第9話 神父の依頼なのじゃ!

「で、では今度こそ冒険者ギルドにあいさつに行ってくるぞ!」


「なんだ嬢ちゃん、ギルドに用でもあるのか?」


 お叱りを受ける前に一刻も早く逃げ出そうと、逃げ出す口実を見つけたルルは、そう宣言すると走りだそうとしたが男の声に引き留められる。


「そうなのじゃよ!ちょっとお礼にな!」


「そりゃえらいな!何か依頼でもしたのかい?」


「いえ、そういうわけではないんですよ、実はその子はギルドの紹介で教会預かりになりましてね」


「そうか、嬢ちゃんも大変だったんだな……よし、そうとわかれば俺たち緑の手が連れてってやろうじゃねえか」


 事情を察した男たちはこの小さな幼女のためにちょっとした善意を示す。


「む!子供のお使いでもないのじゃから一人で十分じゃよ!」


「そう言うのは自分を見てから言おうな!なに遠慮すんなって!」


 実際子供のお使い同様である。その上一回失敗している実績付きだ。一人歩きはまだ早いと思われても仕方のない事だろう。

 だがそれで納得しないのが子供である。言われたことをそのまま受け取ったルルは、短い手足やプニプニとした胴体を良く見た後に、これで完璧と言わんがばかりの笑顔で言い放つ。


「大丈夫じゃ!」


「……ギルさんよ……」


「……すみません、本当に」


「いきなりどうしたのじゃ?せんせぇ?」


 呆れる男たちに、落ち込む現保護者、知らぬは当事者ばかりなり。心配そうに覗き込むルルのほっぺたを両手で軽く挟んで変顔をさせながら、これを一人で送りだすのは流石にまずいと気付いたギルは、男たちに視線を飛ばす。


「もう今日の依頼を受けていますか?いなければ依頼したいことがあるのですが」


「むにゅー!」


「これから受けようってところでその嬢ちゃんを見つけてな、まだ受けてねぇんだわ。んで依頼ってえとこれか?」


 絶賛変顔中のこれことルルを指さしながら返事をする男。ルルを挟みながらそれに肯き申し訳なさそうな顔で答えるギル。


「ええ、すみませんが良いでしょうか?依頼料も払いますので」


「むにょー!」


「ああいいぜ、ギルさんにはいつも世話になってるしな!依頼料も出るなら文句ねえや、皆も良いよな?」


 男の言葉に残りの三人も肯定の返事を返す。ギルのほっぺた挟みから解放されたルルは先のやり取りに気付いた様子もなく怒りを表す。


「もー!なにするんじゃー!心配してやったというに!」


「それはすみません、ご心配ありがとうございます。ですがもう大丈夫ですのでご安心ください」


「ん?んー、そうなのかや?それならもっと感謝してもよいぞ?」


 ほっぺたを挟まれ唸っていただけだったにも関わらず、尊大な態度で胸を張り笑顔をみせるルル。微笑ましく感じたギルはいつものように頭を撫でる。


「ではギルドには後で依頼を出しておくので、依頼と受諾が前後してしまう形になってしまいますが、日没前までお願いします」


「よし、じゃあ行くか嬢ちゃん!」


「だから一人で行けると言うとろうに!」


「へへっ悪いな、俺らが連れてってもらいてぇのよ」


「なんじゃ?それは仕方ないのう!わしが案内してやろう!ついてくるがよいぞ!」


 こうして簡単にのせられたルルは緑の手一行と共に冒険者ギルドに向かうのであった。

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