第43話  電話3

街の一角にある廃墟ビル。

その一階に、西牙丈一郎の事務所はある。

プルルルルッ。

その事務所の電話機が、けたたましく音を奏でた。

西牙丈一郎は、コードレス電話機の子機を掴むと、ゆっくりと電話に出た。

「西牙さんですか?」

聞き覚えのある声だ。

戸倉一心である。

「ククク、久しぶりじゃねぇーか?」

西牙丈一郎は静かな声で応対する。

「すみません。こちらもいろいろとありましてね」

「ククク、そうかそうか。俺はてっきり・・・お前が俺に臆してもう連絡をしてこないとばかり思っていたぞ」

西牙丈一郎はニチャリとした笑い声で挑発した。

「ははは、それはそれは、とんだ勘違いを」

戸倉一心も笑って答える。

「では、本題に入りましょう」

戸倉一心は真剣な声質に変えると話し出した。

「日時は、三日後。時間は夜の十九時。場所は、都内のジャパンサッカースタジアムでどうですか?」

「ほう・・・」

西牙は感嘆の声を上げた。

都内のジャパンサッカースタジアムは、日本国内で三番目に大きい総合競技場であり、普通の一般人が貸し切ることなど、とうてい不可能な場所なのである。

だが、日本裏社会の「暴武」部門の頂点に立つ戸倉一心が動けば、その様なことですら容易いことなのである。

「喜んで頂けましたか?」

戸倉は明るい声質で言った。

「ああ。最高じゃねぇか」

西牙はニチャリと言った。

「では、よろしくお願いします」

戸倉はそう言うと、電話を切ろうとする。

「おっと・・・一言いいか?」

西牙は戸倉一心が電話を切ろうとするのを遮った。

「はい?何ですか?」

戸倉は聞き返す。

「ククク、逃げるんじゃねぇーぞ」

西牙丈一郎は、静かな声で言う。

「わかりました。肝に命じておきますよ」

戸倉はそう言うと、ガチャンと電話を切った。

「ククク!」

(戸倉一心・・・てめぇは俺を満足させてくれるのか?)

西牙は電話の子機を机の上に置くと、口角を上げて笑った。

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