第28話 冒険者ギルド?なのじゃ!

「たのもう」


 日々雑多な種族が集う冒険者ギルド。それなりに大きいこの村には命知らずの荒くれ共が連日己の命を掛け金に博打に出ては勝利を高らかに謳い上げて帰ってくる。

 その中でもひときわ異彩を放つ着流しを着た金の髪を腰まで伸ばした金眼の美丈夫がカウンターに声をかける。


「へえ、なんですか旦那?依頼の申請ですかね?それとも受諾で?」


「どちらでもない、ここに冒険者登録をしているルルの様子を聞きに来たのだ」


 力さえあれば何でもできるこの時代、ルールを逸脱すれば制裁にあうが、破りさえしなければ強き冒険者は畏敬の念で見られる。

 間違いなく成功を収め、冒険者として大輪の花を咲かしているであろう者の名を告げる美丈夫だったが、


「ルルですか?ちょっと聞いたこともねえですね……ルル……うーん?……いねぇなやっぱ」


 ゴブリン・・・・の受付が首を傾げて返事をする。わざわざ名簿を取りだして最近の出入りのチェックまでしている。


「そんな馬鹿な、寝ぼけているのではないか?これくらいの背丈で元気なドラゴンの子供なのだが」


「はぁ!?ドラゴン!?流石にそんな大物が来てたら眠気なんか吹き飛んじまいますよ」


 着流しの美丈夫は予想外の返事を聞きさらに問いただすが、返ってくるのはもっと強い否定の言葉。どうにもこのゴブリンの言うことは正しいとわかり思案する。


「ふむ?ルルは言いつけを破るような子ではなかったはずだが……なにかあったのかもしれんな。店主、改めて聞くがここには来ていないのだな?」


「ええそりゃもう確かですよ」


「そうか、邪魔したな。何か情報が入ったら教えてくれ」


 いないのであれば用はないときびすを返す美丈夫にそう言えばと慌ててゴブリンの受付が声をかける。


「ああ!でもなんかこの間依頼を半分成功したゴブイタチの奴らがドラゴンを見たとか言ってましたぜ」


「半分成功?」


「ええ、ちょっと熊の肉が欲しいってんで熊討伐の依頼を出したら半分だけ持って帰ってきたんでさ」


「ほう?」


「それで何で半分だけなんだって聞いたらドラゴンに襲われたとか何とか。まぁ大方耳狩猿みみかりざるに負けて逃げ帰ったんだろって誰も相手にしてませんでしたがね。本当にドラゴンと敵対なんかしたら骨も残らねえだろうし」


 耳狩猿とは気まぐれに人々の村を襲撃しては老若男女の区別なく皆殺しにし、必ず片耳を勲章代わりに斬り取っていく猿の通称のことである。

 ひどい場合には耳だけでなく四肢や皮をはぎ取りそれを身につけるという悪魔のような存在であり、冒険者にとってはメインの討伐対象となっている。


 半信半疑というよりはまるっきり信じていない受付であったが、美丈夫が情報を欲しがっているようなのでとりあえずでも伝えておこうという善意であった。


「そのゴブイタチとやらはどこに?」


「今はあっちのテーブルでくだまいてますよ」


 ゴブリンの受付が指をさしたところに三匹のイタチと杖を持ったゴブリンが酔い潰れている。

 情報源としては心もとないが聞かないよりはましだろうと美丈夫は話しかける。


「その方ら、ドラゴンに襲われたというのは本当か?」


「カッ!おうよおうよ!おぬしは信じてくれるか!」


「カカカッ!熊を横取りした猿どもに龍の子がいたのよ」


「ありえんらろ……なんで猿といっしょにぃぃ……」


「ぐぅ……すぅ……」


 美丈夫の言葉に反応する酔っ払い。一人は酔い潰れてぐっすり眠ってしまっているが、話を聞いてくれるかと語りかける。


「カッ!この酔い潰れてるのが熊とタイマンをやらせろなどと言ったのがすべての始まりよぉお!」


「カカカッ!お前もやってみろと煽っておったろうに」


「そうらそうらぁ……」


 棍棒イタチが気持ちよく酔っ払い話を始め、素面の薬壺イタチと酔いつぶれる寸前の杖ゴブリンが茶々を入れる。

 面倒だと美丈夫は不快気な顔をすると懐から丸薬を渡す。


「すまんが酔っ払いの話を聞くつもりはない、これを飲め」


「カッ!これは……」


「酔いがスーッと消えてこれは有り難い」


 酔いつぶれていた鎌イタチがバンッと立ち上がるとテリンとお金をカウンターに放り投げる。


「カカッ!迎え酒だ!もう一杯頼む!」


「カカカッ!やめい!そこな御仁が話を聞きたがっているようだぞ」


 起き抜けに再度酒を頼む鎌イタチを止め話を促す薬壺イタチ。若干の苛立ちを込めて美丈夫は話を促す。


「ああ、そうしてくれると助かるな、それでドラゴンに遭ったという話を」


「カカッ!すまんな!とり逃した熊を追ったら耳狩猿が5匹、いや4匹だったんだがいてな」


「そこの鎌がやられはしたが猿どもは片づけたんだが」


「カッ!龍の子が猿にまぎれておってな、猿のガキだと油断したらあっという間よ」


「カカカッ!我ら全員叩き伏せられ殺されるかと思ったがあやつ笑いながら『どうじゃわしは強かろう!』などと言うてな」


「カカッ!『お互いの健闘を称えて熊は山分けじゃ!』ときた!」


「命を見逃された上に獲物まで譲られる体たらくよ、嘆かわしい。情けない話だがこれで終わりよ」


「カッ!次会うときは必ず勝ち、あの龍に我らゴブイタチの力を魅せつけてやろうぞ!」


 棍棒イタチの叫びに「おうよ!おうよ!」と答えるイタチとゴブリン。ここにいる誰もが知らぬことだが、奇しくもグリンド達と全く同じ感想をこぼすゴブイタチの面々だった。


「……そうか……ルルは猿どもと一緒か、参考になった、礼を言う。これで足りるか?」


 ひとしきり話を聞き納得した美丈夫は礼をすると、金を置き足早に出ていこうとするが、


「カッ!まぁ待て!」


「カカカッ!礼ならこれを飲め」


「カカッ!今日は飲み明かそうぞ!」


「お前は真っ先に酔い潰れるだろうが……」


「ええい!先ほど酔いは醒ましたはずなのになぜもう酔っ払っている!」


 改めて先ほど出来なかった迎え酒をやるぞと酔っぱらいの集団に巻き込まれるのであった。

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