第5話 生活魔法なのじゃ!

 教会にある魔法勉強用の一室にて、修道服を纏ったルルは今日も魔力操作の練習をしている。


「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」


 以前ベッドで精神力を使い果たし昏倒したルルは、懲りずに毎日気絶するまで魔力操作の練習をしていた。連日気絶するまで魔力操作の練習をしているとばれないよう、夜眠る前にベッドの中でのみと限定してやっている。


 それというのも魔法は使えば使うだけ、体感も難しいレベルのほんの少しだけだが使える魔法の総量が増えるとギルに教えられた為だ。目指せ大魔法使いと熱心に瞑想を続けるルルは、最初にお腹に感じた熱、ギル曰く魔力を体外に移動することも可能となっていた。


「はぁ……すぅ……はぁ……すぅ……」


「もう大分魔力の操作について慣れてきたようですね、そろそろ次の段階に行きましょうか」


「はぁ……ん、むぅ……せんせぇ!次の段階とな!」


 なお現在ギルは魔法を教えているため、ルルから先生と呼ばれている。


「ええ、まずは簡単な生活に役立つ魔法を教えていきます」


「いよいよ魔法か!なにをするんじゃ!」


「今まで練っていた魔力を目の前に持っていき、火をイメージし≪着火≫と唱えてください」


「ふむふむ、すぅ……はぁ……≪着火≫ほわあああ!せんせえええええええええ!」


 言われたとおりに練っていた魔力を目の前に持っていき≪着火≫と唱えると、巨大な火の玉が出現しルルの前にいたギルを飲み込んだ。


「≪雲散霧消≫」


 ギルの声が響くと火の玉がはじけて消え、ぶすぶすとところどころ燃えながら黒焦げになっているギルが現れる。


「≪消化≫」


 さらにギルが唱えると燃え移っていた火も綺麗になくなる。それを見ながらルルがおずおずと心配そうに声をかける。


「せ、せんせぇ?大丈夫なのかや?」


「ええ、もちろんです。」


「ほんとにほんとか!?真っ黒じゃよ!?」


「本当に本当です。この程度何ほどのものでもありません。」


「そ、それならよかったのじゃぁ……ごめんなさいなのじゃ」


「気にしなくていいのですよ、最初は誰でも失敗するものですから」


 故意ではなく過失だったとは言え、盛大にギルを燃やしてしまい心配するルル。何度も確認して本当に大丈夫そうだとわかるとやっと安心する。

 ルルの謝罪を快く受け取ったギルは大参事といえるほどの失敗には目をつむり、ルルの頭を優しく撫でながらこれ以上落ち込むことがないよう褒め称える。


「しかし凄いですね、通常生活魔法である≪着火≫は指先ほどの火しか出ないものなのですが、あのような巨大な火の玉が出るとは……ルルさんには魔法の才能がありますよ」


「ほう!才能が!」


「ええ。これはまさに逸材と言ったところでしょう。」


 初めての失敗で気後れしないように上手く励ましたギルは、調子を取り戻したのを確認すると再度の挑戦を促す。


「では、今度はもう少し魔力を絞ってやってみましょう」


「う、うむ、行くぞ!次は失敗せぬぞ!ぬ、ぬぬぬぬ」


「大丈夫です、落ち着いて。何があっても私がフォローをしますので、ね?」


 黒焦げの神父を見て、もう失敗できぬと体に力が入りすぎているルルの頭を撫でて優しく諭すギル。ルルは頭部から伝わる手のぬくもりに安心すると、幾分か落ち着きを取り戻し落ち着いて魔力の操作をする。


「すぅ……はぁ……≪着火≫」


 先ほどのように練っていたすべてではなく、少量の魔力を動かし魔法を発動させる。今度は失敗しないようにとかなり気合を入れている。はたして指の先から小さな炎が生まれた。


「できた!できたぞせんせぇ!ちゃんと指からでた!」


 上手に魔法を使えた喜びをそのまま伝えるルル。その様に満足しながらギルはこれならばどんどん進めてよさそうだと考え口を開く。


「ええ、上手く使えましたね。おめでとうございます。この調子で他の魔法も覚えていきましょうか」


「ほかにも!?ほかにもか!やるぞ!わしはやるぞ!」


「はい、次は水を出してみましょうか。同じ要領で水をイメージしてこちらのコップを持って≪聖水≫と唱えてください」


「よし≪聖水≫じゃな!まかせあばばばば」


 成功に気を良くしたルルが≪聖水≫と呪文を確認した瞬間、全身に漲らせていた魔力が反応し全身が巨大な水玉に包まれてしまう。ルルは何が起こっているのか理解できずパニックに陥る。


「≪雲散霧消≫」


 ギルが慌てて呪文を唱えると水玉が破裂し、ずぶ濡れのルルが現れる。水浸しになったあたりを見まわし、何があったのかとギルに顔を向ける。


「今ルルさんは魔力を操作し、魔法を使う対象を選択する前に魔法を唱えてしまったため、先ほどまで用意していた魔力が反応し、魔法が暴走してしまったのです」


「おほぅ、そのようなことが……まほうこわいのう……」


「大丈夫です、先ほども言いましたが失敗しても私がフォローしますし、この部屋も魔法の練習用の部屋なので耐性がありますので、どんどん失敗して問題ないですよ。恐れず落ち込まずいっぱい練習をしていきましょう」


「そうかぁ……うん、そうじゃな!がんばるぞ!」


「ですがなるべく失敗しないようしっかりと集中していきましょうね」


「まかせよ!わしは同じてつはふまぬぞ!」


「ああ、あと私がいない間は危険なので今まで通り魔法の練習は魔力操作だけにしてください。それと、ベッドの中では魔力操作までです。お布団に火が付いたりしたら危ないですからね」


 黒焦げのままにっこりとウィンクするギル。


「ばれてた!」


 内緒の練習がバレバレだったルルは驚愕するのであった。

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