罪とその入れ物の感情の石その石がそれぞれがそろえば何かしらあるようなこと聞きました」


「まぁ、いいだろう」


タバコを吸っては吐く。


「じゃぁ、その石等が存在する昔話をしよう。昔昔あるところに8つを一つ一つ人形の体に埋め込んでいる人形達がいました」


エリナは紅茶をすする。


「八人のそれぞれ感情の石を持っていた。

1つは感情の石を持った、女性の人形。1つは色欲の石を持った、男の子の人形。


1つは嫉妬の石を持った、男性の人形。1つは強欲の石を持った、男性の人形。


1つは傲慢ごうまんの石を持った、女の子の人形。


1つは暴食の石を持った、男性の人形。1つは怠惰たいだの石を持った、女性の人形。


1つは憤怒ふんどの石を持った、男性の人形。


それぞれの石を持った人形達は感情の石を持った彼女をとても慕って、愛した。


ある時にある人間の旅人が彼女達に悪の花を植え付けた。彼女達に人間達が信じて探している伝説があると人形達は楽しい話だと期待して話を聞きました」


キッザーは何となく童話みたいだなと思う。


ナイトメアとメアリーはこの話が好きなのか目を輝かして聞いていた。


「旅人はこう話しました。『昔に神からもらった8つの石があり感情あらぬもの。その石を持つとそれぞれの感情を持つであろう。もし、この石が8つ揃えば願いを叶えたり』そう話すと旅人は去った。その後に残った人形達はただの嘘話として信じようとしなかった。だが、話を信じたものが1人いた」


キッザーとリボは話の雲行きが怪しくなるのを感じた。


「それは強欲が信じていた。強欲は感情の石を持っている彼女自身を欲しがっていた。彼女は手に入らなかった。だが、強欲は人間にもなりたかった。


強欲は人間になり、彼女を作り直すことに決めた。そして、強欲はその夜に計画を実行した。強欲は6体を殺し、残ったのは嫉妬と感情の石となった。


嫉妬は皆に愛されている彼女に嫉妬していた。でも、良心は彼女を助けた。嫉妬は二重人格なのだ」


リボは苦い顔して自分の妹のNo.0202を思う。


「嫉妬もまた、やられてしまい、感情だけが残った。感情は言った。『強欲よ。この石を捧げます。立派な人間になるんですよ』そう言って、心から彼女は強欲が人間になれるように願い、自分で石を抉り出し、自害した。強欲は自分のと合わせて八つを揃え、願いを叶えようとしたが、あの旅人が現れて奪い、強欲を殺した。旅人もまた、人形で願いを叶えた」


エリナは冷めた紅茶をすする。


「これが八つの石の伝説話さ」


「私が……」


リボは唾を呑んだ。ナイトメアが言っていたとおりだった。


「そうさ。感情は他の入れ物。リーダーみたいなものさ。まぁ、ナイトメアが話してくれた通りだ」


エリナはナイトメアを見て微笑んだ。


「あんたの感情はあと七つの感情の器なんだ。嫉妬、強欲、傲慢、怠惰、憤怒、色欲、暴食の抜け落ちた感情があんたの能力さ。だから、泣き、拗ね、笑うことができる。人間なるにはこの話が本当なら石をすべて集めて来ないといけない」


リボは自分の石についてナイトメアから推測を語ってくれていたが、ようやく本当に確信を得て、安心したように深い息を突いた。


「どうした?」


「私は、他の人形とは違うことはよくわかっていました。それは不安もあります。私は何者なのか。人形なのに人間技ができることに私はどこかに自分を嫌悪していたのかもしれません。ナイトメアが言っていたように私は大きなパズルの枠なのですね。今日の機会に私を知れてよかったと思います。ありがとうございます、エリナさん。私はあなたに感謝するばかりだ」


「何を言ってんだい。これは私のビジネスなんだよ。気にしないでおくれ」


エリナは苦笑を洩らす。だが、キッザーにはそれは嬉しそうにも見えた。


リボは深々と頭を下げて再度言う。


「ありがとうございます。石のありかはわかりますか?」


「ああ、わかる。しかし、質問はこれで2回。こっちの交換条件をのんでもらう」


「わかりました。何ですか?」


エリナはメアリーとナイトメアを見る。


「ナイトメアとメアリーを旅のお供にしておくれ。この子達に色んなものを見て欲しい」


「お姉。何を考えているんだよ! 俺は嫌だぜ」


「お姉……」


ナイトメアは怒鳴り、メアリーはこの展開についていけずに驚愕していた。


「ナイトメアはわかんないのかい? リボについていけば、強くなれる。あんたら弱いからねえ。メアリーも魔法の使い方を勉強しに行きなさい。可愛い子には旅させろさ。リボ、この子達を強くしてくれ」


リボはナイトメアとメアリーを見た。


ナイトメアは舌打ちしたが、鍛えるのが楽しみなのかニヤニヤした。


メアリーはオタオタしている様子でエリナを見ている。


「全部の石のありかはわかっているのですか?」


「強欲、憤怒、嫉妬、怠惰以外は知っているよ」


「では、乗りましょう。その話」


リボは仕方なく承諾して、苦々しく笑う。


その笑みを見るエリナも微笑んだ。


「言うと思ったよ」


エリナはもう1つの巻物を広げた。


広げた巻物は地図だった。


「この都市の北側に町があるんだ。その間に森があって、その森に傲慢がいる。その森に2つの道があってね。左に行く湖が見えてくるだろう。その先の町に色欲がいる。暴食はトライングシティの東の通ると結構離れた場所に小さな町にいることだろう。以上だ」


リボは狐に抓まれたように突っ立っていた。


「どうしたの?」


キッザーが聞く。


「トライングシティって言いましたか?」


「ああ」


「……会えるかもしれない」


リボは呟くように言った。


「え?」


キッザーは聞き取れずに首を傾げる。


「すぐに行こう!」


「言うと思ったよ。用意した。持って行きな!」


エリナは悪戯的な笑みを浮かべた。


リボはすぐに荷物を持って夜にこの家を出た。


「おい、待てよ!」


ナイトメアは荷物を持って苛立ちながら店から出たリボの後に続く。


「お姉……」


メアリーは荷物を持つとエリナに抱きついた。


「ナイトメアを頼むよ。あいつは、すぐに突っ走ったり、落ち込みやすいんだ。元気にするんだ」


メアリーの頭を撫でて外に追いやった。


「お姉……?」


メアリーはエリナを見据みすえる。何かをさとるかのように。


「……。行っておくれ。メアリー」


エリナは両目を片手で隠すと、スッと一筋の涙を流した。


メアリーはやっと決心がついたように深く頷いた。


「優しい子だ」


呟くようにエリナが言うとメアリーは兄の元へ行った。


「ありがとうございました」


キッザーは荷物を持って、ぺこりと頭を下げた。


「いいんだよ。きっと実るよ」


キッザーは顔が赤くなるのを感じる。


「なんのことですか?」


キッザーはとぼけてみるが、エリナは笑うだけだった。キッザーはリボの元へ行こうとしたが振り向いて苦笑した。キッザーはまた前を向いて走った。


追いつくと後ろを見た。キッザーが振り向くと、どんどん家が小さくなる。


そのときだ。瞬く間に家がリボの髪色のような赤々とした炎に包まれた。


「え……?」


キッザーは立ち止まり、ナイトメアは気がついてしまった。


「は……?」


ナイトメアも立ち尽くしてしまう。


「どうした?」


リボも自分達が出てきた場所を見て目を丸くする。


「お姉ぇ!!」


メアリーは泣き叫んだ。


メアリーは家へと走った。


3人もメアリーの後へと続いて走った。


 


 


「初めまして」


炎に包まれた家の中にいたのは、嫉妬の石を持った人形がいた。


「初めてのくせになんだい? この歓迎はなんかね」


エリナは家の有様を見て言った。


No.0202は二刀の刀を抜いた。


「ずっと家の近辺に待機して何の用だい?」


「気づいていましたか? 流石私のモデルになってくれた人ですわ」


No.0202はただ空笑いをしただけだった。


「確かあの人かい? 完成品は初めて見たよ」


エリナは家に飾っていた2本の刀を抜いた。


「昔は色々むちゃしたからね。あの人に頼まれた。私の容姿をモデルにしたいってね。しかし、製作者はリボがいうおじいさんって言うより……」


「私は私のことを知っているあなたを殺しに来ました。私のことは私だけ知っていればいいので」


No.0202はエリナの話を割って入り、刀を構えた。


エリナは抜いたが、構えようとしない。


「構えてください」


No.0202は無表情で言った。


「名前は?」


「……は?」


「名前くらい置き土産においていきな!」


エリナは悪戯っぽく笑った。


「では、聞いた本人が言うのが礼儀でしょう?」


No.0202は眉を顰めて不機嫌に言った。


「それもそうね。私はエリナ・ソヒィーナよ」


エリナは着ていたチャイナの裾を破り、真っ白な足を見せた。


「私はNo.0202ですの」


No.0202は警戒し始めた。名前を言えばすぐに戦闘が始まると思ったからだ。


「それが名前かい?」


「そうですわ」


エリナの真っ白の刃が煌めく。


「つまんないね……。それは!」


エリナがNo.0202に牙を剥ける。


エリナの刀とNo.0202の刀がぶつかり合う。


(……! 重い)


No.0202の両腕に振動が伝わってくる。


「久しぶりの獲物は強いねえ……」


エリナの目が残心でNo.0202を見つめる。


エリナはバク宙をしてバランスを取るとNo.0202の横腹を切ってしまう。


切れ味は最高だ。


No.0202の横腹がスパッと切れて血の代わりにオイルが噴き出す。


No.0202は怯まない。


No.0202は獲物を狩るような目付きで舌をペロリと出す。


そして、エリナがNo.0202を襲おうとするとNo.0202は平行に刀を切った。


容れ違いするとエリナの背中は綺麗な赤色の血に染まる。


「っ……! ……そうだ。私がNo.0202の名前をあげよう」


「どうして、そんな余裕をかましているのですか?」


No.0202はエリナから距離を取る。切られたはずなのに笑顔なのだ。気がふれたのだろうか?


「さぁ、最後にしましょう? 楽に殺してあげましょう。280年間お疲れ様でした」


No.0202はエリナの笑顔など気にせずにニヤニヤ笑う。


「気が早いねえ。エゲツさと気が早いのは誰に似たのやら?」


エリナは呆れてため息を吐く。


No.0202とエリナはお互い向かい走り、お互いはこう言った。


『さぁ、殺し合いをはじめましょう』


No.0202とエリナの2人は通り過ぎた。


エリナの体から熱く赤い血が噴き出す。


No.0202は勝利と血を被れた笑みを浮かべた。


しかし、その笑みもすぐに消えてしまう。


No.0202の愛用の刀が2本とも粉々に砕けてしまったのだ。


「……!」


No.0202は声が出ない。


(さすがに長生きした分だけ強いわけか)


No.0202は倒れたエリナを睨みつけ、エリナの刀を拾った。


「やる……よ」


エリナはれた声をこぼし、笑った。


「なぜ死に際に笑うのですか?」


先程にも思ったことだ。切られたはずのに笑っていたのだ。No.0202の期待する顔は痛みに疼いた顔だ。痛くて耐えられない。死にたくない死に恐ろしさの苦痛の顔だ。


それを期待していたNo.0202は期待を裏切られたような気がした。


「思い……残しが…………あるからかね……ぇ?」


「それは嫌なことですのよね?」


「嫌な……こと…………さ。私は3世紀……近く生きてきた。だから、…………私は思ってねえ……。私は悔い……も残さず死…………ぬんではな…………いかってねえ……。それはちぃ………とつまら……ないからね……。でも、最後に強い子に……出会えたから……幸せだよ。ありがとう……」


エリナは息を荒げて微笑した。


そんなエリナを冷たく見下ろした。


No.0202は礼を言われたことに驚きを隠せないでいる。


「私もあなたみたいな人は初めてですわ」


No.0202は呟くように言った。


エリナはそう言われてはにかんだ。


「名前……を…………考えた…………。No.0202では…………なく、これから…………エリナと名乗り……な……」


エリナはそう言うと笑ってこの世を去る。


微かに残っている笑顔をNo.0202は黙ったままエリナを見下ろす。


「どうしてあなたはあなたの名前を殺した相手にあげるのですか?」


No.0202はボソッと呟くように言った。エリナの行動が不思議でならないのだ。


(どうしてあなたは……)


「ねえ。ねえ……!」


心で疑問をぶつけようとするが、外から微かにメアリーの呼ぶ声がする。


No.0202は黙って声がする方を見る。


No.0202はエリナの亡骸を見て数分たっただろうか。


今でも家が崩れ落ちそうなことに気づきた。


何故か胸の辺りがモヤモヤする物を背負ってNo.0202はその場から去った。


 


 


「ねぇ。ねぇ!」


キッザーはメアリーが燃えている家に入ろうとするので止めている。


ナイトメアは呟いていた。


「何で、何だよ……。冗談だろ? そんなことしてきっと何処からか出て来て、俺をバカにするんだろ?」


リボは周りに犯人がいないか、遠隔レンズで探していた。


そのとき人影が見えた。


ここから20キロ離れた街のビルの屋上に立っている。


リボはレンズをズームした。


(No.0202……?)


リボは無表情のNo.0202を見つけた。身体は赤黒い染まっていた。


No.0202は情報屋を静かに見つめているように見えた。


 


 


No.0202は屋外で燃え続ける店を見る。


そして、片手を胸に当てる。


「私はエリナ・ソヒィーナ、あなたを認めました。なので、その名前を使わせてもらいますわ……」


エンヴィーは高く飛んでバク宙をしてビルから落ちて行った。


 


 


No.0202がいなくなるとレンズを元に戻して、ナイトメアとメアリーにはこのことは黙っておくことにした。まだ、確信ではないからだ。


(まさか、あいつがエリナさんを……?)


リボに怒りはないが心は締め付けられるような何かを感じた。


リボはどうしてもこの何かをわからなかった。

どうしても。

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