-第34訓- 女子を嫌う男、女子を誑す男、女子を泣かす男
八月の第二土曜日。毎日学校へ行かないという非日常に慣れ切り、逆にそれが日常になってしまったそんな時期、地元からほど近い市境にある漁師町で大きな祭がある。この祭りは地元色も相まって毎年盛大な賑わいを見せる。
「あっちぃ……。夕方だってのに歩くだけで汗かくわ」
俺は地元のツレと祭に繰り出すべく、西日を浴びつつ待ち合わせ場所に向かっていた。
距離的には歩いていくには遠く、自転車やバイクには丁度良い距離だが停める場所がないため仕方なくローカル線を使って最寄り駅まで来た。そこから会場まで歩いてすぐだが、それでも汗が噴き出てくる蒸し暑さだ。
「シチー!」
人込みを避けるために裏路地にある小さな神社を集合場所にしたが、そこに近づくと童顔で中性的な男子がおり、俺に気づくと男にしては高い声色で声をかけてきた。
彼の名前は
「久しぶりだねー。背ぇ伸びた?」
笑いながら冗談を言う彼は俺より頭一個分背が低く、灰色ががったさらさらの黒髪で、女子ような綺麗で白い肌をし、男らしい体毛もほとんど生えていない。服装を無視すれば、一見ショートカットの女子かと思ってしまうような容姿。
男の俺がこういうのもなんだが、どことなく可愛らしい感じのする男子だ。女装でもしたら似合いそうなルックスというか。
「高二じゃもう伸びんだろ。お前は逆に縮んだんじゃのうて?」
「あー、この間頭ぶつけたからそれかも」
「なわけ」
……しかし、こう見えてこいつはすげぇ変人だ。
見た目とのギャップが半端じゃない。ちょっと頭おかしいと言ってもいい。それはおいおいわかるだろう。
ちなみに、『シチ』とは俺が地元で呼ばれているあだ名だ。最近までナナリーとかいう慣れないあだ名で呼ばれていたからか、妙な安心感がある。
「で、あの腐れアメ公は?」
俺がもう一人の待ち合わせ相手のことを訊くと、航大は「腐れアメ公て」と笑う。
「まだだねー。ほんと相変わらずだよ」
「んだよクソ。遅刻するの想定してあいつには待ち合わせ時間の三十分前で伝えてるのにこの様か。いいかげん日本に染まれやあの野郎」
もう一人も同じ中学出身のツレだ。中学の頃からこの三人でよくつるんでいた。ここでは語り切れないくらい色々あった。……本当に色々あった。
「高校どう? 楽しい?」
航大から、久しぶりに会った人間ならではの問いかけが。う~ん……。
「割と。中学と違って荒れてないし、マジ平和よ」
「それ言っちゃうとね。こっちも平和にやってるよー」
そう。先ほどの色々あったとはこの類のもの。俺らの中学はちょっと荒れていた。
……あ、ちなみにこれは俺の元カノとは関係ない。俺個人としてはそっちも荒れていたけれど、それは別の話。
「…………」
ふと彼女のことを思い出して、少し気分が悪くなる。ここは俺らの地元からほど近い。というかほぼ地元だ。やつが男かお友達を連れてこの祭に来ている可能性もなくはない。できれば、いや何としてでも、邂逅したくないものだ。
「あの子ならいないと思うよー」
「は、は!? 何が……?」
びっくりした。俺の思考読めんのか? 昔からこういうとこあんだよなこいつ……。
「ん? 何かそういう顔してたから。違った?」
いやそれどんな顔だよ……。エスパーか。
困惑している俺の返答を待たず航大は話を続ける。
「今日うちのクラスの女子からDM来ててさ、一昨日から旅行行ってるらしくてそのメンバーの中にあの子いるみたいな話してたよ」
実は俺の元カノと航大は同じ高校に進学している。つってもクラスが違って別に仲が良いわけではないらしいが。
「へ、へぇ……。お前、高校でも女子と仲良いんだな。中学ん時も俺とウェス以外はほとんど女友達とつるんでたもんな。男の友達も作れよちゃんと」
航大は俺とは対照的にガキの頃から女友達が多く、男友達があまりいなかった。こういうやつ学校に一人はいるけど、そのせいで一時期孤立していることがあったので少し心配だ。それ絡みで一つ事件があったのだが……今はいいか。
「大丈夫だよー。逆にシチは女友達作りなー。相変わらず女嫌いなんでしょ?」
「……まぁ」
こいつらは俺が女嫌いだというのは知っている。高校では隠してるというわけじゃないが、そんなこと公言して気遣われるのも嫌なので何となく明言はしていない。
……いや、一人にだけ明言したか。まぁそれ以外のやつらにも多少気付かれてはいるだろうが。
「あ、女子からのDM全然返せてないからシチ代わりに返していいよ? 練習練習!」
何だよ練習って。由比さんみたいなこと言いやがって。
そして航大は気軽に自分のスマホを手渡してきた。よくもまぁ平気で女子との会話を見せられるもんだ。
「うーわ……」
スマホを覗くとそこには一人どころか何人もの相手から送られてきた未読のメッセージが何十通も表示されていた。しかもその相手が見事に全員女っぽい。
「……お前、相変わらず女泣かしてんだろ」
メッセージの中身まで見る気にはならず、スマホを返しつつ俺は聞いた。
ここ数か月で幾多の女を虐げてきた俺がこんな質問するのもなんだが、実はこいつ、俺とは別の意味で女を傷つけるタイプの男なのだ。
「泣かすって。そのイジリ久々だね~。みんなただの友達だよー」
彼は笑うが、女の方にはお前のことただの友達だとは思ってない子もいるぞたぶん。
航大はこの人畜無害そうな中性的な見目や親しみやすい態度からか、女子にとって警戒心を抱きづらく、非常に近寄りやすい存在らしい。女友達が多いのもそのせいだろう。
しかも彼は人と話す時、こっちが驚くくらい相手の目を見て話す。あとこれも無意識なのだろうが、何か距離が近い。
が、決してそれを不快に感じさせない清涼感のある見た目や雰囲気を纏う彼に対し、母性本能をくすぐられてなのか何なのか知らんが、ハマってしまう女子が少なからずいる。
女子からはLINEではなくDMで連絡が来るのもこいつが女子にとって絡みやすい存在である証左だろう。航大が何か投稿するとたくさんの女子たちが気兼ねなくリプってるわけだし。
しかし、こいつはドが付くほどの天然である。
興味がないことにはとことん興味がなく、全くと言っていいほど関心を示さない。
例えば……本気出せば勉強もできるのに、しない。
東京の名門私立高校受かったのになぜか蹴って神奈川の普通の公立校に行った。
さらには……本気出せばスポーツもできるのに、しない。
中学時代の部活内で実力的にはキャプテン候補だったらしいが、練習サボリすぎてレギュラーから外されていた。
そして……本気出せばモテるのに、人の好意を意に介さない。
天然だから人の好意に気づかない、のではない。それよりも酷い状態、「意に介さない」なのだ。
例えば告白されると二つ返事で快諾するが、毎回速攻で自分から振って別れる。たぶん一ヵ月持ったことすらない。しかし本人はそのことに何の罪悪感も持たない。意地悪でわざとやっているとかではなく、本当にそういう相手を慮る感情が欠落しているのだ。だから「人の好意を意に介さない」。
それはこんな俺でさえ引くほどだ。何人の女子たちがこいつに泣かされてきたことか。
ゆえに追揚航大はいわゆる――――
こいつに泣かされた女は数知れず。
女性を勘違いさせ、無自覚に振回すだけ振り回す、女の敵。
俺が言うのも何だが、こいつはこいつで男のクズである。
「だから何度も言ってるじゃん。女の子がいつも自分で泣いてるだけで、僕が泣かしたわけじゃないよー」
いや意味わからん。それをお前が泣かしたって言うんだよ。相変わらず思考回路ぶっとんでんな。
「毎回ちゃんとみんな納得してくれるし、その後も仲良く友達に戻るしね」
いや、たぶん納得はしてないと思う。お前の天然ぶりって反論しても全然響かない感じがすごいから諦めざるを得ないだけだと思う。
しかし稲村もそうだが前の彼女と友達に戻れるやつの感覚が全くわからん。ある意味尊敬する。
――Vroooooooom!
するとアメリカンバイク特有の低いエンジン音が近づいて来るのが聞こえる。やっーと来たか。
音のする方に目を向けると既に俺らの存在に気付いているようで、自前のハーレイを調子よくフカしながらこちらに向かってきた。
そのままドリフト気味にギュンと俺らの前にバイクを横付け。危ねぇな。
「Bad mother fxckeeeeers! Great see u agaaaaain!」
耳には数多のピアス、腕に無数のタトゥーを施したいかにも西海岸でブイブイいわせてそうな白人の若者がバイクに跨ったまま「ヘーイ」とハンドシェイクを求めてきた。
「声デケェんだよバカ」
と忠告しつつその手を握り返し、互いに肩を寄せ合う。
彼の名前は
「お前、何で単車で来てんだよ。今日祭だし停めとくとこねぇぞ」
俺に続いて航大ともシェイクハンドしているウェスに告げると、彼はわかりやすく顔を歪ませる。
「Oh……シチー、久しぶりに会ったってのにツレねーなぁ。六歳のオンナのコから頼まれたサイン断ったキム・カーダシアンだってもうちょっとマシなこと言うぜ。その辺テキトーに停めてくるわ」
外国人特有のよくわからない例えを披露しつつ、再びバイクで離れていった。
「その辺て。絶対駐禁喰らうわアイツ。祭でおまわりも張ってるし。知らね」
「カリフォルニアはバイクの駐禁とかないのかな? この間もまた帰ってたらしいけど」
「あるだろさすがに。でもあっちじゃ車乗れるからバイクは日本でしか乗らないじゃなかったか? つーかまた待たなきゃいかんのかだっる」
そんな風に俺と航大で二人して時間を潰していること十数分、やっと向こうからあのバカのデカい声が聞こえてきた。
あの白人野郎……のん気に電話をしながらこちらに戻ってきた。こいつ、自分が遅刻して来たって自覚ねぇな。
「No way ……今日はムリだわ。ホーミーとフェスティバル来てっから。Hah? 他のオンナ一緒? What da heck are you talking about~? ショーコ? そんなオンナ知らね……え? ああ、証拠? O.K.」
何やら揉めているようだった。どうせ女だろう。
「Look~、 コーディでもシチでもどっちでもいーんだけど何か喋ってくれ。他のオンナといるでしょとか言い始めたから」
ちなみに英語圏の人間からすると「コウダイ」は発音しづらいらしく、ウェスは彼のことをコーディと呼ぶ。
俺の『シチ』も発音しづらいらしく昔は『シティ』とか『シリ―』と呼んでいたがいつの間にか慣れたらしい。
そんな彼のお願いに対し航大が「こんばんはー」と話し、「ほらな、オトコだろ? Aiight?」とウェスは電話口の女に伝え、それから一言二言会話を交わし、電話を切った。
そして、俺たちに向かってこう告げる。
「C'mon! とりまナンパしようぜー」
さっき、電話口の女に他に潔白を証明しておきながら、早速これ。
「……お前、相っ変わらず清々しいまでにクズじゃの」
もはや逆に感心するレベル。思わず笑っちまったわ。
「Do you wannna fxck? オマエMisogynistのクセにヒトのこと言えんのかよー? それにオレはオマエと違ってオンナのコにはめちゃくちゃヤサしいんだぞ?」
お分かりのようにウェスはクソ最低な男だが、まぁーモテる。
ブロンドの地毛、一九〇センチの高身長に引き締まった体。その割に小さすぎる顔。奥二重から覗く
こんな野郎が割と流暢な日本語を話しながら歩いているのとすれ違えば、大抵の女子は気になって思わず振り返る。
そんなもはや東洋人では太刀打ちできないルックスを有する彼は性格までもが軟派そのもの。
ゆえに、龍口ウェスはいわゆる――――
こいつに
女性を
俺が言うまでもなく、こいつはこいつで男のクズである。
「Let's pick up some chicks! で、どうセめるよ?」
早速ナンパ戦略会議に入ろうとしするウェスだったが、
「いや、ナンパなんかしねぇから」
ミソジニストとしてはごく当たり前の回答である。
「……Hey-hey you two, are you kidding me? せっかくのフェスティバル、ヤローだけで回ってどうすんだよ。なぁ? コーディ?」
ウェスはやれやれと大袈裟に身振り手振りをしながら、航大に同意を求める。
「うーん、僕はどっちでも。するなら僕らと同じ三人組? いるかなー」
そして彼は「とりあえず歩こう」と提案した。そうね。そのままナンパしない流れに持っていこう。
そんな感じでやっとこさ三人で祭りの会場に向かう。その途中ウェスはすれ違ったカップルに「Hey! Nice kimono!」などと外国人的な急に話しかけるノリをしてびっくりされていた。
「あれ着物じゃなくて浴衣な」
と、ミソジニーな俺が補足し、
「Ughh……細かいこと気にするオトコはモテねーぞぉ?」
と、ウーマナイズなウェスがよくわからん言い訳をし、
「何か焼肉食べたくなってきたなー」
と、ハートブレイクな航大が……こいつに至ってはほんと何言ってんだ。
俺らはそれぞれタイプは違えど、女子からしたら共通してクソ最低な三匹が斬る! である。
×××
そんな三匹は待ち合わせ場所から路地を通り、他愛のないことを喋りながら祭の会場へ向かって歩いていたのだが……。
その先にある
それには気を留めずそのまま進んでは行ったのだが、その集団から小声で「おい、あれ」「だよな。久々に見た」「うわ、龍口じゃん」と小声が聞こえてきた。
うわ、嫌な予感……と思ったその時、
「てめぇ龍口ぃ! なに我が物顔でうちの祭来てんだ、あぁ!?」
後ろからどすのきいた声が響いてきた。
あーあ。まぁ多少覚悟してたけど、早速かよ……。
ここは湘南、しかも血気盛んな漁師町。ゆえに時代錯誤なああいった輩は未だに結構いる。
しかもこういうのはガキどもに留まらず、この祭では過去に何度も大人同士の喧嘩があったりした。
ちなみにうちの親父も前科あり。情けない。一家の大黒柱のはずが一家の赤っ恥。
「……Huh? 」
名指しされたウェスは少し不機嫌そうにそいつの方を向いて首をかしげ、
「Who da hell are you? I have no taste for get hit on gays. Fxck off you stupid asshole……!」
返事をしつつ、最後には「はっ!」と笑顔で中指を立てた。外国人特有の人差し指と薬指と小指は第二関節を曲げるやつ。あーもう、煽るな、やめろ。
「てめぇ調子乗ってんじゃねぇ! 殺すぞ! つうか日本語喋れや!」
先ほどからウェスに絡む集団のリーダー的なヤンキーが叫ぶと、航大が前に出た。
「うんとね。『あ? お前だれ? オレはゲイにナンパされるシュミはねぇんだよ。とっとと失せろこのクソバカうんち野郎が!』って言ってるみたいだよー」
通訳すんな。うんちって。いいからさっさと逃げようぜ。
「なっ……んだとてめぇ! 忘れたとは言わせねぇ! 俺は」
しかしそこで航大が食い気味に「あっ!」と声を上げた。
「ほらあれだよ! 中二の時隣のクラスの子がゲーセンで絡まれた翌日にうちの中学の校門まで乗り込んできた中の一人!」
……そんなことあったっけ? つうかそういう輩たくさんいたからどれに該当するのかわからん。よく覚えてんな。
「で、なぜか僕たちに『落とし前つけろ』とかイチャモンつけてきたあの……えと……大森、くん?」
いや俺はわからんわ。航大は昔から記憶力すげぇよな……じゃなくて、さっさと逃げなきゃ。
お気づきかもしれないが、先ほどの『荒れていた』というのはこういう類のものである。
ウェスは中二の時にうちの中学に転校してきたのだが、この通り見た目も性格も悪い意味で目立つので、当時の三年のヤンキーみたいなのにシメられそうになったことがある。
しかし既に体ができあがっていた彼はそれらを返り討ちにしてしまい、実質うちの中学の番格みたいな存在になる。
そして他校からも敵視され、街中ではまぁよく絡まれたもんだ。しかもこいつ絶対売られた喧嘩は買うからどんどん敵は増える一方。ウェスとよくつるんでいた俺や航大は色々と苦労したもんだ。
そのせいで二年前に中学を卒業してもなお、地元ではウェスに恨みを持った連中とこういうことがたまにあったりする。
「オオモリ? Unn……全然わかんね」
なのにこいつは過去の記憶が色々と曖昧なことが多い。俺はともかくお前は覚えててあげろよ。ご指名受けてんだからよ。
「誰が大森だ! 俺の名前は大町だ! ふざけんなよてめぇら! いま脳天ブッ叩いて思い出させてやる……!」
するとその大町くんとやらは腕まくりをしてこっちへ向かってくる。あーあーめんどくせ。
「てめぇを倒す時に備えて死ぬほど鍛えてきたからなぁ!」
うーわ。不良のくせに体鍛えてんのかよ。だっせー。その努力をスポーツとかに向ければいいのに。
しかし俺とは逆にウェスは食いついた。
「Is that so? じゃあキミ、ベンチプレス何ポンド?」
変な物言いに感じるかもしれないが、これはアメリカンフットボール部やラグビー部にありがちな『どれくらいまでベンチプレス上げられるか談義』である。ウェスは今の高校にスポーツ推薦で入学し、現在もアメフト部に所属している。この手の人種は基本的にベンチプレスと四十ヤード走の記録で相手の力量を判断する傾向にある。そんなの一般人は計ったことすらないという常識はこいつらに通じない。
例えるならアレだな、どんな友達連れているか、どんな彼氏連れているかで女子が相手の女子力を計るのに似たようなもんだ。いや違うか。
ともかく、高校生にもなって喧嘩とかほんと勘弁してほしいので、
「まあまあまあ。喧嘩とかやめましょうよ。ほら今日はこのへんおまわりも巡回でうろちょろしてるし」
笑顔で止めに入る。みんな大人になろうぜ。もういい歳なんだからよ。
「ジャマだシチ。ゴーに入ってはゴーに従う……つまり売られた喧嘩を買うのが日本人なんだろ? Come on wimp!」
よくわからない慣用句を並べ、そのヤンキー改め大町に親指を下に向けて更に煽るウェス。
「おいバカやめろ。お前ももう高校生だろ。義務教育じゃねんだから下手したら退学だぞ」
しかもお前は私立だろ。俺ら公立より校則厳しいんだから気をつけろよ。
「Damn……しつこいなぁ。そういうのもオンナのコに嫌われるぞ?」
「上等だ。ミソジニストなんざ女に嫌われてナンボだっつーの。ほんと勘弁しろよ。大体お前は昔からいつm……どぅお!」
ウェスに向かって説教をしていたら突然背中を押し蹴られ、俺は前方によろける。
「……おい狐目。龍口の言う通りてめぇ邪魔だ。雑魚はどいてろよ」
大町は俺にそう言うと、ペッと横に唾を吐いた。どうやら彼にやられたらしい。
すると、その様子を見ていたウェスと航大は「あ……」と声を漏らす。
「オラ来いよ龍口ぃ! 邪魔なやつは消えたぜ!」
大町はウェスを挑発するが……俺はそれどころではなかった。
「––––痛ぇ……。何でこんなことされないかんのじゃ」
俺は彼に背を向けたままぼそりと呟いた。
「あ? 何だ? 聞こえねぇなぁ! 文句でもあんのかよ、あぁ!?」
「 Yo, オーモリくん」
大町の言葉に、ウェスが答えた。
「大町だ! あとくん付けすんな!」
そんな大町にウェスは「Hum……」と肩をくすめる。
「You……早く逃げないと死んじゃうよー?」
「あーあ。余計なことするから」
ウェスと航大の言葉に大町は「はぁ?」と首を傾げる。
そんな中、俺はゆっくりと体を彼の方へ向け、一歩二歩と近づく。
「お? 何だ? おめぇがやんのか? ま、前座には丁度いいか。なぁ? 龍口のパシリくんよ」
そんなことを言う彼に、次は航大が問う。
「ねぇ、オーモリくん」
「大町だっつってんだろ! 殺すぞ!」
大町は凄むが航大は気にせず質問を続ける。
「君は喧嘩したことあるー?」
「あ? あるに決まってんだろふざけてんのか!?」
「そっか! じゃあその一発目、第一打で有効なのは『頬にパンチ』か『脇腹にキック』かどちらでしょうか!」
突然の出題に大町は「はぁ?」と嘲笑った。
「知らねぇな。俺はキレっといっつもワケわかんなくなんだわ。気付いたら目の前で誰か死んでんだよ。てめぇも覚悟しとけよオカマ野郎。こいつも龍口もお前もぶっ殺s……!?」
大町が言葉を言い切る前に、俺は彼の胸倉を掴み、グッとこちらに引き寄せる。
そして間髪入れず――――、
「ぐはっ!」
瞬間、大町は声を上げ、血を流し、その場に倒れこむ。
そして航大が高らかに言い放つ。
「正解は『 鼻 に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。