2.保護者
「な、なに?」
じっと見つめてるとるかは居心地悪そうに視線をそらした。
「おじさんたち、元気にしてる?」
「へ? あ、当たり前でしょ。このくそ暑いのに毎週ゴルフだのスポーツジムだの行って体鍛えてるわ」
「そっか。三十一日っておじさん休み? 夏祭り、一緒に来られないかな」
「あー、どうだろ。特に聞いてないけど……ってなんで夏祭りにうちの両親引っ張ってくるわけ?」
「この間のお買い物の時にも思ったんだけど、保護者がいれば麻紀姉も文句言わないんじゃないかと思ってさ。麻紀姉、しばらく帰ってこないみたいだし、れお兄だけだとるかたちまで目が届かないだろ?」
それに、パティと合わせる機会にもなるし。わざわざ顔合わせの場所を設けるのってなんかかたっ苦しいし、それよりは自然に合わせられるんじゃないかってね。
「ってことは、お父さんだけじゃなくてお母さんも一緒でないとだめってこと? 無理無理。プールに肝試しに夏祭りって、絶対途中でばてるわよ」
目を丸くしたるかは慌てて両手をぶんぶんと振る。
「そっか。……でも一応話、してみてくれない? 合宿の許可ももらわないとだし、スケジュール聞いてみてくれない?」
「そりゃそうだけど……今すぐ?」
僕はカレンダーを見上げた。お祭りは三十一日、お泊り会は三十日からで、今日は二十八日だ。
「うん、今すぐ」
「わかった。……ちょっと待ってて」
るかは立ち上がると出て行った。物音からすると、玄関から靴を履いて出て行ったらしい。
「めぐは大丈夫?」
「うん、それは大丈夫。るかと一緒って言ってあるから」
にっこりとめぐが応じる。いや、るかと一緒だけど、僕らもいるんだけど?
「理仁、つまりるかのおやっさんに保護者になってもらうってことか?」
「そう。でもおばさんが来られないんなら、ほかにもう一人大人の女の人がいるなぁ……」
僕はそう言いながらちらりと遊真を見る。遊真は心底いやそうな顔をした。
「勘弁してくれよ。姉ちゃん呼べっていうんなら僕は降りる」
そう、遊真には姉が二人いて、確か上のほうが今年大学生のはずだ。でも、仲悪いらしいんだよなあ。
前に会ったときにはそんな弟をいじめるような人には見えなかったんだけど。
「じゃあ、うちの姉ちゃん連れてくっか」
「ええっ、真壁の姉さんって……」
僕は前に会った真壁のお姉さんを思い出した。真壁と同じぐらいの身長で、グラマラスボディの持ち主。確か、麻紀姉の同級生じゃなかったっけ。
あれ、でも確か結婚したって聞いたんだけど。
「出戻ってんだ。今」
「げっ」
遊真が声を上げた。
うん、僕も実は苦手だ。前に真壁の家に遊びに行ったらさんざん遊ばれたんだよなあ。……まだてんでガキだったけど。
「暇してるはずだから、声かけたら来るだろうけどよ」
「勘弁してくれ……」
ぱたぱたと足音が戻ってきた。るかだろう。
部屋に戻ってきたるかはにこにこしていた。
「ごめん、遅くなって。お父さん大丈夫だって」
「お、そっか。ありがとな。おばさんは?」
「うーん、お祭りだけならいいよって。プールとか肝試しとかは無理って言ってた」
「そっか。……肝試しはおじさんとれお兄でいいけど、プールはやっぱり大人の女の人がいたほうがいいよね」
「あの……わたしがいてもだめですか?」
「え?」
おずおずと言い出したパティの声に、全員が振り返った。
「あの、わたし、一応十八ですし……」
「いや、だってパティを守るために保護者つけるわけだし、その保護者がパティじゃあ、麻紀姉が納得しないよ」
「あ、そっか……ごめんなさい」
しゅんとしたパティに、遊真はため息を吐いた。
「わかったよ。うちの姉に頼んどく」
「遊真、いいのか?」
眉間にしわを寄せて遊真は頷いた。
「プールだけでいいんだよな?」
「うん、それで大丈夫だと思う。おじさんはプールも来てくれるんだよな? るか」
「うん、久しぶりで楽しみだって言ってた。遊真、理仁、覚悟しとけって言ってたよ」
にかっと笑うるかに僕はげーっと顔をゆがめた。
るかのおじさんと前に一緒にプール行ったときっていうと小学校中学年ぐらいだったと思うけど、五十メートル泳げるようになるまでしごかれたんだよな。真壁はスポーツ得意だからさくっと百メートル泳いだけど、僕と遊真はなかなか泳げなくて……。
ああ、そんなこと考えてる場合じゃないや。
とりあえず、これで麻紀姉を納得させられるだけの情報はそろったかな。
「じゃあ、れお兄と麻紀姉に電話してくる」
「おう、頼むぞ、理仁」
「よろしくね、理仁くん」
片手を上げて左手の端末に手をやる。
まずはれお兄に話通さないと。
麻紀姉にはそのあとだ。
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