ドラゴン幼女は気付かれない

あか

第1話 冒険者登録なのじゃ!

 冒険者が集う開拓村。

 通常の開拓村と違い領主と教会が手を組み、潤沢な資金と人材をつぎ込み作られた。

 人材を農村出身の冒険者で固められた村は、魔法という超常の力と資金力という現実的な力に支えられ、30年をかけて安定して収穫が取れる村となった。


 その村に、誰にも気づかれず文字通り飛んできた・・・・・影が一つ、盾に十字架の看板がかかった建物に勢いよく入店した。


「たのもう!」


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 人のはけた昼下がり、盾に十字架の看板がかかった建物、冒険者ギルドに場違いなまでに元気な声が響き渡る。

 声の主を見るとまさに場違いを体現した存在がそこにいた。

 背が低く可愛らしい顔に笑顔を浮かべた、紛うこと無き幼児だったのだ。

 艶のある長い金髪を腰まで伸ばした幼児は、金の瞳に強い好奇心を浮かべきょろきょろと興味深そうにギルド内を見まわしている。

 それを確認した受付のスキンヘッドはたまにいる手合いかと判断し、怖がらせないよう優しく声をかける。


「なんだい?依頼ならお父さんかお母さんがいないと受付できないよ」


 まれに冒険者を慈善事業の何でも屋と勘違いする子供がいる。冒険者は仕事を選ばないため何でも屋というのは間違えていない。だが慈善事業ではなく金で雇われて仕事をするのだ。


 もちろん依頼の内容次第で金額の上下はあるが、最安値であったとしても幼女がポンと出せるようなものではない。だから金銭を支払う事の出来る親がいないと受付できないと教えたのだが、


「違うのじゃ!冒険者登録をしたいのじゃ!」


「……一応聞くが歳はいくつだ?」


「ひーふーみー……」


 短くふにふにとした指を折り数を数える幼児。左手から数え始め左手の親指を折ったところで顔を上げ満面の笑みで答える。


「むっつじゃ!」


「一昨日きやがれ馬鹿野郎様が!」


「なぜじゃ!ここで登録できるってばっちゃに聞いたんじゃぞ!」


「ちょっとそのばっちゃ連れてこいやぁ!」


 冒険者はどんな依頼も受けるがその依頼全てに等しく命の危険が伴う。危険度の大小はあるが子供にさせるものではないのは確かだ。

 そもそも子供は家業を手伝い家を継ぐ為の経験を積む、もしくは職人の弟子入りをするのが普通である。冒険者とはその過程を経た結果どの職にもつくことができなかった者の最終的な受け皿であり、子供を対象としたものではない。

 つまり一般的に冒険者とはまともな職に就けなかった者たちとして見下される存在なのである。ゆえにこんな幼い幼児にそんなものを勧めたであろう者に受け付けは怒りを隠せなかった。


「ばっちゃならもうおらんぞ!天に昇ったからな!とうぶん帰ってこん!」


「……ああ……そういう事か、そうか……それは、すまなかった」


 祖母と二人旅だったのか、それともキャラバンだったのか、それはわからないが、行く当てのない子供のため、保護者が死に際に何でも屋を勧めたのではないかと一人納得する。

 まったく気落ちしていないところから察するに、近しい人間の死を理解できていないのだろうが、それでも孤児院を勧めるなり他にも何かあっただろうにと思わなくもなかった。


「しかしそうは言ってもな、おいガキ、とりあえず自分に何ができるかとかわかるか?」


「わしはガキではないぞ!立派なれでぃじゃ!でな!ドラゴンじゃから戦うことができるのじゃよ!」


 何が出来るかと聞かれた幼女は、むふーと自慢げな顔で胸を張りそう宣言した。


「……それもばっちゃに言われたのか?」


「そうじゃ!」


「ああ、うん、わかった。」


 この世界においてドラゴンは天災と同義である。もしもドラゴンに襲われでもしたら隠れてやり過ごすか、誰かを囮にして逃げるかのどちらかのみだ。

 たとえ立ち向かったところで、強靭な鱗に攻撃は跳ね返され、どれだけ守りを固めた装備もブレスの一撃で燃え尽きる、馬鹿正直に逃げ出してもその翼からは逃げられない。

 手練れの冒険者達や軍隊が出張ってもせいぜい追い返すのがやっと、とてもじゃないが倒すことなどできやしない。

 世の中には竜殺しを成し遂げた者もいるとは聞くが、それが本当かどうかはわからない。むしろそれを吹聴するのは酔っぱらいかろくでなしのどちらかだ。


 そんな存在ドラゴンであると目の前の幼女がのたまう。


 受付はおおかたこのなんの後ろ盾もない幼女のために、保護者がハッタリをきかせたかったのだろうと理解するも、ドラゴンはないだろうドラゴンはと目頭を押さえた。

 なんの参考にもならないことを言われただけでは対処のしようもないため、他に何かないかと促す。


「そういうのはいいから他に何ができるか言ってみ?」


「他にかー……あっ!文字の読み書きと算盤ができるぞ!すごいじゃろ!ほめてもよいぞ!」


 幼女は多少考えを巡らすと、全身で私を誉めろと自己主張をしながら出来ることを申告する。

 このくらいの子供ができるのは確かに凄いと思い、受付は素直に称賛する。


「ああそれは確かに凄いな、それなら引く手あまただろう。だがいきなり冒険者になるのはちと難しい、だからまずは教会で住み込みで働いてもらいどの程度できるか試させてもらう、良いな?」


「むぅー、すぐになれるものではなかったのかや?それならそうするのじゃ、何事も順序があるとわしは知っているのじゃよ!」


 冒険者の一歩を踏み出すのを阻止された上に別口の職を紹介されていることに全く気付かず胸を張り自分の知識を自慢する幼女。その様を見て上手くいったと内心ガッツポーズをする受付。


「ああ凄いな、何でも知っているんじゃないか?凄い凄い、それじゃ教会に向かってくれ、そこの通りをまっすぐ行けば屋根に十字がついた建物があるからそれだ。教会の神父には冒険者ギルドのトクに紹介されたって言えばわかるだろう」


「すまんのう!感謝するぞ!わしの冒険が今はじまるのじゃー!」


 ニコニコ笑みを浮かべながらお礼を言うと、これから始まる冒険に胸を躍らせ元気に駆け出していく幼女であった。


 ギルド登録こそできなかったが、彼女の冒険は確かに今始まったのだった。

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