一六、終わり良ければ全て良し、あるいは物事には犠牲が付き物
こうして襲撃から始まったあたしたちのお使いは、襲撃で終わった。
……たぶん。
というか、終わって。お願い。
これ以上狙われたくないし、戦いに巻き込まれたくない。
あのあとあたし達は駆けつけてきた軍にバトロイドさんを引き取ってもらった。
ついでにブルーの応急修理もしてもらったり。
そうそう。
あのときグリーンに、『レナ4』の暴走のことを教えてくれたのはあっちのチームのメカニックさんだったらしい。
自分の宇宙船が制御不能になったので慌てて連絡してくれたということのようだ。
それにしても、もう戦う必要は無かったのに……何で『レナ4』はあたし達を襲ってきたのだろう?
ううん、違うわよね。あたしには分かってる。
――妬み。
自分の持っていない能力に憧れ、尊敬する気持ち……それを目標にしている間はいいのだけど、叶わないと思った時、悪い方へ転がるとそうなっちゃう、負の感情。
辺境にも、中央への憧れが悪い方に向いちゃって、最悪な結果になっちゃう人はいっぱいいた。
でもそれは人として当然の感情だ。
そうした憧れや思いが原動力になって、目標を達成させる。
まあ、実力が足りなければ努力も無駄になるんだけど。
無駄になった時に、どう考えるか。
選択肢は人の数だけある。
憧れの目標までには至れないけれど手前のとこで全力を尽くす。
他の目標を叶える。
成功者を妬む。
破壊活動をする。
宇宙港まで送ってくれた軍のホバーカーの中で、そんなことをとりとめもなく話していたあたしを、三人は何も言わずに聞いてくれていた。
帝国中央出身の三人にはわかりにくいだろう話だけど……それなりに思うところがあるのか、「ふん」とか「なるほど」とか首をちょっと傾げたりしている。
能力絶対主義に生まれて、決められた生活に疑いを持たないよう教育されて。
そんな三人にとっては想像もつかない内容の話のはずだけど、こうして聞いてくれて、考えてくれる。
そんな彼らって、素敵よね。
さっすが可愛いあたしの仲間、ふっふーん。
「むしろ先方の感情に欠陥があったのかも知れませんね」
「欠陥?」
「ネットランナーにしては短絡的すぎです。その場の感情で襲撃を命じなくても、後で挽回すれば良いでしょう?」
「うーん」
あたしとしてはレッドちゃんの『姉妹』の方こそ人間的だと思う。
だからと言ってレッドちゃんが人間的じゃないとも思わない。
レッドちゃんの無表情は遺伝子や何かの問題だろうし、負ける、悔しい、逆襲っていうのが本来の人間っぽいと思うんだよね。
あ、でも、上等な人間なら、悔しいことがあった後にするのは、切磋琢磨だけどね。
◆
「ともあれ終わり良ければ全て良し! レッドちゃん、一緒にお買い物しましょー! お茶も飲んじゃいましょー! ブルーも護衛宜しくねっ! じゃ、グリーン、頑張って!」
ちょっぴりお船が故障しちゃったあたし達は、しばらくこの宇宙港に宿泊することになっていた。
グリーンはとっても優秀なエンジニアって話だけど、お船を直すには数日くらいかかるみたい。
降って湧いてきたようなバカンスタイム!
きっと頑張ったあたしに、神様が微笑んでくれたのよ。
これを楽しまなきゃ、ばちが当たるって話よね!
「さーて、まずはお買い物よね。お店はどっちかしらん?」
ぐるりっと宇宙港のロビーを見回す。
『……現在、管制室にて離着陸を調整中です。以下の航空宙機航については、今しばらく待機をお願いします。セグラダ星系所属バルカン、ホウライ星系所属フォンフーレン、……』
宇宙港の館内放送がさっきから同じアナウンスを繰り返している。
『レナ4』とレッドちゃんがそれぞれの宇宙船を緊急発進させたせいで、宇宙港の発着は大混乱らしい。
あ。
混乱でごったがえす人混みの間に赤い髪が見えた。側には男性が三人。
目付きが悪いのと、同業者。
どうやらあたし達以外の『姉妹』チームがまだいたようね。
向こうの目つきの悪いのが、こっちに気が付いて手をあげた。
「グラント軍曹も騒動に巻き込まれましたか」
巻き込まれたというか、当事者というか……。
ブルーも手をあげて応える。どうやら顔見知りっぽい。
「ま、まあな……面倒な事だ」
「我が隊は幸い滑走路が空き次第離陸出来るのですが……」
野郎どもの会話は放っておいて、
「こんにちは」
あたしはあっちのレナちゃんに声をかけた。
「初めまして。姉のチームの方ですね。今後ともよろしくお願いします」
抑揚のほとんどない口調と無表情で返された。
まあ、レッドちゃんがここまでの長文挨拶をするとは思えないから、やはり個体の差は結構あるようね。
激情家のレナ4ちゃんと、平坦な話し方をするレナなんとかちゃんと、あたしの天使のレナちゃんと、他のチームのレナちゃんがみーんな揃ったりしたら……それはそれは壮観に違いないわ。
「そろそろ行きますよ。艦内で離陸許可を待ちましょう」
あっちのメカニックさんが妹レナちゃんに声をかける。
あたしは小さく手を振った。
妹レナちゃんがぺこりっと頭を下げて出艦ゲートに向かって行く。
レッドちゃんもあたしの隣で、首をちょっと傾げている。
多分これがレッドちゃんの挨拶なのよね。
「ふっふーん、やっぱレッドちゃんは素敵だわぁ」
すぱぁんっ!
「いったぁい! あにすんのよぉ!」
「ばかかお前は! 気軽に声かけてんじゃねぇよ。相手は上官だぞ。雲の上の存在だぞ、同じチームの仲間ならまだしも、よそのネットランナーに声かけんな。疑われたらどうすんだよ」
……あ、そっか。そうでした。
でも、まあ、レッドちゃんの姉妹なんだから大丈夫だと思うんだけどね。
あの激情家さん以外は。
いや……待って。
ブルーが心配しているのは、もしかして……そっちじゃなくて……。
「はっはーん。わぁったわ。いいのよ、照れなくっても」
「はぁ?」
「可愛い仲間のピンクちゃんが危ないことに巻き込まれたりしないか、心配になっちゃったんでしょう? でしょ?」
「なってねぇよ! 俺が気にしてるのは、チームの事だ」
「ふぅぅん」
「全力で殴るぞ」
「やめてお願い、身体全部が消滅しちゃうから」
あたしは己の命を守るべく、そして己の楽しみを実行すべく、ショッピングモールに方向転換した。
◆
ということで、これがあたしの帝国軍での楽しい初任務だったってわけ。
新しい仲間との、愛と勇気の冒険。
硝煙と爆発のスパイスと、愛する『もの』を無くした緑悲しい慟哭のBGM。
お船をピンクに塗り直していたら、あたしももうちょっと気にしたかもだけど……物事には犠牲が付き物だものね。
次は実戦らしいけど、このチームなら何でもできちゃいそう。
よーし、愛の為に頑張っちゃうぞー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます