第10話 緑の手なのじゃ!
「こっちじゃ!この道を進むとあるんじゃよ!」
ルルの先導で冒険者ギルドを目指す一行。教会を出て当初は駆け出そうとしたが、先ほどの失敗を思い出し走るのはやめて歩くことにしたルル。走らずとも元気に腕を振り歩いているが、幼児であるためその歩みは遅い。
この歩みではギルドまでそれなりに時間がかかるなと感じた男たちは、この幼女が先ほどのような無茶をしないよう、ギルドに着く前にいくらかの情報交換をしようと思い立つ。
「嬢ちゃん、案内してもらって挨拶も出来ねぇ奴だと思われちゃたまんねえからよ、自己紹介させてくれや」
「む!それは良い心がけであるぞ!挨拶は大事じゃ!わしはルル!冒険者をやるためにシスター見習いをやっとる!」
「ほう奇遇だな、俺は冒険者をやってるグリンドってもんだ」
「冒険者!そういえばさっき教会でせんせぇも言うとったな!みどりのてとかなんとか!」
「緑の手ってのは俺たちパーティーの名前だな。パーティーってのは大体4人から8人程度でまとまったチームの事だな。んでこいつらが」
グリンドの声に合わせ残りの三人も自己紹介を始める。
最初に体格の良い青髪短髪の青年が挨拶をする。
「ロクだ、剣士をやっている、よろしくな」
次に赤い髪を耳に被るまで伸ばした青年が挨拶をする。
「カズ、魔法使い、専門は攻撃魔法、よろしく」
最後に金髪を肩まで伸ばした優しげな青年が挨拶をする。
「僕はカラ、僧侶で回復とサポート担当だよ、よろしくね」
「ほほー!グリンドは何をやっておるんじゃ!」
「俺はパーティーの盾だな」
「盾とな!なんか地味じゃのう!」
「ばっかお前盾役ってのは重要だぞ、盾役が囮をやって引きつけてできた隙をロクやカズが攻撃するって寸法よ」
「なるほどのう!それぞれ重要な役割があるのじゃな!わしはやるとしたら何になるんじゃろうな!こう、バンバン殴るのがいいのう!」
そう言うとぷにっとした手で拳を作り虚空に向かってパンチをするルル。それを呆れた目で見ながらグリンドが現実的なことを告げる。
「そんな柔らかそうな手で殴ったら逆に痛めちまうだろ。シスターやってんだからカラと同じ回復魔法とサポートにしとけって」
「むぅ!わしなかなかのものじゃよ!?でもせっかく習った魔法使わないのももったいないかのう?」
「そうそう、適材適所って奴だ。それに冒険者なんて目指すものでもねぇぞ」
「なぜじゃ?!冒険者じゃぞ!かっこいいじゃろ!」
「あーそうだな、だいたいの冒険者の最終目標ってなんだとおもうよ?」
「決まっておろう!何かすっごいの倒してみんなから誉められることじゃよ!」
どうだと言わんがばかりの態度で抽象的なことを言いだすルル。それを聞き苦笑いを浮かべる緑の手の面々。
「なにひとつ具体的なことの無い答えだなぁおい!まぁ俺らも最初は似たようなもんだったか、でも悪いな、答えは安定した職だ。農家や商人とかその他専門的な職全部だ。」
「なんじゃそれ!」
「歳を取れば体も動かなくなってくる、嫁を取れば家族もできる、冒険者なんていつ死ぬかもわからん仕事は出来なくなる、落ち着ける場所が欲しくなるんだよ」
「お、おおう……」
「そもそも冒険者なんてそういうのにあぶれた奴らがなるもんなんだよ。俺みたいな農家の三男とかな。だからお前も冒険者なんて目指してないでそのままシスターやっとけ。シスターだってそうなれるもんでもねえんだぞ」
冒険者をやるためにシスター見習いをやっているという自己紹介を聞き、それだけは止めるべきだなと感じたグリンドの善意は、ルルに非常な現実を叩きつけることとなった。
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