第5話 内蔵への侵入

内臓への侵入


ある土曜日とその翌日の日曜日、バルと雑居ビルの間に横たわる路地を何度か行ったり来たりして下見をした。歩いている間、息苦しくて、足元もおぼつかず、酸素のうすい雲の上を必死に歩いてもがいているようだった。人通りがもっとも少なかった時間帯は日曜日の16時から16時10分。翌週の日曜日のその時間に雑居ビルへ向かった。この間よりも足元はしっかりしていて、大胆にも小窓の脇のインターホンをすぐに押した。知りあいがもしカーテンをめくって現れたら、「たまたま通りがかったので」と言うつもりだったが、予想どおりだれも出てこない。1分後に再度インターホンを押して人がいないことを再確認し、すぐさまリュックを下ろして道具を出し、手前の窓と奥の窓の間に鉄製定規を挟み入れ、定規に沿ってガムテープを貼り、一気に定規を手前に引いて窓にヒビを入れ、手前にタオルを敷き、ミシミシと定規を前後させて窓ガラスを少しずつすばやくタオルに割り落とした。ハンカチですべての破片を剥ぎ取り窓枠だけにした。窓枠の中に頭から飛び込むように体をねじ込んでいき、1〜2分程度で侵入に成功した。中からドアを開け、リュックを回収してまた侵入。中は真っ暗で何も見えない。しばらくそのまま息を殺して目を慣らす。次第に部屋の輪郭が見えてきたところで思いもよらない部屋の様子に慌てて明かりをつける。壁にそって敷き詰められているのはおびただしい数のワイン瓶(ボトル)。反射の効果で四方から川のせせらぎのような優しい光が膝下を照らす。なぜか、瓶、一本一本に枯れた枝が差してあり、ラベルの上部まで水が入っている。ふと、侵入した小窓に目をやるとカーテンがわずかに揺れていて、いつも外から見ていた場所の内側に入り込んでいる非現実感に圧倒される。周りを見渡すと、至るところにいつまでも芽を出さない細胞がゆらゆらしていて、自分の内臓を見ているような気持ち悪さに耐え切れなくなった。そしてそのまま意識が遠のいていき、現実から逃げるように部屋の中心で気絶した。

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