2.お泊り会の計画

 焼きたてメレンゲを囲んでお茶にする。プリンのホイップクリーム添えは気に入ってくれたようで、真壁も理仁もお代わりを要求するくらいだった。

 るかはメレンゲをつまみながらポーションを入れていないミルク入りアイスコーヒーを味わう。メレンゲの甘さがちょうどよい。


「そういえば、遊真は明日も来ないのか?」


 真壁が思い出したように口を開くと、理仁は首をかしげた。


「どうだろな。今日は部品仕入れに行くって言ってたけど、足りなければ明日も買い出しに行くかもって」

「そっか。お泊り会の話、進めたかったんだけどなぁ」

「とりあえず日付だけでも決めとけば? 遊真以外はみんないるし」


 理仁の言葉に真壁はぐるりと見回した。


「うーん、そういうの、俺苦手なんだよなぁ。遊真のほうがとりまとめうまいんだけど」

「じゃあ僕が取りまとめるよ」

「さんきゅ。俺はお盆休み以外はどこにも行かねえからいつでもいいぜ」

「僕はいつでもいいよ。めぐとるかは?」

「わたしもお盆は実家に戻ってる」

「あたしも」

「なんだ、じゃあお盆以外はいつでもいいのか」

「パティは?」

「えっと……」


 パティはちらりと理仁をみて気まずそうに口を開いた。


「迎えがいつ来るかわからないから……」

「あ、そっか。じゃあ、早い方がいいんじゃねえ?」

「そうだなぁ」


 理仁はカレンダーをテーブルの上に広げた。


「明日からとか?」

「俺はいいけど」

「あたしも大丈夫だけど、遊真くんの都合がわからないんじゃない?」

「あーそっか。それにパティの充電パックの工作するって言ってたっけ」

「それ、うちでできないかな。あとで聞いてみるよ」

「そうね。それに、一応準備がいるし……ところで、ねえ。お泊り会って何するの?」

「あ、それあたしも気になる」


 真壁に視線が集まると、言い出しっぺは頭をがしがしかいた。


「えー、言っちゃうと面白くないだろ?」

「でも、準備の都合もあるしさ。どっかに遊びに行くわけじゃないんだろ?」

「いや、それがさ……近々夏祭りがあるだろ?」

「ああ、そういえば、チラシ来てたね」


 るかは家に入っていたチラシを思い出した。

 この時期は毎年近くの神社で祭りが行われる。縁日が出たり神楽や舞などもあったりして本格的な祭り。チラシ自体を持っていくと子供なら景品がもらえるというやつだ。


「夏祭り行って、川岸で花火して、学校で肝試しって考えてんだけど……ダメかなあ?」


 真壁の提案に理仁は唸った。


「うーん、麻紀姉とれお兄に相談してみるけど、ダメって言われるかも」

「えっ、この間モールに行ったときは何にも言わなかったのに?」

「あれは、二人ともついてきてたし」

「あー、そっか……」


 男二人は腕組みして眉根を寄せた。


「ねえ、難しく考えなくても、パティさんのやりたいことを聞いてみたら?」

「いや、でもさぁ。外に出られないっての、ストレスじゃねえ?」


 るかの提案に真壁は首を横に振る。それでも、とパティの方を見ると、パティは苦笑しながら手を振った。


「あの、わたしはいいです。迎えが来るまで家でおとなしくしてますから、皆さんで楽しんでください」

「でも、せっかくここまで来たんだしさぁ。なんかやりたいことないの? 見てみたいところとかさぁ」


 真壁の言葉にパティは視線を落とし、それから顔を上げて微笑みを浮かべた。


「行きたいところはいっぱいあるんですけど、理仁や皆さんに迷惑がかかると思うから、迎えが来るまではやっぱり家にいます」


 その微笑みはとても寂しそうで、るかは思わず首を横に振った。


「ダメだよっつ、そんなの。ねえ、理仁。どうにかならないの?」

「るか?」

「るかさん、わたしは大丈夫ですから」


 パティはにっこりとるかに微笑んで見せる。それでもるかは首を縦には振らなかった。

 しばらく理仁は二人を見つめていたが、決心したようにうなずいた。


「麻紀姉とれお兄を説得してみる。だから少し時間をくれる? いつでもお泊りできる準備はしといて」

「うん、わかった。……わがまま言ってごめん、理仁」

「真壁は家の中でもできるお泊りプランと二つ作っといて。祭りって今月末だっけ?」

「そのはず。ちょい待って」


 うれしそうにニィっと口角をあげると、真壁は腕の端末で調べものを始めた。るかはめぐとパティと視線を交わして嬉しそうに微笑みを浮かべる。


「じゃあ、お泊りの時はみんなでご飯を作らない? いつも理仁くんにしてもらってるけど、みんなで」

「え、別にいいのに」


 顔を上げた理仁にめぐは首を横に振った。


「ほら、小学校のキャンプの時だってみんなで役割分担して作ったでしょ? あれと同じよ。献立はやっぱりカレーかしら」

「カレーいいねえ。デザートはプリンにしてくれよなっ」


 真壁はうれしそうに賛成する。


「いいわね。じゃあ、プリンは男性陣に任せようかしら」

「えっ、俺らが作んの? あ、でも理仁がいるから大丈夫か」

「そういって全部理仁くんにさせたらダメだからね?」

「ちぇっ、わかってらぁ。遊真と三人で分担すりゃいいんだろっ?」

「その通り。じゃあわたしは献立作って、買い出しメモ作るから。買い出しは力のある男性陣でお願いね」

「げっ、それも俺らかよっ。俺らの負担、高すぎじゃね?」

「何言ってんのよ。こういう時にこそあんたの筋肉が役に立つんじゃないのよ」


 るかの言葉にパティも理仁もくすくす笑い出し、真壁はぶすっと唇を尖らせた。


「へえへえ、どーせ俺は役立たずだよっ」

「そんなことないよ。お泊りプラン、考えてくれるんだろ?」

「そう言ってくれるの、理仁と遊真ぐらいしかいねーよ」


 じゃれあう男二人に女三人はくすくす笑いながら、食事の献立をあれこれ組み立て始めた。

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