始まり迄(2)
漸く周りを見渡す余裕の出てきた私は愕然とした。幸い私は
死屍累々或いは地獄絵図。
私は暫し黙祷すると、隣で気を失っている片桐を起こしに掛かった。此奴私より筋肉有るくせに何で気を失っている時間は長いんだ?
我がバスの生存者合計十二名。残酷だが、抑の数が四十数名の為、四分の一の確率で私達は生存した。安全帯のお陰とも云える。
「よう、これはどうなってるんだ?」
目覚めた片桐が訪ねてくる。
「分からん。だが、恐らく雪崩だろうな。道路から大分離れているみたいだし、それにほら、乗用車も巻き込まれてる」
私は辺りを見渡し、七割がた雪に沈んだ乗用車を指差した。
「彼の娘何してるんだ?」
そう訪ねてきた片桐の指差した方向には雪を引っ掻く、短く切りそろえられた黒髪の中学生位の少女がいた。この少女こそが私達が巻き込まれた雪崩の、引いてはこの後の恐怖の一因となっているのだが、そうとも知らないその時の私は、呑気に片桐は私に何でも聞けば分かるんじゃないかと云う幻想でも抱いているのか?と思いながら答えた。
「雪を掘ってるんだろう。何か叫んでいる様だし、父親と母親でも雪崩に巻き込まれて、あの雪の下になってるんじゃないか?」
「じゃ、助けないと」
片桐はそう云うと同時に安全帯を外しにかかった。私と片桐以外の乗合自動車の乗組員も目覚め始めていたし、大丈夫だろうと思い、私もそれに続いた。
乗合自動車の潰れている部分に人一人入れそうな隙間が有ったので、私達は其処から出る。
上着は来ているのだが、如何せん頭が冷たい。私達は頭を白く染めながら少女の下へと近づく。
成程、私の予測通り、少女は父さん母さん、と叫びながら雪を掘っている。
どうする、と片桐が聞いてくるので私は答える。
「君は彼の娘を手伝って雪を掘ってくれ。手袋を付けているよな。私は彼の娘を乗合自動車の中へ運ぶ。彼女、手袋を付けていないみたいだしね」
片桐は首肯いたのを確認して私は少女へと声を掛けた。
「何をしてるの」
少女は此方に目を向ける所か、手も休めずに答えた。
「父さんと母さんを探しているの」
予告し得た返答に、私は返答する。
「それなら其処の片桐と云うお兄さんがしてくれるから、心配しなくていいよ。君のご両親は必ず助けるから」
私は手袋を取り、少女の手を握る。氷そのものを握っているかの如く冷たい。所々血がにじみ出ている。
「少し休んだ方が良い。死にかねない」
私は作業は片桐に任せて少女をバスの中に連れて行くことにする。
でも……と少女はごねるが、私は君が死んだらご両親は悲しむだろうだとか云って乗合自動車の中に連れ込もうとする。
「知らない人について行ったらいけないってお父さんに言われました」
「大丈夫。今私達は知り合っただろう?即ちついて来て良いんだよ」
私は少女が不安にならない様に満面の笑みをした。犯罪者を見る様な目つきで見られた。軽く凹む。
かくなる上は、と私は決心すると、少女を抱え込み無理矢理連れ込もうとする。少女は必死の抵抗をしたが、哀しいかな頭二つ分の身長の差は如何せん埋め難く、結局少女は乗合自動車の中へと連れ込まれた。
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