第30話 遭難者?なのじゃ!

 日中でも日の光が届かない森の奥深く。猟師然とした男たちが四人、地面を確認しあたりを見まわしている。


「駄目だな、跡が途切れてる」


 ダオナン達、ギルド専属の斥候専門冒険者パーティー、紫電の眼光である。


 先日に引き続き森の異常を確認しイタチ達の追跡をしていたのだが、再生の早い森のために困難な状況になっていた。


 この時代、森は人類の領域ではない。現代の感覚でちょっと山菜取りにと森に入れば何かに食い荒らされた死体が残るだけである。木を倒し森を開き、野生動物を駆除してやっと人が生きることができる可能性のある場所となるのだ。


 そんな中をたった四人で幾日も森を調べることができるのは流石と称えられる技術なのだ。


「これ以上行くのはまずいな、モンスターを見つける頻度が高くなっている」


「ここまでだな、調査を続けたくはあるが無理に進んで藪蛇になるのも避けたい」


 だがそんな彼らをもってしてもこれ以上の調査は危険であると判断し、これまでの情報とこの先手に入るかもしれない情報と危険性を秤にかけ、引き返すことが決定される。


「結局魔族と妖怪の行方もわからなければ緑の手を助けたのはわからずじまいか」


「もう近くにはいないってわかっただけで良しとするべきか?」


「南の森はもう元に戻ってきてるし、南の森の異常は熊が原因だったんだろう」


「北の森から熊が来た異常は妖怪と魔族、こいつらがどこから来たのかはわからんってな」


「んっ?」


 彼らが手持ちの情報を軽くまとめていると、がさがさと何かが近寄ってくる気配がする。一斉に弓を構え気配の方向を凝視すると、ストレートの金髪を腰まで伸ばした着流しの美丈夫が木々をかき分けて現れた。


「人?」


「こんなところにだと?」


「おい誰だお前は、こんなところで何をしている」


「貴様らこそ、ここで何をしている」


 場違いすぎる闖入者へと紫電の眼光が問いかけるが逆に偉そうな態度で問い返される。怪しすぎるが自信満々のその態度につい答えてしまうダオナン。


「俺たちはギルドの依頼で調査だよ、で、お前は?」


「ふん、答えられたからにはこちらも答えねば義にもとるか、なに、この近くの人里に向かっているところだ」


「はぁ?冗談だろ?」


「なぜそんな冗談を言わねばならない」


 ダオナン達が答えると態度を崩さずありえないことを答える美丈夫。

 現在紫電の眼光がいる位置は北の森の奥深く、魔物も多く熟練の技術を持つ彼らですら危険と判断し調査を中断する場所なのだ。

 南側から来た彼らが見落とすことはありえないため、北側から来たと思われる男が一人、軽装というのもはばかれる格好で現れた上に人里を探していると言う。


「おいこいつやっぱおかしいぞ」


「迷ったにしてもあんな格好で森に来る奴はいねえだろ」


「放逐された犯罪者とか山賊とか?」


「そんな話は一切聞いてないな、ていうかここを根城に出来るような奴なんかいるかよ」


「熟練の魔法使いは杖一本で旅をするとか聞いたことはあるけど?」


「いねぇよそんなやつ、緑の手の時も妖怪が化けてたんだろ?怪しすぎる、頼むわ」


「あいよ≪眉唾≫」


「いきなり魔法とは礼儀も知らぬか」


 満場一致で怪しんだ紫電の眼光は幻を見破る魔法を唱え美丈夫の確認をする。

 だが美丈夫は不機嫌そうに魔法の輝きを眺めているが何も変化がない。最低でも何かが化けているわけではないとわかると、遭難した要救助者である可能性が強くなり、とりあえず保護するべきかと判断する。


「ん、あー、人間だな。すまねえな、こんなところに人がいたら疑うのが当たり前だろ?悪かった、お詫びに人里まで案内するぜ」


「よかろう貴様の謝罪受け取ってやろう。だが気を付けるがいい、いきなり魔法をかけるなどこの私でなかったら諍いになってもおかしくはなかったのだからな」


「あーすまんかったすまんかった」


「心がこもっていないが、猿どもにそこまで求めるのは酷と言うものか。ほれさっさと行くぞ」


「猿ってなんだこいつ」


「迷ってたくせに偉そうだなおい」


 こうして彼ら紫電の眼光はなんだか偉そうな男を一人村に連れ帰るのであった。

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