孤立の館
私達は雪原の行軍を始めた。先程迄は晴れていたのに、まるで待ち構えていたかの様に雪が降り始めた。
「本当に嫌らしい山だな。悪意すら感じる」
片桐がぽつりと呟いた。別に返事を求めていたわけでは無いだろうが、私は返答する。
「悪意ね。それより命の脅威を感じるよ。現在の境位を考えると。自然の驚異とは正しくこれだ、てね」
「ま、目的地は見えてるわけだし十全じゃない」
「死人が出てる時点で十全では無い。でも、この状況で生きてるだけで幸運だよね」
そんな他愛もない話をしているといつの間にか雪が強まっていた。それこそ悪意を感じる程に。しかし、洋館へもまた近づいていた。二階建てのようである。もう少しだ。
「着いた、か」
「みたいだな」
壁に手を触れ、片桐と確認し合う。後ろを振り向くと十人全員付いて来ていた。一人も欠けていない。今、扉の前にいるが道路は見えない。雪に埋れているとすると此処しばらくは人が近づいていないことになる。非常にまずいかもしれない。
「これが捨てられた別荘なら最高に最悪だな」
そう呟き扉に手をかける。すると、ぎぃと音を立てて開いた。カビ臭い匂いが鼻を突く。
取り敢えず入ろう、と皆を促し中に入る。扉の向こうは玄関ホールになっていて、正面に大きな二階へと続く階段がある。ひょっとしたら誰かいるのかと思い一縷の望みをかけて誰かいませんか、と大声で叫ぶが虚しく響くばかりであった。
取り敢えず手分けをして電話が有るか、役に立つものは有るか、探ることにした。泥棒に来たわけじゃ無いんだけどな、という片桐のぼやきは無視して。
探索中に夜となり、別れる際に決めたとおり、一旦玄関ホールに集まる。其れから全員が一旦玄関の左隣にある
「それじゃ、知らない人もいるし、取り敢えず自己紹介と探索の報告を兼ねて行こうか」
何故か片桐が仕切る。立ち上がり、胸に手を当て声を出す。
「では先ず俺から。時計回りで良いよな。片桐雄壱という。こちらの大石と内藤と一緒に一階の右側ーこの部屋とは逆側だなーを調べてた。が、この蝋燭を除いて何も無かった。蝋燭だけは山の様に有ったからがんがん使っても構わない」
そこまで言い、此方へ目線を送ってきた。どうやら次を言えということらしい。私は立ち上がり口を開いた。
「大石汐です。探索結果は片桐と同一で、残念ながら水と電気は通って無い様です。お菓子は少量ながらバスから持って来ていますので、当分の所は死にはし無いでしょう。次、どうぞ」
「内藤アルトです」
内藤はそれだけを言って座った。緊張しているのかもしれない。或いは死の恐怖に怯えているのか。それを慮ったのか、武蔵野が引き継ぐ。
「武蔵野歩美と言います。玄関ホールの右の奥に扉が有ったけど物置でした。清掃用具が有ったけど他は何も無かったです」
武蔵野はぺこりと頭を下げる。長い髪もするりと動く。
「私は
「私は
「
此処まで、私と片桐を除く全員が女性だった。以降は男性が続く。
「僕の名は
「俺は
どうやら全員結果は芳しく無かったようだ。外の様子は見え無いが、強風が食堂の窓を揺さぶる音が聞こえる程強い。
あの、と橋下が遠慮がちに手を上げた。促すと、彼は語り始めた。
「俺の友人に
成る程この様な少々ややこしい作りではあるが、小さい家で迷うとは考えにくいが、網皮君とやらは迷ったらしい。若しくは夜になり明かりも無いなか動くのは危ないと思いじっとしているかだが。
「うん、暖房器具も動かない、外と違うのは雪風しか防げない状況では凍死の可能性も十分にある。しかし此処で探しに行くと二次被害を生む恐れもある。明かりはこの蝋燭だけだし」
私はそこまで言うと口を噤んだ。もう何も言わずともわかるまい。
「つまり探しに行かない、と」
橋下の言葉に私は頷いた。そして立ち上がりかけた彼を手で制しながら私は更に彼の説得を試みる。
「まぁ、明日探しに行こうよ。この雪山に来ているということは防寒着を着ているということだろう。一晩位大丈夫な筈だ。」
橋下は結局私に説得される形になり、網皮の捜索は明日の朝に行うこととなり、私達は取り敢えず眠ることとなった。
そして翌日の朝、網皮は発見されたのだ。但し死体となって、だが。
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