3.耳としっぽ
理仁が電話を掛けに席を外すと、途端に真壁がにぎやかにしゃべりだした。
どうも、第二案――パティがお出かけできない案を作るには作ったけど、乗り気でなかったらしい。
「はー、よかったぁ。理仁に抵抗されたらどーしよっかと思ったよ」
「へえ、真壁でもストレス感じることあるんだ」
遊真がにやにやしながらからかう。からかいながら、テーブルに部品らしいものを並べていく。きっと、昨日買いに行った戦果だろう。パティの充電パックを作るとか言ってたっけ。
「おいおい、半田付けとかこの机の上でやるなよ? 絶対焼け焦げ作るから」
「わかってるよ。……二度目はしないって」
ちらりと遊真の視線がテーブルの端っこに注がれる。るかもつられてそっちを見やると、一か所だけ妙に黒いところがあった。あまり目立たないように修正されてるけど、見たらばっちりわかる。
「縁側にでも作業机出すか?」
「やだ。あっちはエアコン効いてない」
「じゃあ、キッチンのテーブルはどう? 食事の用意してない時なら構わないけど」
「んー……作業中はそのまま置いときたいからなぁ」
「んじゃ作業机運び込むか。折り畳みでいいか?」
「うん」
部品の仕分けに集中し始めた遊真は振り向きもせずに答える。真壁はと見ればさっさと立ち上がって奥へ歩いていく。たしかあの先は納戸があったっけ。
なんて思ってる間にさっさと折り畳みテーブルを取ってきて、ぱぱっと設置してしまった。
「ここでいいか?」
「えーっと、お泊りの時に布団の邪魔にならないところ」
「じゃあこっちだ」
ソファを寄せた横のスペースに机を寄せると、遊真は机の上の部品を持ってさっさと移動した。
「ねえねえ、るか。パティさんの耳と尻尾はどうやって隠すつもりなんだろね、理仁くん」
「え? ああ、そうねえ。……帽子かぶるとか、しっぽはそういう飾りだと言い切るとか?」
めぐの質問に、パティのほうを見ながらるかは答える。
「でも、浴衣に帽子は似合わないでしょう? しっぽは浴衣の下に隠すとしても。……パティさん、ちょっと動かないでね、写真とるから」
「え、あはい」
めぐはそう言いながら、パティの写真を一枚撮ると、ちょいちょいとその上に浴衣を羽織らせる。紺色の花火柄の浴衣、結構似合う。けどやっぱり耳は違和感ありありだわ。
「うーん、やっぱり難しそうだよ。浴衣はあきらめたほうが……」
「えーっ、みんなで浴衣着たい。せっかくだもの」
めずらしくめぐがいやいやをするように首を振る。パティは申し訳なさそうな顔でしょんぼりしている。
そうだ、やりたいことを全部やろうって、言ったばっかりじゃない。
るかは両手で自分のほっぺたをぱしんと叩くと自分の端末に指を滑らせた。モニターが開く。
「じゃあさ、みんなで猫娘にならない?」
「え?」
「なになに?」
真壁がいきなり振り向いた。
「るか、それって真壁君たちもってことだよね?」
「えっと……うん。あたしたちだけ猫娘のコスプレじゃあつまんないもの」
にかっとるかは笑った。
「いいじゃん、面白そう。おい、遊真、そういうの探してくれねえ?」
「また僕かよ。……真壁の端末でだってそういうの探せるんだぜ?」
やれやれ、って顔をして手元の細かな部品から顔を上げた遊真は、でもちょっと楽しそうに口角を上げている。
「だってよー、俺が探すよりぜってー
「……まあ、真壁の脳筋じゃ探し出すのに一か月かかりそうだしな。しゃぁない。どんなのがいい?」
遊真は大きなテーブルのほうに戻ってきて、端末の画面をテーブルの上にも投影させた。全員で画面をのぞき込む。
「パーティーグッズでいいんじゃね? よくあるベルトに挟むしっぽとか、カチューシャについた猫耳とかさ」
「それじゃ一発でばれるよ。どうせだからちゃんとそれっぽく動くのがいいな。……こんなのとか」
表示されているのは、きわどいミニスカのオレンジ色セーラー服を着たコスプレの人の映像。ちゃんとぴくぴく耳も動くし、しっぽも動いてるのが見える。
「あ、なんかそれっぽい」
ちらりとパティの耳やしっぽを見る。
パティも興味津々で画面を見つめていた。
「すごい……これ、ほんとに
「違うよ。これ全部作りもの。よし、パティさんをだませるくらいなら大丈夫だろ。五人分頼んどく」
遊真がちゃちゃっと操作するとテーブルの上に展開していた画像が消える。
「頼むのはいいけど、間に合うの? それに値段……」
「大丈夫」
眼鏡をずりあげて、珍しく遊真がいたずらっ子みたいににやっと笑った。
「
「ええっ!」
参考書より安いって……どんだけ安いのよ。
「あの、でも、いいんですか?」
「いいのいいの。木を隠すなら森の中っていうでしょう?」
「うんうん、一人より六人のほうが本物がどれかわからなくていいよね」
「どうせなられおさんと麻紀さんの分も頼もうか」
「じゃあ、お父さんの分も」
「ええっ、マジかよ。じゃあ、お前の姉ちゃんの分も買えよなっ」
「うげ、やぶへび」
くすくす笑いあいながら、遊真は結局八人分を注文した。
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