第4話 魔法の勉強なのじゃ!

 かくして修道服に着替えついでにニーソックスも与えられたルルは、くるくると回り新しい服に全身で喜びを表す。朝陽の中で黒く輝く修道服を纏い舞う姿は天使もかくやと言える魅力に溢れていた。


「では形が整ったところで教会についてザックリと説明しますね。当教会は聖霊教会と申しまして、聖霊様のお告げを得た8人の巫女から始まったとされています」


「ほうほう!お告げとな!」


「お告げの内容自体はありふれたもので、聖霊様が世界を作りました、死ぬと皆聖霊様に帰ることになります、そのとき恥じることの無いよう清く正しく生きましょうと言ったものですね。ただ一つだけ大きく違う点がありました、わかりますか?」


「なんじゃろなぁ……むぅぅぅん……」


 ルルは少し悩んだ後に、ギルが自らの司祭服を摘まんで見せているのに気づくと答えに気付き、自信満々の笑顔で声を上げる。


「あっ!祝福じゃろ!」


「ええ、そうです。魔法、奇跡、祝福、神秘、呪い等々色々な名前で呼ばれていますが、そういった超常的なものを本当に行使できたのです」


「すごいの!なんでもありじゃな!」


 目を輝かせながら相槌を打つルル、その様を微笑ましく思いついルルの頭を撫でるギル。その大きな手にふっくらとした紅葉のような手を添えて笑顔で続きを促すルル。


「8人の巫女はそれぞれ、火、水、雷、土、風、氷、光、闇、を司る8つの聖霊様に力を与えられ、それを駆使して聖霊教を広めていき、今日に至ります。というわけで今からルルにはシスター見習いとして魔法の勉強をしてもらいます」


「そんな簡単に教えてよいものなのかや?!」


「ええ、先ほど駆使してと言いましたが、聖霊教は暮らしに役立つ魔法を市井の方々に普及していくことで広まったのです。では早速始めましょう、目を閉じ、心を落ち着けて、おへその当たりに意識を向けて、深呼吸をしてください」


「むむむむ、すぅ……はぁ……すぅ……」


 ギルの指示通り目を閉じ、静かに深呼吸を繰り返すルル。ルルのお腹が呼吸に合わせて膨らみ、縮むを繰り返すのが修道服越しで見て取れる。しばらくそれを繰り返したのちギルが口を開く。


「そのまま、お腹を意識したまま≪聖霊様≫と唱えてください」


「はぁ……すぅ……はぁ……≪聖霊様≫……ひょわ!」


 ギルの指示通り唱えたところ、ルルは腹部に先ほどまでなかった何かを感じ声を上げる。それを見てギルが説明をする。


「身のうちの聖霊様を知ることができましたね、簡単ですがこれでルルさんは聖霊様と繋がり、魔法を使えるようになりました」


「これだけで!?簡単じゃな!」


「ええ、簡単でしょう?だからこそ聖霊教は広まって行ったのです。ただ、使えるようになったとは言いましたが、人間で言うのであればまだハイハイが出来るようになったようなものです。これから練習を繰り返し、ハイハイから歩き、走り、ジャンプと色々出来るようになっていきます」


「なるほどのう!そのうち空も飛べるようになるかのう!」


「ええ、出来るようになりますよ。そのためにも今は練習をしていきましょう。深呼吸を繰り返し魔力を身のうちに感じてください。慣れていけばお腹だけでなく全身に、さらには体外に移動させることも出来るようになりますので、当面はそれを目標に頑張りましょう」


「おぉー!すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」


 ギルの言葉に手を振り上げ力強く声を上げると、先ほどのように集中を始めるルル。


「すぅ……おお、なんか大きくなってきた感じが!ああ!消えてしまう!まてまて!すぅ……はぁ……すぅ……よしいいぞ!わし凄いのう!ってだめ!消えちゃダメなのじゃ!はぁ……すぅ……」


 魔力を高まらせては喜びのあまり集中を切らし魔力を散らすを繰り返すルル。それでも繰り返していくうちにコツを掴んだのか段々と散らすことなく魔力を高まらせることに成功していく。


「よし!よし!よいぞよいぞ!このまま一気に全身じゃ!すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」


「そこまでです」


「ひょい!いきなり何を!?今すっごく上手くいってたん……ってあひゃん?」


 上手くいっていることに機嫌を良くし、さらに高めた魔力を全身に漲らせたところでギルの待ったが入る。

 良いところで邪魔が入った事に抗議の声を上げようとしたルルだが、最後まで言えずひどい目眩に襲われ倒れそうになったところをギルに支えられる。


「大丈夫ですかルルさん」


「だ、だいじょうぶじゃぁ。わしに何があったんじゃ?」


 ルルは急な体調不良に襲われ、不安そうにギルに尋ねる。そんなルルの容体を確かめ、大丈夫なことを確認するとギルが説明をする。


「魔力操作は魔法同様精神力を使います。そのため根を詰めすぎると倒れてしまうのです。大きく限界を超えて魔法を使った結果廃人となった例もあります。」


「はいじんとな!」


「ええ、大きく限界を超えれば、ですが。ですから限界を見極めることが重要になります。今日はもう限界ですのでここでお開きにしましょう」


「なるほどのう、これがわしの限界かー残念じゃのう」


「いえ、十分凄いですよ、初日に全身まで魔力を行き渡らせた人など私は知りません」


「そうか!わし凄いか!やったのう!」


 本日の限界を迎え残念だと落ち込んだルルであったが、続くギルの言葉ですぐに大輪の笑顔を咲かすのであった。


 なおその晩、もうちょっといけるじゃろ!と考えたルルは寝る前にベッドの上で魔力操作をして気絶するのであった。

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