第12話 イクミンの秘密

内閣官房特定情報調査室に特命がくだり、ある女性職員をいったん退職させ、国家公務員の身分を抹消した。すぐさまこの女性職員に、中澤いくみという新たな名を与え、新橋のある雑居ビルへの潜入調査を命じた。潜入調査の理由は国の安全に関わるため、中澤本人にも知らされていない。


中澤から特定情報調査室の上司(仮名、竹内)への報告メール。日付は省略。


竹内←中澤

・雑居ビルのオーナー、バルのオーナーは、ともに小島という男。不動産業の他、流通業、飲食業、サービス業を手広く展開。しらみ潰しに調べたが、税務関係、登記関係、雇用関係、問題なし。新橋のあらゆる業態の大企業に多数出資。さらに、小島と雇用関係にある複数の個人が中小企業に多数出資。与党向け政治献金も多数。

・雑居ビル関係者の溜まり場は向いのバル。小島に接触するならバルが最適な場所。偶然を装いながら接触を試みる。


中澤←竹内

了解。


竹内←中澤

・まずはバルに潜入。イワヨシという男に接触 。偶然にも小島の同級生で、かなりの常連の模様。早くも連絡先を交換。

・小島が赤坂のワイン店を買収するとの情報。早速ワイン店に潜入。日本中、世界中のワインがズラリ。感じのいい女性が仕入れたばかりの長崎県五島列島のワインをおすすめしてくれたので1本購入。女性の名は、原。

・イワヨシと約束し、13ヴァンティオという店へ、二次会はバルへ。そこで小島に初接触。ただの酔っ払いにしか見えない。その他、イムラ、ナオミ、シゲという常連とも会話。イムラは雑居ビル関係者で五階で仕事している。ナオミ、シゲも雑居ビル関係者と見られる。赤坂のワイン店の原(直美)とも遭遇。


中澤←竹内

店長の情報は。


竹内←中澤

・イワヨシとバルへ。相当飲んだ後、イワヨシと終電でさよならし、終電を逃したふりをして1人でバルへ戻り、0時から3時まで店長と2人きり。

・店長の名は、谷内(タニウチ)ヨシタカ。ヨッシーと呼ばれている。五島列島出身、高校卒業後、老舗寿司屋の修行を3か月で辞め、その後飲食業を転々としていた模様。多くを語らないが笑顔が素敵。

・飲み過ぎて潰れたふりをして店長の部屋になだれ込む作戦だったが、帰り間際、私を揺さぶる店長の前に中尾という男が現れ、雑居ビルの3階に担いで連れて行かれる。そのままそこで就寝。

・監視カメラなし。

・朝、中尾が入れてくれた梅こんぶ茶をすすりなごら、それとなくいろいろ聞いてみたところ、店長谷内は1階に住んでいる、2階はナオミがリクルート関係の仕事、3階は中尾が特殊な服のクリーニング、4階はシゲが警備関係の仕事、5階はイムラが占い的な仕事、これら情報は税務関係の情報と一致、口が軽く正直な男。

・なお、この5人全員と小島が明後日、五島列島の福江島で開催されるマラソンイベントに参加予定とのこと。雑居ビルに潜入するならまたとないチャンス。


中澤←竹内

中尾と寝た?


竹内←中澤

気になります?


竹内←中澤

寝てません。

豊胸手術失敗したとか言うと大抵手を出されないんで。


中澤←竹内

・つまらん冗談はさておき、福岡までの飛行機のチケットを手配した。福岡から福江島までは、太古丸というフェリーで。飛行機は満員だったが、フェリーなら乗れるはず。五島椿マラソンのチケットも用意しておいたのでよろしく。

・その間に、雑居ビルはこちらで徹底調査する。


竹内←中澤

・走るの苦手、、、


中澤←竹内

・小島+5に接近せよ。

・着いたらまず福江島でイベント会社を経営する馬場崎という男に会え。


中尾さん←谷内

・ナオミさんが足をくじいたことにして、イクミンに代わりにその区間を走らせますので、フェリーの中で僕か中尾さんが偶然会って誘いましょう。


ヨッシー←中尾

わかったよん。


小島さん←谷内

馬場崎さんにお願いして、ナオミさんのゼッケン+足に付ける輪っかには、特殊な追尾装置を付けています。


ヨッシー←小島

了解、いよいよだね。


※念のため補足説明。店長の谷内(ヨッシー)と特定情報調査室の竹内は、同一人物である。中澤はそのことを知らない。







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