一一、惑星一つ吹っ飛ぶかも? キラキラデコレーションの罠

 帰りはホテルに戻らず、宇宙港に送ってもらった。

 わがままグリーンが、お船のバスルームを使いたがったからだったりする。

 グリーン曰く、ホテルのシャワーから出る水は、胡散臭いんだそう。


 むう……胡散臭いのはおのれだ。

 とはいえ、お船の中の方がお話はしやすい。


「今日調査したテラフォーミング基地についての見解をお話しします」

 久しぶりに屈託のない、爽やかな笑顔で話し出すグリーン。

 そんなに宇宙船おふねが快適か。

 実にわかりやすい。


「放置されていたあの宇宙船とユニットは、何かに利用されています。レッドさんの調査結果から考えられるのは、動力ユニットを利用して、エネルギーを安定して生み出そうとしている、若しくは生み出しているという感じですね。僕としての見解ですが、人の手が入っています。ごく最近の作業もありますが、数年前から少しずつ手を入れていますね。修理の方法や手順は、お遊びみたいで大した事はありませんが……ただ、それは僕が通常実施している修理との比較で考えた場合です」

「中央基準って事だな」


「そうです。この惑星で手に入る部品や、使える機器類などを加味して考えると、丁寧で最高といっても良いと思います。あの程度の材料でこれだけの結果を出せるのだから、感心します。辺境の資材事情は、もっと改善すべきだと思いますね。やはり、健康的で文化的な生活を送る為に必要な物は、帝国領内で過不足無く配備すべきですね。それから……」

「すとーっぷ。帝国民の健康と文化については今は置いておいてぷりーず。重要なのは、テラフォーミングユニットが修理されている事と、稼働している事よね」


 ……ふむう。

 いったいどういうことかしらー?


「桃色はどう考える? 自分の故郷でテラフォーミングユニットがいきなり稼働し始めたとして、そのエネルギーを利用するとしたら、何に使う?」


 ふっふーん。

 そういう話は辺境出身のあたしだけが答えられる質問よねー。

 あたしの呼称については後で議論するとして、あたしに聞いたのは正解だわブルー。

 遂に、ブルーもあたしの洞察力を頼る様になったのね。


 そうねぇ……。

 もし、故郷でたっくさんのエネルギーが使えるとしたら……。


「とりあえず、お祭りしなきゃねっ!」

「……聞いた俺が間違ってた」


「なんでよぉっ! 電気使い放題なら、お祭り提灯下げ放題じゃないっ。あたしの故郷では、昔の資料を参考に夏に楽しいお祭りをやってるんだけど、通常生活以外のイベントにまわす電力があまり無いのよね。お祭りをするために計画停電とかしたりしなくて済むんでしょ? 巨大スクリーンも使い放題なんでしょ?」

「ピンクさんの故郷は平和なんですね。でも今回は違うと思います。何も無い郊外で動力ユニットを動かして、お祭りなんてしないでしょうし、それ以前にユニットを使用する場合は中央政府に申請しなくてはいけませんが、出ていないのでは無いでしょうか?」


「申請、ない」

 グリーンの言葉をレッドちゃんが裏付ける。


「申請されていれば、僕たちに渡された最初の資料に明記されているでしょうし、惑星統轄であるデュフォン氏もあらかじめ教えてくれる筈なんです」

「でもでも、登録しなきゃいけないって知らないかもでしょ? ……って、そういえばあたしの故郷だとああいうのは自然公園のオブジェにしちゃってるけど、登録してるのかーしーらー? 子供が板っきれ立て掛けて秘密基地とか作ってるけど怒られたりしないかな?」


 グリーン達は顔を見合わせて溜息をついた。

 ……って、レッドちゃんまで溜息つくとかどーゆー事よっ。


「ユニットの動力は動かしてねーんだろ? 置きっぱなしでそのままにしてんなら問題ねぇよ。テラフォーミングユニットは、少ない資源で効率良く動かせんだけど、流石に時代遅れの遺品だからな、そのまま壊れても全く問題ねぇんだ」

「登録して電力の安定に役立てている惑星や、緊急時のサブ電源にしている惑星は多いんです。動かせる人材がいれば、ですが」


「つまり、正式な手続きをしていれば大丈夫だけど、してないのに動かしたら怒られるのね」

「怒られるではなく、罰則を受ける事になるかと」

 あんまし変わんない気がするけど、怒られるより怖い罰って事かしら。


「いずれにしても先ほど言ったように、レムルスの統轄事務局はこの状況を知らないでしょう。知っていて、それでも黙って隠しているのだとしたら、案内人がむざむざ僕達をユニットに案内する筈がありません。勿論、調査は滞り無く終わらせて、後から僕達を始末するという方法もありますが、それだと調査結果を僕達が出してからになりますから、僕達を抑えたとしてもデータは中央に行ってしまいます」

「データが中央に届けば、近くの軍が動いてお終いって訳ね」

「そうです」


「既に結果は送られているの?」

 あたしの問いに、グリーンとブルーが顔を合わせてレッドちゃんを見た。

 あたしも含めて三人からの視線を受けてレッドちゃんはふるふると首を横に振った。


「レッドは完璧主義だから、ユニット出力のエネルギーを何に使っているのか知ってから報告したいんじゃないか?」

 ブルーの言葉に今度はうんうんと頷くレッドちゃん。

 ……って事は、まだレムルスの不祥事は中央に行ってないって事ね。


 あたしはレッドちゃんの手を両手でがしっと握った。

「お願いっ!データを送るの、待ってくれない? 結果が出てもちょっとだけ待ってくれない?」

 ゆるぅりと首を傾げるレッドちゃん。


「何バカな事言ってんだ? 調査結果を報告しないのは軍への反乱だぞ」

「そうですよ、第一それを決める権利はピンクさんにありません」

「だからレッドちゃんに頼んでんじゃない!」


「理由は?」

 レッドちゃんがいぢわる青緑を手で制した。

 何か言いたそうな二人が黙る。


「報告したら最後、どんな理由だろうが、レムルス全体が悪いってことになるんでしょ? 帝国に反乱したとみなされた惑星ほしは、即、木っ端微塵にされたりもするって聞いてるわ。だから、絶対に帝国にとって敵対行動を取っちゃダメって、子供の頃から習ったし。もしこの惑星ほしの大部分の人達がこのことを知らずに今いるのだとしたら、その人達はどうなっちゃうの? その人達は小さい時に習った通り、真面目に暮らしているだけなんじゃない? それなのに事情を知らないで巻き込まれていきなり死ぬってことでしょ? そういうのは嫌なの」


 ゆるぅり。


 右に傾いていたレッドちゃんの頭が左に傾いた。

「いい、よ」

「何言ってるんですか。問題が起きたら連帯責任になるんですよ。僕達はいいけれど、ネットランナーとして期待されているレッドさんに何かあったら、どうするんですか」

「俺や桃色頭には代わりがいくらでもいるけど、グリーンやレッドには変えがいないんだぞっ」


 何それしつれー。


「僕コピーだし。代わりいるし。仲間のお願い聞く。大切」

 セリフ長っ!

 レッドちゃんの最長連続単語記録『3』をいきなりぶっちぎりで更新したのにちょっとびっくりした。

 けど、それだけあたしを仲間として大切に思ってくれてるってことよねっ!


「いやぁんっ! レッドちゃん大好きぃ! レッドちゃんにもあたしにも、人類全てに替えはいないけどねっ!」

「落ち着けバカ! お前に責任取れないだろ!? 無理だろ? 中央にバレたら悪くするとお前処刑されるぞ」


「まあ、そうかもね。惑星一つ吹っ飛ぶかもな情報が届くのを遅らせるかも、なんだから、あたしの命一つで済めば安いものよね」

 ブルーの表情がどんどん怒気を増して、赤を通り越して黒っぽくなってる。

 うわー……こわーい。


「命が惜しいわけじゃねぇけどな、そうなったら俺も処刑される。命を大事にする桃色さんとしては、それは避けたいんじゃねぇのか?」

「そうねぇ、けど、最悪の事態にならないかも知れないじゃない。データが揃う前に、あたし達が相手を見極めて、関係者だけを突き出せば良いんでしょ? 出来ればその関係者も温情が受けられる様に頑張ったら良いじゃない。何かする前に最悪の事態を考えるのは重要だけど、だったら最高の結果も考えて、取り組んでけば良いじゃない? 悪い方に行ったら、その時にまた対処する位、あたし達なら出来るんじゃないの?」


「ふふっ」

 グリーンが笑う。

「そうですねぇ。ピンクさんに何が出来るかはわかりませんが、僕達なら何とか出来るかも知れません」


 何それ何それ、実にしつれー。

「あたしは何でも出来ますぅ。専門的な事なら何でも出来るんですぅ。要らない子は居ないんですぅ」


「ちっ、しょうがねぇな」

 ため息をついて呆れた顔になるブルー。

「レッドとグリーンが認めるんなら、俺は従うまでだ」


 そうそうブルー。そうこなきゃ。

 やっぱり、世界は愛で包まれてないとね。


     ◆


 レッドちゃんとグリーンの解析によると、その昔テラフォーミング基地だったという、あのボロ屋から動力ユニットに向かって頻繁にアクセスがあるらしい。

 ……そしてリレイさんの自宅地下からも。


「まあまあ良い腕をしているみたいですね。それに、プログラマーだけではユニットは動かせません。彼のお友達で機械工学を学んで、現在レムルスの電気関係のエンジニアをしている方もいますね。ピンクさんに声をかけてきた方も、エンジニアですか」

 レッドちゃんの解析結果をにこにことあたし達に説明してくれるグリーン。


「あたしに声をかけてきた……それってマイアスさんのこと? じゃあ、マイアスさんに連絡してみたらどうかな?」

「敵に情報を流すのか?」


「このままにして関係者を全部洗い出したとして、あたし達が出て行くまで何も向こうからアクションが無かったら? あたし達はこの惑星ほしが消滅するきっかけになっちゃうかもでしょ。最悪の場合、最後の最後に動き出して、お船に手出しされたら面倒じゃない? あちらがあたし達の能力をどれ位と見積もっているかは知らないけど、ここまで大人しくしていると逆に怖くない?」

「う、宇宙船に手を出す……!? そ、そんなことになったら、また僕のシュレディンガーが……」

 ……あ、最悪の事態を想像してるっぽい。


「船の中で乱戦になるのは面倒だな。白兵戦ならせめて宇宙港で……」

 こっちは身体によろしくない想像をしてるっぽい。


「はい」

 唯一、全く動じないレッドちゃんが、あたしにモニタータブレットを渡してくる。

 何やらキラキラとデコレーションされた画面にメッセージが表示されている。


『――拝啓 トルク・マイアスさんへ


 こんばんはー、全世界の心の天使、愛の妖精、人類の救世主、ラブリーぴんくちゃん事、マリア・フォフナーですぅ。

 この間はお話出来て嬉しかったですぅ。

 マイアスさんが心配しているかと思って、仲間に色々聞いてみました。

 けど、ぴんくちゃんってば専門外だから難しい事はわかんなかったですぅ。

 それでも、マイアスさんならわかるかもなので、聞いた事をメッセージしますねっ。

 何かよくわかんないんですけど、昼間見に行った郊外の動力ユニット? が稼働してるとか。

 それの許可が取れてないっぽいので、あんまり良くないらしいですぅ。

 だからどうなるとかはわかんないんですけど、全部まとまったら帰還する時に報告するとか言ってました。

 確定はしてないけど、明日の夕方には出航出来るかもって言われました。

 何か許可取らないとまずいものがあるんだったら、先手を取って登録しちゃった方が良いと思いますよ。

 ぢゃなかったら、動力ユニットとやらを停止させて、何も無かった事にするとか?

 動力ユニットって、あれですよね、テラフォーミングに使った機械ですよね。

 あたしの故郷では、テラフォーミング遺跡って呼んで自然公園のオブジェにしているんですよ。

 これってエコロジーですよねっ。

 子供達が秘密基地とかにしたりもしてるんですけど、あれって動くんですか?

 稼働って言われてもあたしにはちょっとよくわからない話なんですよー。

 もし、あれが動くんだったら、あたしも故郷に連絡して、子供達が遊んでいる時に動いたら危ないって注意しないとでーす。

 どれ位動くか、マイアスさんは知ってます?

 ……数ミリ?

 ……数センチかな?

 三〇センチ以上動いたら近くにいる人が挟まれたりして危ないですもんね。

 良かったら教えて下さいねっ。

 あ、あと。

 明日の午前中はもう一回動力ユニットを確認するらしいです。

 今日はコーディーさんと二人でお茶したので、暇だったら遊びに来て下さい。

 お茶するのは人数が多い方が楽しいですもんねー。


      愛の妖精☆マリア・フォフナーより』


 ……。

 ……えーと。

 って、ええええええ!

「な、何よこれぇっ!?」


 あたしの叫びにそれまで自分の世界に浸っていたグリーンとブルーが近付いてきて、タブレットを覗いた。

「あはははは! か、完璧じゃねーかっ!」

「こ、これは、ふふふふふふ、ある意味、ピンクさんよりピンクさんっぽいですねえ」

 爆笑する二人。


「これ出す。時間制限あるから動く」

「あたし、こんなばかっぽく無い……」

「いやいや、こんなもんだぜ、あはははは」

「レッドさんは、ふふっ、ピンクさんの事を良く理解されているんですね、ふふっ」


 いやぁん、レッドちゃんったらあたしの事を愛のパワーで理解しまくり?

 ……って、違ぁーうっ!


「違うわよっ! これじゃあ、あたしがあまりにも仲間外れのおばかさんじゃないっ!」

 大笑いする青緑の脇で、やり遂げたという自信満々の表情なレッドちゃん。


 しくしくしく。

 レッドちゃんから見たあたしは、こんなにお間抜けさんなのぉ?


「いやいや、でもですね……ふふっ……これは、なかなか……うふふ」

 笑うのを押しとどめつつ、グリーンがあたしに話しかけてくる。

 うっさい、お前は敵だ。


 レッドちゃんはあたしをちょっと誤解しているだけよ、きっと、うんそう、誤解してる。

 ……しくしくしく。


「彼らがピンクさんを警戒しすぎると困ります。動いて貰う為のメッセージなんですから、ピンクさん自身の内容で無くって良いんです。マイアスさんはピンクさんと一回しか話した事がありませんよね。そして、ピンクさんを防衛惑星出身で、話しやすい相手と思って連絡先まで教えて来ているんです。レッドさんの任務の為に、これを認めて下さいませんか?」

「うう……」

 レッドちゃんの為、と言われると、弱い。


「それに、レッドさんはピンクさんの事を仲間外れのおばかさん何て思っていませんよ。これは釣り出す為に考えた、ピンクさんっぽさを出しながら、相手を誘う文章であって、実際にピンクさんが考えて書いた物ではないんですから」

「うん」

 グリーンのフォローになっているんだかいないんだかわからない言葉の横で、うんうんと頷くレッドちゃん。


 そして、未だに下を向いて、笑っている青、お前は許さん。

 青はこのお仕事が終わったら、全身こむらがえりになって苦しむといい。


「わかったわ。送った後でもいいからデータ頂戴。あたしが書いたんだから、ざっと覚えとかないとだめでしょ」

「うん」

 レッドちゃんがあたしのハンドターミナル端末にデータを送ってくれる。

 この目に痛いちかちかしたデコレーションは送ってくれなくてもいいのに……。


「返信が来たら、僕達に回して下さいね」

「りょーかい」


 ……にしても、あたしってばレッドちゃんの前でそんなに愛の妖精とか自称しまくってるかしら?

 とても重要な事実ではあるけど、ね。

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