第13話 生命の星

この宇宙全体を把握している者はいないが、仮にそれを知っていることにしよう。

この広大な宇宙は一つではなく、無数にある。嘘だと思うかもしれないが、信じがたい歳月を経て、無に限りなく近い揺らぎが果てしなく続くと、突如、大きな揺らぎが起き、たまたま揺らぎの波長が重なるとさらに大きな揺らぎとなり、その限りない繰り返しは、揺らぎを超えて、とてつもない大きな爆発となる。こうして、結果的に、宇宙はいくつも誕生している。その宇宙を更に覆う宇宙全体を、大宇宙と言うとしよう。大宇宙の中には奇跡的に生命を育んだ星も無数にあるし、これからそのような星が次々に誕生する可能性もある。しかし、誕生するまでには長い歳月を要するため、その前に生命の星が崩壊してしまう。つまり、ある一定の時点に、二つの生命の星が同時に存在することは奇跡中の奇跡。それが、なんと今。

地球と呼ばれる若い星の誕生で、この大宇宙には生命の星が二つある。もう一つの星の名は、ハイリ。地球でいうと、ハワイ島ほどのこの小さな星の歴史は古く、地球が誕生するずっと以前から存在する古い星。文明は発達しておらず、自然が豊かで美しい。二つの星は、それぞれ違う宇宙に浮かんでいるため、当然、行き来することなどできない。

それが、先日、つながってしまうというとんでもない異変が起きた。地球に浮かぶある島のある場所に、突如現れた時空の亀裂。先日の台風によってパタリと倒れた1mほどの墓石の下に、人がやっと入れるほどの小さな穴が現れた。この穴が別の宇宙の生命の星、ハイリ星につながったのだ。

大宇宙の歴史上、初めての宇宙の大爆発が、ハイリ星を覆う宇宙で生じようとしていた。その大爆発の寸前、深呼吸のように、他の宇宙を吸い込もうとする大きな力が加わり、その吸い込みの対象が地球を覆う宇宙であった。つまり、生命の星を有する一つの宇宙は大爆発の危機に瀕して、もう一つの生命の星を有する宇宙を巻き添えにしながら大爆発するという最悪の事態が起きようとしたのだ。計り知れない大きな力で吸い込もうとしたその最初の地点、そこは、地球に浮かぶ小さな島、日本。その中でもさらに小さな島、長崎県五島列島。五島列島の最西端の島、福江島。福江島の西に位置する三井楽町波砂間(みいらくまちはさま)という小さな漁村。その村に建つ尼御前の墓(あまごぜんのはか)という、墓石の先端部分をつまんで、宇宙全体を大きく吸い込もうとした、その刹那、尼御前の墓がパタリと倒れた。まさにその刹那、墓石の先端部分をつまみ損ね、もともとの墓石の立っていた地面をえぐり吸い込もうとしたその瞬間、ハイリ星を覆う宇宙の大爆発は、計り知れない謎の力が加わり、爆発寸前の深呼吸と全く同時に、爆発をある一地点にだけ絞り込んで息を吐くように衝撃を押し出した。奇跡的に吸い込もうとする力と吐く衝撃が拮抗して相殺され、時空に穴が空き、お互いの宇宙を結ぶ形で大爆発はおさまったのだ。こうして、地球の五島列島の尼御前の墓と、つながることなどあり得なかった遠く離れたハイリ星がつながり、まだだれも気がついていないが、お互いの星を、一瞬で行き来できる状態となっている。とんでもない状態が今、起きている。

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