一〇、休憩、ここからの話は重要機密

「それにしても、これってお届け物じゃぁないわよね」


「どうしてですか?」

 アイディスさん達が引き上げた後、あたし達は安全確認した部屋に居座り、簡易食で休憩を取る事にした。


 食事といえば、楽しい会話、あたしは話を振ってみた。

 任務が無事終わったからなのか、グリーンにも落ち着いて答えてくれるだけの余裕は出来たみたい。


「普通、スタートとゴールは違うものよ。場所は違ったけど、同じ人に会うなんておかしいし、つまんないわ」

「仕方が無いですよ。僕達は与えられた任務遂行が目的ですから」

「ふぅむ」


「大事な意味はあるんだぜ」

 仏頂面で黙っていたブルーが口を開いた。

「レッドからみたデータ収集が出来るだろ」


 自分の名前が出たレッドちゃんは、あたしの淹れた紅茶をゆっくり、でも延々ちびちび飲んでいる。


「美味しい?」

 あたしの問いに、首を傾げる。


 何を考えているのか、やっぱりよくわかんない。

 けど、きっと色んな事を思っているんじゃないかな。


「レッドさんが反応を返すのって、凄いと思いますよ。僕達三人は、一緒に試験プログラムに取り組んだり、訓練場で行動したりもしましたが、任務外の反応は殆どありませんでしたからね」

「やっぱ、愛の力よね。二人は運命の恋人なんだわ」

「はぁ? 運命とか訳わかんねぇ」


 確かに、『自分の伴侶』って概念がそもそもわからないブルーとかには、意味不明な話よね。


 あたしは出生管理を『悪』だと思っている。

 それが『好きな人同士の恋愛』を愚かな物だと決めつけているから。


 相手もわからない自分の子供が、自分の知らない所で生まれて、死ぬまで会えない、会ったとしても互いにわからないなんていうシステムが、効率と言う名の下に銀河中で行われている事が嫌だ。


 ……でもこれは、あたしが辺境でかなり自由に生活しているから考えられる事で、公言したらかなり危険。

 反乱思想の持ち主だとされて、捕まるのは必至。


 だからあたしはとりあえずにこにこしておいた。


 ブルーは別に追求もして来ず、あたしに向き直った。

 話をする気になったらしい。


「レッドがどうやってシステムを破ったかは、メインコンピューターが全て記録してるが、レッド自身がどういう演算をしたのかは表に出てないからな、それを記録するだろ。他には、レッドの視点から見た俺達の言動、戦闘時の動きなんかが記録されるんだよ。で、メモリーチップの内容を、メインコンピューターが精査して、成果を判断するんだ」


「えー? じゃああたしのラヴラヴ会話も?」

「危険思想発言じゃなけりゃ抜き出されないぜ。そんなの情報省としてもいらねぇからな」

 危ない。情報省にあたしの愛がだだ漏れになるかと思ったわ。


「つまりだ、誰に渡すかなんて関係ねぇってことだ。どうやったかの過程が大切なんだよ」

「ふむぅ」


 だとすると、何かおかしくない?

 情報省が管理した任務なのに……。


「じゃあ何であたし達が襲われたの? それも演習?」

「それなんだけどな」

 ブルーはあたしから視線を外した。


「ブルーには答えにくい話ですよ」

 グリーンが言葉をつなぐ。


「ブルーは主観で話すのが得意ではありません。僕もピンクさん程得意ではありませんが。ブルーにとって最重要な事は戦闘結果を出す事ですから、憶測や推測は基本的に禁止事項に抵触する事が多いんです」

「えー、勿体なぁい」

「勿体無い?」


 あたしの感想に驚きの表情を見せる二人。

 レッドちゃんもあたしを見つめてくる。いやん、ラヴラヴ。


「戦闘能力が高い人の推測は大概あたるわよ。というか、その道のプロの推測はほぼ正解。あたしだって病人を診れば原因がわかるし、グリーンだって機械をみたら結果を出せるでしょ? ブルーが思いついたんなら、あってるんじゃない? それが答えにくいなんて、せっかくの可能性を潰すみたいで勿体無いと思ったのよ」


 三人それぞれが、それぞれなりの笑顔になった。


 ブルーは悔しい様な、苦笑。

 グリーンは大きな笑み。

 レッドちゃんはほんーのちょーっとだけ、口角が上がった。


「せっかくだから言ってみてよ。辺境惑星の住人のあたしは、推測も憶測も気にしないで話をきくから、ね?」

「そうですね、僕もピンクさんの考えにのりますよ。話してみませんか?」


「グリーンのそれは命令ですか?」

「違いますよ、ただ聞いてみたいから」

「……」


 さあ、早く色々な憶測やら、真相やら、推測やら、思いつきを話すのよぉ!

 そう! 今あたしに必要なのは、情報と面白さ!

 ずっと仲間はずれだったあたしに、楽しいお話タイムの話題をぷりーず!


「恐らく、俺達とは別のチームが攻撃して来たんだと思う」

「はぁ?? 別のチームってなに?」


 思ってもいなかった言葉。

 別のチーム?

 あたし達のお使い……お届け物。


「そうでした。ピンクさんは、状況が全くわかっていなかったんですよね。僕がわかる範囲で説明しますよ。僕は最初に、これはレッドさんの為のプロジェクトと言ったと思います」

「そうよ。だからあたし、愛の天使として頑張ったんだから」

「ピンクさんが愛の天使かどうかはわかりませんが……」


 ……わかれ。

 そこ激烈に重要なとこだから。


「正確には、エスト遺伝子精査プロジェクトと言います」

 エスト遺伝子……。


 そういえば、レッドちゃんが呟いていた。

 エスト、エスト、エスト。


「ここからの話は結構重要機密にあたるので、他所で話さないで下さいね」

「ちょっと待って! 重要機密を聞いても良いか、自分に問いかけて見るわ」


 ふむぅ。


 軍の情報機密を知るのは、ちょっと危ない。

 否、かなり危ない。

 いや、激烈に危ない。


 けど、愛するレッドちゃんの置かれている状況を理解すべきか否か?

 それは命を掛けられる事なのか? どうなの自分?

 ちらっとレッドちゃんを見ると、自分でお代わりの紅茶を注いで飲んでいる。


 ……よし!


「おっけー、聞きましょう。重要機密。命があれかも知んないけど、聞かないとあたしの知的好奇心と、レッドちゃんへの想いが中途半端で気持ち悪い事になるわ。あ、でも、一緒にいる間は、あたしの事は守ってね。お願い」

「いや、僕に言われても専門家じゃないので、安全保障は出来かねますが、ブルーが何とかしてくれると思いますよ」


 かなり頼りないお返事をいただくあたし。

 しくしくしく。


「別れるまでは安心しろ、命は保証する」

「ええと、命の保証だけじゃなくて、身体全体を守って欲しいとこなんだけど……」


 人間って意外と、結構丈夫だから。

 腕やら足やら、あちこちもげちゃった後で『命は守っただろ』なんて言われたく無いし……。


「大丈夫ですよ。こう言ってますけど、ブルーは優秀だし、ピンクさんの事、嫌ってないと思いますよ」

「そうは見えないけど……」

「えっと、好きかどうかは……わかりませんが」


 まあ、ブルーの職業意識が高いのを祈るしか無いわね。くすん。

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