第2話 シスター見習いなのじゃ!

「たのもう!」


 昼食を終え食器を洗っているところに幼く明るい声が響き渡る。壮年の神父が一体何事かと顔を出してみると笑顔の幼女が立っていた。

 見ない顔だなと村の初期からいる神父は黒髪を短髪に刈り揃えた頭で一体何事かと考えたところで幼女が口を開いた。


「冒険者ギルドのトクに教会で働けと言われたのじゃ!教会はここであってるじゃろ!?」


「え、ええ、ここは教会ですが、トクさんがここで働けと?」


「そうじゃ!冒険者になる第一歩なのじゃ!」


「……ふむ、よくは分かりませんが分かりました。教会は迷える子羊を見捨てることはありません、ようこそいらっしゃいました」


「うむ!よろしくたのむぞ!わしは何をすればいいのじゃ!?」


「そうですね、まずは中でお話しをするところから始めましょう」


「わかったのじゃ!」


 幼い子供に立ち話を続けるのも可哀想だと判断し、教会へ案内する。

 そして先ほどの会話で大体の予想はつくが、念のため幼女から話を聞くのだった。



 教会の応接室で話を聞き予想通り孤児を預けられたことを理解した神父はこの幼女の面倒を見ることを決める。


 「では本日からあなたはこの教会の預かるところとなります。よろしいですね?」


 「うむ!よろしいぞ!」


 「まずは自己紹介ですね、私はこの教会を預かる神父のギルです」


 「わしはルル!冒険者じゃ!」


 「はい、今日のところはあなたもここについたばかりでお疲れの事でしょうし、ゆっくり休んで疲れを癒してください。」


 「いさいしょうち!今日はおやすみじゃな!」


 覚えたてなのか、良い笑顔で難しい言葉を使い了解した旨を伝えるルル。それを見て可愛らしい子供だとついルルの頭を撫でて微笑むギル。

 しかし冒険者と自己紹介するのはどうしたものかと、旅を終えたばかりであるのに意外と手触りの良いルルの頭を撫でながらギルは少し悩むと、


 「すみませんがルルさん、教会で働く間は冒険者ではなくシスター見習いと名乗ってもらってもよろしいでしょうか?」


 「む?いきなり何故じゃ?」


 「ルルさんは未だ冒険者登録ができておらず修行のため教会に来ている身ですから、まだ冒険者と言えないのですよ」


 「そういえばそうじゃったのう!わかったぞ!わしは今日からシスター見習いじゃ!」


 素直に頷くルルによしよしと満足するギル。


 実のところギルドに登録もしていない自称冒険者はごろごろいる。だが自称冒険者は社会的地位の低い冒険者のさらに下に位置する。何にも成れなかった冒険者にすらなれなかった者として見られるのだ。

 この愛くるしい幼女がそのような底辺として扱われるのは心苦しい思ったギルは、見習いではあるがシスターを名乗らせてあげようと親切心を出したのだった。


 親切とはいえ冒険者からどんどん遠ざかっていくルルであった。

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