一○、自然豊かな郊外のテラフォーミング基地跡地
砂埃、土埃、砂塵。
がたがた石ころ道、もさもさの草っ原。
照りつける日差し、微妙な効き加減のクーラー。
そして遠くを走るインパラ……。
「僕は……もう、だめです……家族に、僕は最後まで頑張ったと……伝えて下さい」
「死なないから! 人間、車で自然豊かな郊外をドライブした位では死なないから!」
「気持ち悪い、です……ううっ」
「安心して! 車に乗る前にぴんくちゃん特製車酔いしても絶対えるえるしない薬を飲んでもらってるから!」
「それ、同乗者には助かるけど、グリーンの車酔いには意味ねぇよな……」
「そんな事無いわよぉ。酔い止めも皆んなに飲んでもらったわ。酔ってない筈なの、絶対よ。だからこれはグリーンのメンタルのせい。気のせい。気の持ちようが悪いだけ。実際、郊外ドライブ初体験のレッドちゃんも元気じゃない」
「僕大丈夫」
「ほら! あたしの腕を信じてないグリーンがわるいのよっ!」
「すみません、私の運転が悪いんです」
「コーディーさんは悪くないわ。こんながたがた道を進むんなら、自動車が一番よ。グリーンの大好きなホバーカーで進んで、傷だらけの泥だらけで、精密機器トラブルが起きたらレッドちゃんが大変よ」
本当は……もし移動中に修理が必要になったら、レッドちゃんでは対処出来ない。
もしも本当にホバーカーが故障してしまったら、メカニックと名乗っているレッドちゃんじゃなくて、プログラマーのグリーンが直してしまうことになるだろう。
――職業の偽装。
それが反乱分子に知れたら、そこから面倒な事になりかねない。
……っていう事で、グリーンも納得の自動車移動なんだけど、理屈でわかっていても、精神が付いていけない事もあるわよね。
あたしに出来るのは、チームとしてグリーンを応援する事だけ。
頑張れグリーン。
負けるなグリーン。
あたしとレッドちゃんの為に。
◆
「着きましたよ。テラフォーミング基地の跡地です」
抜けるような青空の下に、旧式の中型宇宙船が横たわっている。
周りには補助ユニットだった物が幾つも転がっていた。
「なっつかしー。あたしの
車酔いで、ふにゃふにゃになっていたグリーンが、目に怪しげな光を湛えつつ、よろよろとお船に近づいて行く。
機械大好き緑のやばい好奇心が発動して、精神が肉体を凌駕してるみたい。
うんうん、やっぱりまだまだ元気なんじゃなーい。
レッドちゃんも補助ユニットを観察している。
好奇心なのか、それともお仕事の偽装のためか。
それは分からないけども。
そのとき、ぽんぽんとあたしは背中をはたかれた。
後ろにいるブルーと目が合う。
お互い目線だけで小さく頷く。
そう、あたしの大切なお仕事を遂行しないとね。
「コーディーさん、しばらく調査に時間が必要みたいだから、あたしとお茶飲んで待ちません? 紅茶とクッキーを持ってきたんですぅ。あっちの見晴らしの良いとこに、シート敷いて休憩しましょう。車の運転も休息を挟まないと、危ないですもん」
「ありがとうございます。他の皆さんはいいんですか?」
「大丈夫です。運転手さんとお医者さんは、皆んなの命を守る仕事なんだから、いつも元気いっぱいじゃないとだめです」
あたし達がボロボロのお船から離れた日陰に陣取ると、レッドちゃんとグリーンが調査を始めた。
レッドちゃんはお得意のダイレクト接続はしないで、ハンドターミナルコンピューターを使っている。
確かに、ネットランナーという職業を隠しているのだから、直接機械にどうこうする訳にはいかないわよね。
対して、プログラマーという触れ込みのグリーンは、大きなザックからどうでもいいものを無造作に店開きしている。
あー、色々入れすぎて、目的の物が出ないのね。
……アホだわ、緑は阿呆。
そういえば、いつの間にかにブルーが消えている。
おそらく何処かで警戒中なんだろうけど、どうせ何処に居たって即反応出来るんだから、あたし達とお茶でも飲んでいればいいのにねぃ?
……でも、見晴らしの良い砂地と草地で潜伏出来るんだから、凄いわよね。
ほとんど平らな場所でどうやって隠れるのかしら。ふっしぎー。
ブルーを探したわけじゃないけれど、くるりと一周、景色を眺める。
昔使っていたんだろうか、ボロボロの小屋が三棟並んでいて、その横には炊事場だったらしい跡地もある。
うんうん、あれね……辺境名物テラフォーミング遺跡。
あたしの
「私、この景色が好きなんです」
遠くの空を見上げるようにして、あたしの隣でコーディーさんが目を細めている。
「何も無いところですけど……あのテラフォーミング基地を見ていると、昔ここに降り立った人達の気持ちが分かるような気がして」
「開拓時代はたいへんだったでしょうね」
「私もおじいさんからそういう話を聞いて育ちました。片田舎の小さな
あたしにもその気持はよく分かる。
辺境には辺境の暮らしがあって、幸せがある。
中央の人達には理解できないかもだけど、それはそれで大切なもの。
そう……コーディーさんの作ったパンフレット、それはこんなコーディーさんだからこそ作れたんだろう。
『辺境の輝く宝石』っていうのは……さすがにちょっと思い入れすぎだとは思うけども。
◆
「終わった」
あたしとコーディーさんが小一時間お茶を飲みつつ、辺境に良くある話をしているうちに、レッドちゃんとグリーンの調査が終了した。
レッドちゃんがてこてこと歩いて来て、あたしに報告してくれる。
「お疲れー。レッドちゃんもお茶どうぞ」
こくりっと頷いてお茶を飲むレッドちゃん。
いやぁん、照れ屋さんっ。
グリーンは現場周囲に散らばった、僕が我慢して何とか生活出来る便利な道具を必死に回収している。
あの顔は『うわああん、僕のお道具に砂やら葉っぱやらゴミやらが着いてるぅ!』かな?
「ピンクさんっ! 助けて下さい! 大変な事が起こっていますっ!」
「あに?」
近付いてみると、何の事は無い。
「荷物に蟻がたかってるだけじゃない。ぱんぱんって払ったら良いんじゃない?」
「虫を触ったら病気になっちゃうじゃないですかっ!」
「なっちゃわないし。それで病気になるんだったら惑星滅亡だし」
「ピンクさんと僕の耐性は違います」
「違いませんー。早く片付けて帰りましょうよぉ」
「俺がやる」
ひょいっとあたしの後ろから出現するブルー。
『僕ちゃん』の大切なお道具様たちを、ブルーは無遠慮にぺしぺしはたきつつ、表裏とチェックして、次々にザックに詰め込んでいく。
「埃が……」
「どうやっても完璧には落ちないわよ。持って帰って風を通すしか無いんじゃない。若しくは、予備があるんなら全部廃棄するとかね。といっても、廃棄はお勧めしないわ。新古品をそのまま捨てるなんて、此処ではあり得ない筈よ」
コーディーさんも片付けを手伝いながら、あたしの言葉にこくこくと頷く。
「中央の方にも色々苦労があるんですね」
「そうかもだけど、グリーンは特別に細かいのよ」
サバイバルもこなせるブルー、どう思っているかはわからないけれど表面には出さないレッドちゃん、元々辺境出身のあたし、四人の我慢出来るレベルはそれぞれ違うけど、少なくとも騒ぐレベルでは無いのよね。
「特別じゃないですよ、中央なら僕みたいな反応の方が普通です」
「そーなの? あたしはわかんないけど、ブルーとレッドちゃんは職業と性格で、クリアしてるけど、ね」
「ううう……」
「話はここまでにして、調査が終わったんなら帰ろうぜ」
ブルーが車に向かって歩き出したので、あたしはそれを追いかけた。
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