第68話 薫子と王子様とお姫様⑥
柚葉ちゃんの家に遊びに行ってから、数日が過ぎた。柚葉ちゃんの他の友達とも話せるようになり、友達が増えた。全部柚葉ちゃんのおかげである。
「……」
しかし、全てが上手くいってるというわけではない。だって、自分の気になっている御坂くんが、その柚葉ちゃんの好きな相手なのだ。あれからずっと、このことに悩まされていた。
他の子に指摘されてもはぐらかしているが、反応的にどう見ても好きなのだろう。
私の方は、まだ好きかは分からないけど、御坂くんのことが気になっているのは事実だ。じゃあ、御坂くんは?
何回か話しただけの、私のことが好きだとかはないとして、柚葉ちゃんのことが好きなんだろうか。それとも……。
「……」
愛里沙ちゃんと話す柚葉ちゃんをちらっと見る。
もし、私が御坂くんに告白したら、付き合えたら、柚葉ちゃんは友達で居てくれるだろうか。この前のちょっと怖い反応的に、絶好される気しかしない。
それは絶対嫌だである。柚葉ちゃんは私の大切な友達なのだ。彼女が声を掛けてくれなければ、きっと今も一人で過ごしていただろう。
かといって、御坂くんが気になるという気持ちも抑えられない。
「うーっ……」
特に何が起こっているという訳でもないのに、私はついつい呻いてしまう。
「薫子は、GW中に暇な日ある?」
「え?」
考え込んでいたら、急に柚葉ちゃんに声を掛けられる。
「聞いてなかったの? 愛里沙が休み中にみんなで天衣モールでも行かないかって」
「天衣モール……」
確かこの辺りで一番大きなショッピングモールのことだ。
「そうそう。それで暇な日あるかって」
「あ、いつでも大丈夫だよ。今年のGWは出掛ける予定ないし」
お隣の市にファンアニショップがあるらしいので、ママとそこに行く予定はあるのだが、別にいつでも良いので、他の子の予定に合わせられる。
「そっか。じゃあ、初日は?」
「あ、ごめん。私、その日は予定ある」
愛里沙ちゃんの提案を柚葉ちゃんが手を合わせて謝罪しながら、断る。
「じゃあ、次の日は?」
「その日なら良いよ」
「わ、私も大丈夫」
柚葉ちゃんが頷いたので、私も言葉を続ける。
「じゃあ、他もおっけーだったら決まりね」
愛里沙ちゃんがそういって、頷いた。
「ここが天衣モール……」
友達とのショッピングがわくわくして仕方なかった私は、前日に予習も兼ねてバスで天衣モールへとやってきた。初めてのバスにもドキドキとしたが、一応ちゃんと来ることが出来た。
前に住んでいたところのショッピングモールに比べると、少し小さいが十分大きなところである。
「どうせなら、ここにファンアニショップがあれば良いのに」
そうすれば、いつでも来れるのに。隣の市では気軽には行きにくい。
そんなことを考えながら、私は店内を散策する。可愛らしい服屋や雑貨屋などがあり、見るだけでわくわくしてしまった。明日、皆でショッピングをすると思うと、心が躍った。
あっちこっちに視線を動かしながら、歩いていると可愛らしい小物が並んだ雑貨屋が目に飛び込んだ。
何となくそこに近づいて、店先の商品を眺める。キラキラとして可愛らしい小物とや綺麗な髪飾りなど色々とあった。
「うーん、さすがにこの店だと可愛すぎて、お兄ちゃんに良いのはないかぁ」
「……?」
私は聞き覚えの声にお店の奥をのぞき込む。そこには柚葉ちゃんがいた。
確か、今日は用事があると言っていた。お兄ちゃんがどうとか聞こえたし、何か贈り物でも探しに来たのだろうか。でも、それなら明日でも良いのに。
そう疑問に思っていると、すぐに理由は分かった。
「このマグカップとかなら、和兄でも使えるんじゃない?」
よく見ると、柚葉ちゃんの隣には御坂くんが居た。きっと、二人で来る約束をしていたのだ。
「うーん、私的にはお兄ちゃんへの誕生日プレゼントには可愛すぎると思う」
「そっか。中々、良いの見つからないな」
二人で仲よさそうに、商品を物色している。
「他のところ探そっか……」
柚葉ちゃんがそう言うと、奥から出てくる私は慌てて二人が出てくるのとは反対側に逃げた。
「……これ、可愛い」
店先の私が先ほど見ていた辺りまで来ると、柚葉ちゃんが足を止めて、銀色の髪飾りを手に取った。
「うん、柚葉に似合うんじゃない?」
「えっ……いや、こういうのは私くらいの長さだといらないし」
そう言いながらも、柚葉ちゃんはまんざらでもなさそうだった。
「……悠輝って、こういうのが似合うような髪の長い子が好きなの?」
「んー? うん、可愛いと思うよ」
「……そっか」
柚葉ちゃんは、御坂くんの言葉を聞きながら、自分の髪をもじもじと弄る。
「あ、じゃあ、柚葉の誕生日にこういうの買ってあげようか?」
「えっ」
「今の長さでも似合うやつ? 毎年、何渡すか迷って変なの渡してる気がするし、柚葉が使える奴の方が良いし」
「た、誕生日って、私のは、まだ過ぎたばっかりでしょ。気が早いって」
柚葉ちゃんが照れたように、でも嬉しそうにいやいやとする。
「うーん、何が良いのか教えといてくれるだけでも参考になるんだけど」
「……えっえーっと、こういうピンみたいのなら、前髪に付けるのだし、私の長さでも使えるかな」
「えっと……これとか?」
そう言って、御坂くんが商品の一つをとって、柚葉ちゃんに見せる。それを受け取ると、柚葉ちゃんはそれを簡単に前髪に留めてみせた。
「……どう?」
「うん、……えと可愛いよ」
「本当?」
「う、うん」
御坂くんが少しだけ言葉を詰まらせながら答える。気になって御坂くんの顔をよーく見てみる。その顔は少し赤くて、どこか照れくさげだった。
あっと思った。その顔は最近見た柚葉ちゃんの表情と少し似ていたから。
「御坂くんも……」
柚葉ちゃんのことが好きなんだ。
私は、二人に気づかれないようにそっと、その場を離れる。幸い二人は会話に夢中で私には気づかなかった。
「そっか……二人は両思いだったのか……」
直接、本人達から聞いたわけではない。だが、私の中には確信があった。
私は二人の間には入れない。いや、誰も入っちゃいけないのだ。困っていた私を助けてくれた優しい御坂くんと独りぼっちだった私に声を掛けてくれた優しい柚葉ちゃん。誰がどう見てもお似合いな二人なんだから。
私が出会った
そのことに気づいた私は、どこかすっきりもしていた。だって、もう悩まなくて良いのだ。二人が両思いなら、私は
だから、私のこの御坂くんへの気持ちは心の中に仕舞っておこう。まだ好きかも分からないこの気持ちは。
◇ ◇ ◇
私は、宿題を終えて大きく伸びをした。
目の前では、柚葉ちゃんが机に突っ伏して小さく寝息を立てている。
先に宿題を終わらせた柚葉ちゃんは、飲み物を取ってきてくれたり私の分からないところを教えてくれたりしていたのだが、することがなくなってしまい、気づいたら寝てしまっていた。きっと疲れていたのだろう。
あの事故の後から、家のことをたくさんやっているらしいし、今も御坂君ところにお見舞いに通っているし。
苦手だった料理もすっかり出来るようになり、髪も伸びてどんどん可愛く魅力的な女の子になっているだろう。きっと、御坂君が目を覚ましたときには、惚れ直すことだろう。こんなに御坂くんのことを思って待ち続けているのだから。
早く目を覚まして欲しい。柚葉ちゃんはこんなに健気に待っているのだから。それに――
「坂間聖羅が行ってるみたいだし……」
二人の間に割って入ろうとする坂間聖羅。最近では、柚葉ちゃんも仲良くなってきたみたいだし、悪い子じゃないのは分かる。でも、御坂くんにすり寄るその行動だけは許せない。だって私は、ずっと前に決めたのだ二人を応援するって。そのために私は心に秘めたのに。
だから、柚葉ちゃんが許しても、悪い子じゃなくても、私は坂間聖羅が嫌いなのだ。
「んっ……」
柚葉ちゃんが身じろぎする。クーラーも付いているし、少し寒いのかもしれない。そう思って、部屋にあったブランケットを掛けてあげる。もう少し寝かせてあげよう。
「よし」
満足して、私はもう一度目の前に座った。そして、眠る友人をじーっと見つめた。
彼女は、今日こそ明るかったが、事故以来、表情が曇ることが増えた。
「私が元気づけてあげられたらなぁ」
常日頃から、そう考えているが、全然上手くいっている気がしない。寧ろこっちが気を遣わせているような。いつも私の方が助けて貰ってばかりだし。
柚葉ちゃんを見ていたら、ふと頭の中に御坂君が助けてくれたときの光景が頭に浮かんだ。彼はいつも私を助けてくれる。初めて会った時も、その後もいつも。仕舞った気持ちが飛び出そうになるくらいに。
何でそんなことを思い出してしまったのか。小首を傾げて考える。
「あっ、そっか……」
少し考えて、理由に思い当たった。最近の柚葉ちゃんは御坂君にどこか似ているのだ。どこと言われても困るのだが、雰囲気というか、優しいところとか。
「何でかなぁ」
実は柚葉ちゃんが、御坂君だとか。前に見たドラマみたいに入れ替わってて。
「そんなわけないけどね」
私は、自分の馬鹿な妄想を自分で笑ってしまう。いくらなんでも突拍子がなさ過ぎる。
きっと、あれだ。付き合ってる人だとか、夫婦だとかが、互いに影響されあって似てくるとかいうやつ。
そのくらい二人がお似合いだってことなのかなぁ。私はそんなことを考えて、小さく笑った。
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