八、百戦錬磨の違和感、知人とやらが引っかかる

 その後一通りぐるりと市街をまわって、あたし達はホテルに帰って来た。


 それにしても、この惑星ほしには子供がかなり多い。

 曲がりなりにも帝国領土であるからして、子供が生まれれば能力チェックを受けて、結果が良ければ移動する筈なんだけど……。

 辺境生まれだと低能力になる確率が高いから、故郷の惑星ほしに留まる場合が多いとはいえ、あたしの知る限りの医療データから推測しても、やっぱり子供の数が多過ぎる気がする。


 この惑星ほしでの能力チェックが甘いのか、出生率が高いのか。

 ま、あたしには直接関係無い話だけど。


「明日は郊外をまわります」

 コーディーさんはまだお仕事があるとかで、自動車に乗って去って行く。

 うむう、仕事熱心なのは良い事ね。

 あたしとしては幼馴染とデートというシチュエーションを望みたいけど。


 部屋に入るとブルーが渋面を浮かべる。

「またかよ」


 あたし達に座ってろと手で指示すると、慣れた手つきで照明の周囲、エアコンの中、電気ソケットなどからカメラやマイクを取り出して行く。

 ひょいひょいと面白いぐらいあっけなく見つける手際は、何だかマジックを見ているみたいで面白い。


 あっという間に一部屋終わらせると、続き部屋でもお仕事開始。

 戻ってきた時は相手の苦労の成果を手一杯に持って来た。


「全部」

 レッドちゃんの確認の一言に頷くブルー。


「また仕掛けたのねぇ。あたし達が留守の間に頑張ったのに、レッドちゃん達にかかったら何の成果もあげられないなんてちょっとかわいそう」

「本当にそう思っているのか?」


「全然。レディを狙うやつはきらーい」

「桃色頭がレディかどうかは別として、実力で俺たちを排除する気は無いが、動向は知っておきたいってとこか。ま、一回ばれてる事をやってくるような連中だから、大した事はねぇな」

「そうですね」


 今日一日中使い物にならなかったグリーンが、ベッドに寝転がりながら言う。

 何とか会話に参加出来る様になったのね。

 『早く帰りたい』という気持ちだけで動いている可能性が高いけど。


「俺としては、案内人コーディエ・ライトの知人とやらが引っかかる」

「なんだっけ? えーと……」

「スフェーン・リレイ」

 レッドちゃんが教えてくれる。


 いつもならグリーンがさくさく話を進めてくれるんだけど、今回はほんっとうに役に立っていない。

 そんなだめだめ緑のフォローをするレッドちゃんって、素敵。

 口数は少ないけれど、ちゃんとリーダーとして気を配ってくれているのねっ。

 あたしも頑張っちゃうぞー。


「レッドに調べてもらったんだが、コーディエ・ライトの家の斜め裏に住んでいる」

「幼馴染が近くに住んでるってだけでしょ? 問題無いんじゃない?」


「建物の隙間の向こう、知人の家の中から誰かがこっちを伺っていた。レストランで会った時も、連れとこっちを気にしていた」

「単に自分たちの幼馴染に変な連中が悪さしてないか、心配だったんじゃないの?」


「中央から来た視察が変なことする訳ねぇだろうが」

「そおゆう意味じゃないわよぉ。前にも言ったけど、辺境の人間は中央の人間だっていう理由だけで警戒するの。しかも複数で異性もいるって聞いたら心配になるじゃない。事によっては中央に連れてかれちゃうんじゃないかなーとか」

「理由に納得はいかないが、そんな事なら問題は無いだろうけどな。どうも、目付きが気になる。この違和感は確かだ」


 えー。

 殺し屋みたいな目付きのブルーにそれを云々言われるのはねぇ……。


 とはいえ、百戦錬磨のブルーの違和感を無視するのはまずい。

 こういう勘は大概あたる。

 専門家の経験則は尊重すべきよね。


 で、も、あたしには関係無い話でもあったりする。

 障害を排除するのがブルーの仕事、メカトラブルを解決するのがグリーンの仕事、コンピューター全般を受け持つのがレッドちゃんの仕事。

 あたしは彼らの身体および精神に支障が出た時、健康体に戻すのがお仕事だから、疑わしい相手を詮索する必要はこれっぽっちも無い。


「そっかー。じゃあそっちはよろしくね」

「ああ」


 あたしはデータをこねくりまわして検討するレッドちゃんとブルーを放って、どうしようもない緑の健康チェックをする事にした。

「あのね、グリーン、カルチャーショックはわかるけど、そろそろ諦めてくんないかしら。がっくりしてても、文明は湧いてこないのよ。自動車に乗らなくちゃいけないし、食事も普段と違うし、睡眠カプセルも無いけどね、これを受け入れて、任務に励むべきよ。言っておくけど、体に異常は見られないわ。ストレスチェックもしたけど、ぼんやりする程の数値じゃ無いの。わかる?」


 ベッドに座ってほっそいじと目であたしを見上げるグリーン。

「つ・ま・り、あなたは健康。メンタルもまあまあ大丈夫。今の状態はただの、お☆さ☆ぼ☆り。レッドちゃんに苦労させるのは、この銀河みれにあむレディのぴんくちゃんが許しませんっ! これ以上ぼんやりするのなら、あたしの持ってる向精神薬を限界ギリギリまでぶち込んじゃいますからねっ!」


「……っ!!」

 グリーンは目を見開いた。むう、しっかりしてるじゃない。

「わかりました……」

 小声。


「もっと大きな声でお話する! 叫ぶ必要は無いわよ。いつもと同じ位で。小さな声でいると、元気も出にくいんだから」

「わかりましたから、変な治療はしないで下さい」


「しっつれいねぇ。あたしはドクターの矜持を大切にする名医なのよ。健康体におかしな事はしません。はい、遅れた分、二人の作戦会議に加わって頑張ってねぇ」

「さっき向精神薬がどうこう言ってたじゃないですか……」


「それは治療だから。動かないなら動かすまでよ」

「ピンクさんは作戦会議に参加されないんですか?」


「それは専門外だもの」

「……わがままですね」


 緑に言われたくないわよ。ねえ。

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