第26話 紫電の眼光なのじゃ!

 ダオナンは困惑した。


 冒険者ギルドからの要請で森にまだ異常はあるのか確認をしてくれと依頼を受け、自分同様森の活動に慣れた猟師兼冒険者である斥候を専門としたパーティー紫電の眼光。


 彼らは冒険者ギルドが依頼者から頼まれた依頼を冒険者に出す前に、内容に不備や虚偽、意図的に隠していることがないか精査し、どの程度の実力があればこなすことができるか、また完了報告を受けた依頼が本当に完了しているかなどを調べるのを旨としている。


 手分けして森の中を調査してみれば、未だ動物は少ないものの、普段通りの森へと戻っていることがわかった。


 ある程度森の調査を終えると緑の手が戦った跡地を調べ、イタチ達がどこから来て何処へ行ったのか調べることになったのだが、


「これは、何があった?」


 ダオナンは困惑していた。

 熊と緑の手を回収した他の冒険者から、熊やイタチとの激戦を物語る跡が残っているとは聞いていた。


 熊と戦ったのであろう跡は報告通りだった。でかい体で暴れまわったため周囲の木々が倒れている。

 一部森の植物が焦げているところがあるのも熊を≪炎の大砲≫を撃ちこみ倒した時の余波とわかる。

 地面に柔らかくなっている部分があるのは、倒した熊を一時的に埋めていた場所だからだろう。


 だがそれと少し離れた場所にある、何かをとても勢いよく叩きつけたようなへこみのある跡に、何かをつきさしたような穴。

 なにより≪炎の大砲≫以上の爆発を受け、地面が大きくめくれ上り、先ほどの熊以上の規模で木々がなぎ倒されている。


 緑の手の報告にあった状況とは全然違うものであることは一目瞭然だった。


「確かに激戦の跡ではあるけどよお」


「こっちが熊と戦った跡だから、報告通りならあっちがイタチと戦った跡のはずなんだが」


「報告と全然違うな、規模が」


「そうだな、たしか使用した魔法は敵も合わせて≪炎の連弾≫≪土の連弾≫≪炎の槍≫だったか。どの魔法でもこうなるなんて話は聞いたことないな」


 爆心地を指しながら報告とまるで違うと紫電の眼光の面々が話を続ける。


「何があったと思う?」


「さあな、何かが地面を叩いて刺して爆発させたとしか」


「報告にあったイタチ以上にやばいものが暴れまわったのはわかる」


「報告にないんだから緑の目がやられた後だと考えれば、この何かはイタチと一戦やらかしたってことか?」


「熊を真っ二つにしたのもロクではないって言ってたな、やったのはこの何かかもしれんな」


「ハハッ、倒れてる人間には目もくれずイタチと戦い、暴れまわった後は熊を半分だけ切り取ってどこかへ行ったって?ハハッねえよ」


 だいたいあってた。あえて訂正するのであればどこかへではなく村に帰ったのだが。


「しかし他に何がある?」


「意外と緑の手が限界超えて暴れまわった結果とか?」


「それこそないな。こんな事が出来るなら勝ってるだろ」


「そう言や妖怪と魔物が手を組んでたっていったよな。この何かと戦う為に手を組んだっていうのも有り得るか?」


「かもしれんしそうでないかもしれん。わかることは妖怪と魔物が手を組んだ。そしてそれを一蹴する何かがいるかもしれないっていう事だな」


「あいつらが手を組んだってのだ気でも一大事なんだが、それ以上にやばい何かがいるとか堪んねえな」


「とりあえず報告だけするか、イタチ以外にも何かやばいのが来てるって。一応後で緑の手にも見てもらってあいつらがやったのか確認しないとな」


 その後、さらに一通り検分をしここでの調査を終えた紫電の眼光は、一旦ギルドへ報告を終えた後、現場に残っていたイタチ達の跡を追い森の北部へと調査を進めるのであった。


 教会への土産として獲物を仕留める余裕はなかった。

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