混沌の恐怖
芥流水
始まり迄(1)
私が
そのスキー合宿と云うのは、一年生の希望者のみが参加でき、スキー部の強行軍とはまるで違うほのぼのとした物で有る。因みに私は文芸部であり、本来はスキーなど興味が無かったのだが、級友で親しくしている、
片桐はボート部所属で背も高く、体格も良い男である。然し軽口を叩きすぎるのが玉に瑕だ。
片桐曰く、スキーで格好良い所を見せて彼女を作るらしいが、彼は私同様スキーは初心者のはずなのでそれは無理な話である。
県境を超えて、合宿が行われる県へと入る。トンネルに入る以前の景色とは違い、一面銀世界だ。
少しだけ感心して、私が手元の『ドグラマグラ』に目を戻そうとすると、隣の席に座る今迄寝ていた筈の片桐が声をかけてきた。
「おい、
大石とは私の姓である。氏名は
「川端康成の雪国で、正確には国境の長いトンネルを抜けると雪国であった、だよ。君がそれを知っているのは意外だが、もう少し正確に頼む。読んだことある?」
「うんにゃ。余りそう云うのの好きじゃ無いからなぁ」
「確かに君がラノベ以外を読んだ所は見たことない」
私は何度か首肯して、本に戻ろうとすると、片桐が又も邪魔をしてくる。
「大石、何を読んでいるんだ」
「ドグラマグラ」
「ああ、あの読めば一度は精神に異常をきたすという」
「その通り。まぁ流石に読むだけで
何を云っているんだ?と片桐は首を捻る。この中途半端に本の知識が有り(恐らくラノベから仕入れたのだろうが)そして読んではいないこの親友には分からないだろうな、と私は失笑する。
「何笑ってんだよ」
「イヤ失敬失敬。少しね」
「少し……何だ」
「少し面白くてね」
「だから何がだよ」
真逆目の前の男が、とは言えなくて私は曖昧に語尾を濁す。片桐は変な奴だとかぶつぶつ呟き乍ら目をつむる。もう一度寝るつもりなのだろう。
私も手元の本に意識を戻す。バスは静かに(スキー合宿で気分が高揚している回りが若干喧しかったが)進んだ。
バスは山を登る。一緒に乗っている担任がこの山の頂上付近にスキー場と私達の泊まるホテルが有ると告げる。道路の左右には一
白くて綺麗。絶景かな絶景かな。そう嘯く。風で雪が舞う。天女の舞が如し。
こんな適当な事をしていると、回りが急に騒がしくなる。そして横への衝撃。重力がめちゃくちゃな方向へ。そしてーーー。
僕が気がついた時には全てが終わっていた。或いは始まっていた。最悪だ、と私はこの時呟いたが、本当の最悪は後からやって来る、若しくは重なると云う事を私はこの後知ることとなる。
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