四、案内人はばいーんのぼいーん
とふとふとふ……
『失礼します。レムルス管理センターから参りました、コーディエ・ライトと申します』
控えめなノックに続いて、艶のある女性の声がドアの外からした。
すすすっと、音もなくドアの横につくブルー。
そして懐からショートサイズのショックバトンを……。
「あほかあっ! そんな物騒なモノはしまえっ!」
極小の声とともに、ブルーにちょっぷを繰り出すあたし。
もちろんそんなへなちょこちょっぷはあっさり受け止められてしまったが、ブルーがドア向こうにショックバトンを使うのだけは阻止できた。
「いきなり攻撃の意思を示してどうすんのよっ」
「気づかれるような真似はしないが?」
「何かあったら面倒でしょ。愛想よくするの。だいじょぶ、あたしが対応するから」
「ふん」
とふとふとふ……
『すみません。レムルス管理センターから参りました。コーディエ・ライトと申します』
「はぁい」
ドアを開けると、年齢は二〇歳前後、茶髪に黒い瞳、すらっとしつつも胸部が豊かな女性が立っていた。
すらっと……でも大人っぽくふっくらで……。
お見事なそのバランスに一瞬目を奪われ、思わずあたし自身と比較してしまう。
……うっ……羨ましくはないんだからねっ!
あたしだってあと五年もすれば、それはもうばいーんのぼいーんのせくすぃーだいなまいつ、かつ、きゅーとでぷりてぃーなエレガンスレディにっ!
いやいや、待って、あたしのチャームポイントは全宇宙の中にキラリと光る可愛らしさじゃない?
だから今のこのスレンダーキュートぼでぃのままでも……。
「あのぅ……中央からいらした査察官の方々ですよね」
あ、危ない……何か遠くまで行っていたわ、魂が。
「そうですぅ。あたし、マリア・フォフナー。ドクターです。正確には査察官ではなくて視察です。現状の写真を撮ったり、大きな改修が必要な建物を確認したりします。こっちがラウルベルトとアルベルトとレイ・アシュリー、代表はラウルベルト曹長なんですけど……」
「初めまして、ラウルベルトです。僕は中央出身なので、こちらの事情には何かと不案内で……初期防衛惑星出身のドクターの方が状況判断に優れておりますので、視察のとりまとめはドクターにやってもらうつもりです。よろしくお願いします」
「よろしくお願い致します。それにしても、ドクターは防衛惑星から中央のグループに入られるなんて凄いですね」
……確かに。
怪しまれるとしたら、あたしの素性とレッドちゃんの無感情な態度、かも。これは少しフォローが必要ね。
よーし、愛するレッドちゃんを守る為に頑張っちゃうぞー。
「所属惑星の医療がうまくいったんです。で、防衛惑星をまわる仕事にぴったりだって」
「成る程、どうしても医療は遅れがちですものね。中央では根絶した病気にかかる事もありますし」
にこにこと頷くライトさん。疑っている様子もない。
うんうん、良い人だ。
……でもなんだか聞き覚えがあるわね。コーディエ、コーディエ……?
んー……?
ううん、ここは余計な事を考えてないでお仕事お仕事。
「そうなんですぅ。それで、視察の予定ですけどライトさん。明日から町をまわって、その後は歩いて行ける範囲の確認をしたいと考えています。ですので、明日の九時頃から町を見たいと思っているんですけど、どうですか?」
「わかりました。ではまた明日、こちらにお伺いしますね。ああ、それと。わたくしの事はコーディーと呼んでいただいて結構ですから」
「よろしく、コーディーさん」
「いえ、ドクター。こちらこそ」
コーディーさんは笑顔で帰って行った。
◆
ここでは特に無表情さが目立っちゃうレッドちゃんは、コーディーさんとの話の間中グリーンの後ろに隠れるようにしていたんだけど、彼女がいなくなると早速お仕事の成果を見せてくれた。
■コーディエ・ライト
所属 :惑星レムルス
出身 :惑星ヘルド
家系ロット:プログラマー、クチュリエ
能力分類 :シビリアン
能力レベル:**
生年月日 :LA1507J15
年齢 :二一
職業 :レムルス統轄本部事務局事務員
現住所 :レムルス、カリナン、A12−5
……
レッドちゃんの持っているパッド端末の画面に、コーディーさんのデータがずらずらと並ぶ。
二一歳かぁ……あたしだってその頃には、きっと……。
いやいや、もう止めるべきね、このぐるぐる思考。
銀河一の可愛いあたしとはジャンルが違うのよ。うんうん。
デュフォンさんのデータもコーディーさんの後に続いている。
その後は一緒にいた補佐の二人と、統轄本部でお茶を出してくれたお姉さんまで続く。
レッドちゃんの能力、顔だけでも分かればコンピューター侵入で照らし合わせ出来ちゃうのは、さすが最上級ネットランナー。
でも、お茶汲みのお姉さんのデータは要らないんじゃないかしら?
「特に怪しいところはなさそうだな」
「僕、シビリアンって分類初めて見ましたよ。能力レベルも記載無しになっているんですね」
「辺境ならシビリアンざくざくよ。別に田舎暮らしなら出来る仕事をゆったり何と無くやってるだけで何とかなるもんなんだから。それに一応仕事があるのよ? 外部から攻められた時、取りあえず反撃の出来ない盾として、ね。やっぱり他星系の人達だって、人が住んでるとこ襲うのは心理的にハードル高くなるし」
「役目としてはそうらしいな」
「そ、住んでるだけで初期防衛、なんだから」
「実際に目にするとあまり良い気分では無いですね」
「そうでしょうね。でも、住人はそんなに気にしてないから、気にしないで」
生活している方としてはこれが日常。
気になんてしていらんない。
コーディーさんはふつーの市民で、ふつーの事務員さんとして、ふつーに町を案内してくれる。
裏は無さそう……とはいっても、あたし達が怪しい動きをすれば、当然デュフォンさんに報告するんだろうけどね。
……いや、待って。
コーディー……『コーディエ・ライト』
そうよ、思い出したっ!
ぺらり。
あたしはとりあえずしまっておいた『あの』パンフレットを広げた。
「あいつよっ! あいつがあたしに期待を持たしたパンフレットの作成者だわっ!」
「誰のことですか?」
「コーディーさんよ! ほら、奥付に名前が! 恐ろしいわ……膨らみかけたあたしの期待を無残にもぺしゃんこにした張本人だったなんて……能ある鷹は爪とかを隠してたのよ!」
「……いや、それはお前が勝手に勘違いしただけだろ」
「うっさい、うっさい! そんなのわかってるわよ!」
「他も見ておく」
何の他かはわからないけれど、レッドちゃんは再度ネットラン作業を始めた。
「多分、反乱する為の能力を持つと思われる人達を洗い出しているのだと思いますよ。ネットランナーやバトロイドなら確実です」
いや、ネットランナーはいないでしょ、どう考えても。
廃棄バトロイドの線はあるかな。
んー、でも。
「ねえねえブルー、バトロイドってどうやって廃棄するの?」
「ただ廃棄するのは危険だからな。暴走リスクや部位の転用による事故を排除する為に、潰すことになってる」
聞かなきゃ良かったわ。
非人道的すぎるわよぉ。しくしくしく。
でも、だとすると反乱分子がバトロイド、という線も殆ど消えたわね。
能力の低いコマンダーってことも?
……でもコマンダーがわざわざこんな辺境まで来るというのもないかな。うーん。
「おい桃色頭、何一人で面白い顔してるんだ?」
「してないわよっ! 考えてるんだからっ! あと、面白い顔じゃなくて可愛らしい『憂い顔』よっ!」
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