第34話  電話2

廃ビルの一階にある電話機が、いきなり鳴った。

西牙丈一郎は、銀色のペンダントの上蓋をカチリと閉じると、鳴りつづけている電話機を眺めた。

そして、意を決した様に電話に出る。

「もしもし」

西牙丈一郎は、電話の子機を掴むと言葉を発した。

「お久しぶりです。西牙さん」

電話の向こうから、聞き覚えのある声が綺麗に聞こえてきた。

あの戸倉一心である。

「ククク、久しぶりじゃねぇーか?」

西牙は気味の悪い笑い声を出して、それに答える。

「すみません。いろいろと野暮用がありまして・・・」

戸倉は静かに言う。

「あと・・・うちの香川君が大変お世話になったみたいで・・・」

戸倉一心の口調が少し強まった。

それはそうであろう。

自分が一番可愛がっていた男が、敗北して病院送りにされたのである。その感情が言葉に出ない方が不自然である。

「ククク、香川浩介か。あれは美味だったぜ、戸倉一心さんよ」

西牙丈一郎は、戸倉一心の名前をはっきりと言った。

「ほう、私の名前をご存知でしたか?」

戸倉は言う。

「ククク、お前ほど有名な裏社会の人間はいないだろうが」

「そうでしょうか・・・」

「ところで、何時まで俺を待たせる気だ?」

西牙はニチャリとした口調で言う。

「もう少し待って頂けませんか?ちょっと面白い人物を見付けましてね」

戸倉は楽しそうに言った。

「面白い人物だ?ククク、俺よりもか?」

西牙は軽く喰らい付く。

「そうです。あなたと同格、いや、あなた以上かも知れませんよ、その男は」

戸倉はそう言うと、電話を切ろうとした。

「俺以上だと?ククク。誰だ?」

西牙は戸倉に問いかける。

「中国の至宝・李宗民ですよ」

戸倉は、また後日電話しますと最後に言うと、電話を切った。

「李宗民だと?ククク、知らねぇな」

西牙丈一郎はポツリと呟くと、電話の子機を電話機に置いた。

そして、両手を頭の後ろに回すと、そのまま上を向いて天井を眺めた。

「相手が誰であろうと・・・俺の邪魔をする奴は壊すだけだ」

西牙はニヤリと笑った。

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