第9話 ムカデ・ド・コロブーナ
「ジョーダイさん、俺は勝ちたいんだ!」
「うん、そうだろうね」
運動会が間近に迫った9月半ば過ぎの放課後、帰ろうとしていると同じクラスの倉くんから声を掛けられた。
「ジョーダイさん、やってくれるよね?」
「無理」
「どうして?」
「だって、わたし、女だよ?」
そうなのだ。倉くんがわたしを誘ってきたのは、”陸上軌道競走”への参戦だ。
北星高校の運動会のフィナーレを飾るのはクラス対抗リレーでも騎馬戦でもない。”陸上軌道競走”なのだ。
百足レースに似てはいるが、用具もルールも異なる。
とてつもなく長いスキー板のようなレース用の通称”ボード”を5人1組で履く。あとは百足レースの要領で右、左、と足を進めていくのだが、まず、このスピードが尋常ではない。小学生の50メートル走全力疾走くらいのスピードで完全に真剣に走る。しかも、一つのボードが300メートルのトラックを一周。これを例えば1年2組、2年2組、3年2組と各学年の同じ組の混成チームで3ボードがリレーをするのだ。
北星高校は一学年7クラスある。この各学年の各クラスから選ばれた精鋭が運動会の最後を飾る競技でぶつかり合う。
そして、わたしのいる2組でこのメンバーに選ばれるということは他のクラスとは比べ物にならないぐらいの意味を持つ。
2組は陸上軌道競走10連覇中なのだ。
途中1回、学校の改装工事で運動会が中止になった年を挟み、足掛け11年の間、2組は一度も負けていない。
運動会最後の競技ではあるけれども、逆転優勝できるほどの配点がされている訳でもない。それでも、ただ、名誉のために走る。2組には敗北の2文字は許されぬ王者として、他のクラスは打倒2組に執念を燃やして。
・・・と、男子たちは運動会の準備段階から熱く語っていた。
このレースに女子がメンバーとして選ばれたことは、一度もないのだ。
「わたしがいたんじゃ、勝てないでしょ」
わたしは陸上軌道競走になんの思い入れもないので淡々と倉くんに説く。
「ジョーダイさんが必要なんだよ」
「やっぱり分かんない。女のわたしが混じってたら、わたしの所からボートが潰れてっちゃうよ」
「いや、そんなことない。ジョーダイさんが足が速いってことも、体力が男子並みにあることも、知ってる」
「いや、男子並み、ってだけじゃだめでしょ」
「何よりジョーダイさんの、その統率力が欲しいんだ」
「統率力、って・・・」
「ジョーダイ軍団をまとめてるじゃない。それに、この間の里先生の時の対応。あんなの、男だろうが女だろうが、並の高校生にできることじゃないよ」
”ジョーダイ軍団”なんて言い方にムカッとする。
「軍団なんて、知らない。みんなただ、わたしの大事な友達、ってだけ」
「ご、ごめん。でも本当に、ジョーダイさんに助けて欲しいんだ。このままじゃ、2組の連勝が止まってしまう」
1年2組のボードの選手を見ると、確かに2・3年生の足を引っ張るかもしれない、という気がする。それでも1年2組の男子の中ではベストメンバーなのだ。まさか、とは思ったけれども、噂はあながち単なる噂では無かったのかもしれない。2組の連覇を阻止するために、今年の1年2組のクラス編成は意図的にボードの選手に不向きな男子ばかり寄せ集めた、という噂。しかも、その編成をするために圧力をかけたのが、昨年・一昨年と2位だった5組の父兄。その父兄はPTA会長が今年で3期目となる人なので、気を遣わざるを得なかった、という話がまことしやかに言われていた。
だとすると、クラス編成においての女子の運動能力についてまでは盲点だった、という理屈で、わたし、という選択肢なのだろうか。
「3年2組の五十嵐先輩からも、是非ジョーダイさんを、って言われてるし」
へえ。五十嵐先輩と言えば、2年後期と3年前期の2期生徒会長を務め、学校一人望があるっていう人だ。
「頼むよ。助けると思って」
倉くんも決して運動が得意な訳じゃないけど、2組の伝統を守るために頑張ってる。よし、分かった。
「うん。わたしもどこまで力になれるか分からないけど、やってみるね。お願いします。でも、わたし、お寺の仕事があるから、放課後はそんなに練習参加できないけど、大丈夫?」
倉くんはわたしが参加する、と言っただけで満面の笑顔になっている。
「ありがとう!練習時間は、ジョーダイさんの都合に合わせる。朝がよければ朝やるし、昼休みの時間でもよければそうする」
いや、却ってプレッシャーだ。けれども、物理的にそうして貰うしかないので、お言葉に甘えることにする。
結局、基本は昼休みの時間とし、週何日かは朝やることとなった。それ以外の時間は自主練習を行う、ということだ。
「それでね」
うん?まだ何かあるのかな?
「先輩方のたっての希望で、ジョーダイさんには3年生中心のアンカーのボードに入って欲しいんだ」
「はい?」
「それで、そのボードの先頭を務めて欲しい、って説得を頼まれた」
「先頭?」
「ジョーダイさん、背、高いしさ」
「いや、女にしては高い、ってだけで、男子に混じったら低いでしょ。それに、先頭って、身長だけじゃなくって、後ろのメンバーの推進力を全部受けて走るから、力が無いときついよ。わたし、きっと前につんのめって倒れちゃうよ」
「大丈夫。ジョーダイさんならきっとできるよ」
「そうかなあ」
わたしは別に心配する訳でもなく、ただ、まあ、これも楽しいかな、という気持ちだけだ。
「もよりさん、凄いね!」
ジローくんがやや興奮気味に振り返って声を掛けてくれた。
「え?何のこと?」
「だって、陸上軌道のメンバーに選ばれたんでしょ?女子では北星高校史上初めてだよ、凄いよ!」
「うーん。でも、どれだけ力になれるか分かんないよ」
「大丈夫。もよりさんならきっと活躍できるよ」
「そうだよ」
また、いつものごとく、学人くんも空くんも周りに集まって来ている。そしてちづちゃんも控え目に「頑張って」と言ってくれている。
「もよりさん、頑張ってよ。俺たちは主役を張れるようなキャラじゃないから、代表して大活躍してよ」
代表して、という言葉を聞いてさっき倉くんが言った”軍団”という言葉が思い出され、ちょっと胸が痛くなる。
「ありがとう。とにかく頑張ってみるね」
みんなだって、これまで大活躍してるよ。ただ、人間の目には見えない、ってだけだよ。
「みんな、今日からいよいよ臨戦態勢に入るよ。目標、11連覇。それもぶっちぎりでなおかつ美しい走りをすること。以上!」
リーダーを務める五十嵐先輩が所信表明して、練習スタートだ。
まずはボードの調整から始める。
「ボードの底が完全にフラットな状態だと摩擦ばかり大きくてスピードが出せない。かつ、スピードと共に、2組は美しい走りをしなくちゃならない。ずりずりとボードを引き摺って進むんじゃなくって、きっちりと足を上げ、ボードを上げて、”走る”ってことをしなくちゃいけない」
実は運動会当日は北星高校OBも見にきて檄を飛ばす。多くはここ数年の間に卒業した大学生の先輩方だ。当然、全員3年間の間に一度は2組になったことのある先輩方だ。優勝すればいいってもんじゃない。無様な走りはできないのだ。
「ジョーダイさん」
おっ、五十嵐先輩。声掛けられちゃった。五十嵐先輩は学校一の有名人だもんね、挨拶しとこうか。
「五十嵐先輩、よろしくお願いします」
五十嵐先輩は手を軽く振って、堅苦しくしないようにというジェスチャーをしてくれた。
「ジョーダイさんを頼りにしてるよ。どう?ボードの先頭だけど後ろからの圧力に持ちこたえられそう?」
「正直、やってみないと分かりません」
「よし、分かった。じゃあ、早速やってみよう」
え?大丈夫かな。それに、昼休みの時間、後30分も無いけど、練習になるのかな。
「みんな!早速一走りしてみよう。時間も余りないから集中して!」
五十嵐先輩のよく通る声に「おう!」と男子たちは答える。
わたしも、じゃあ、「おー!」と言ってみたら、周囲の男子たちがびっくりした顔になった。五十嵐先輩は笑ってる。
第一ボードと第二ボードに倉くんたち1年2組の男子が分散して加わり、2、3年生に挟んで貰ってリードしてもらいながら練習して行く形だ。まず、第一ボードがスタートする。さすがに2,3年生は2組として走ることに誇りを感じているらしく、1年生を支えながら素晴らしい走りを見せる。はっきり言って、そのスピードにわたしは驚いた。倉くんたちも、先輩たちに必死でついて行こうと頑張っている。大したもんだ、と、なんだか自分まで嬉しい気持ちになる。
「さあ、行くよ」
五十嵐先輩は第三ボードの最後尾から声を掛ける。
「後は、ジョーダイさんがリードして!」
おわっ、ほんと?どうなるのかな?
第二ボードがバトンタッチのラインを越えたところでわたしはスタートする。走り始めて、分かった。
”あ、確かに。だからわたしだったんだ”
自分でも驚くほどスムーズな動きができる。スピードは短距離走だけれども、フォームは短距離走じゃない。
わたしが普段走るジョギングの走り。体幹をどっしりさせ、骨盤で走る、いつもどおりの走り。そして、この走りをするために、わたしは腹筋を鍛えている。といっても、むきっとした外側の使えない筋肉で腹筋を割るのではなくって、インナーマッスルを鍛える毎日の積み重ねのトレーニングが、陸上軌道でも有効だと実感した。この腹筋のおかげで、先輩方の後方からの推進力にもつんのめらずにしっかりと走れる。はっきり言って、気持ちいい!
「スピード、上げますよー!」
「敬語じゃなくっていいから、ジョーダイさんの思うように走って」
「はい、じゃあ、2割増し、足を上げて!」
うえっ?という声が後ろから聞こえたけれども、わたしは容赦なく言葉を繋ぐ。
「五十嵐先輩は3割増し!」
「オーライ!」
おっ、と。他の人なら鼻にかかる言葉だけれども、五十嵐先輩が言うと結構自然な感じだ。
とにかく、わたしはマラソンでいうところの高速ピッチ走法、それもアフリカあたりの一流選手がやるようなストライドそのものも大きなピッチ走法を目指したい。そのためには全員が足をきっちり上げる意識をもってはじめてピッチ走法に成り得ると考えた。更にそのためには先頭の私と最後尾の五十嵐先輩が中の3人よりも足を上げてボードを引き上げ、みんなの脚力をサポートする必要がある。それが、わたしにはできる。多分、五十嵐先輩にも。
「コーナー!」
最初のコーナー。わたしはどうすればいいか、頭ではよく分からなかったけれども、いざコーナーに突入すると体が勝手に動いた。内側となる左足の推進力を抑え切る。代わりに、右足をより高くあげる。高く上げたその高度がそのまま前方への推進力となって勝手に足が真下に着地。真下に着地することによってそのまま後方へ地面を押しやる力となる。これが無駄のない前方への推進力を生み出す。コーナーでの推進力もこのようにすればいいのだ。左右のバランスを体に刻み込んで、走る。
「さあ、行くよ、ストレート!」
最後の直線。普段でもできないような全力疾走。走りづらいのを技術でカバーする、というのとは全く違う発想。
5人の体重と脚力をすべて推進力に変え、足かせの無い状態で1人で走るよりも速いスピード。つまり、1加速×5人で、5倍の加速と推進力を得て、信じられないスピードでゴールした。
「おわあっ、スゲー!」
走り終えて見ていた第一・第二ボードのメンバーが駆け寄ってきた。
「いけるんじゃない?今年も!」
「ああ、いける!」
みんな、大いに盛り上がってる。
でも、わたしはそういうことと関係なく、こう言いたい。
「何、これ!気持ちいいっ!」
思わず本当に声に出してしまい、みんな一斉にこちらを見る。
「おーっ、ジョーダイさん、すげーよ!本番でやってやろうよ!」
いや、本当に、こんなに面白いとは思わなかった。
「お師匠、ちょっといい?」
晩御飯の片づけをした後、お師匠がインド哲学の本を読んでいるのをちょっと邪魔して声を掛ける。
「なんだ?」
「いや、ちょっとお願いがあって・・・・」
「お願い?」
「実は・・・・」
わたしは運動会で陸上軌道競走に出場すること、みんなの練習時間を自分に合わせて貰っていること、それが非常に申し訳ないということ、を話した。
「それで?」
「いや、みんなに悪いな、って。だから、やっぱり放課後に練習する方がみんな嬉しいだろうな、って思って」
「もよりはどうなんだ」
「え、どうって・・・・」
「もよりはやってて楽しいのか」
「・・・楽しい・・・・」
「なら、私に遠慮することはない」
「でも・・・・」
「大丈夫だ。夕飯の支度も、味付けさえ文句言わないのならいくらでもやるぞ」
「ありがとう。お願いします。土日にまとめて家事とかお寺の仕事もやりくりするようにするから。運動会が終わるまで」
「ああ、分かった」
「と、いうわけで、もし皆さんさえよければ、放課後に練習するということにしませんか」
わたしがお師匠の許可を得たことを伝えると、みんな望むところだ、という雰囲気になってくれた。
「もちろん、OKだよ。ジョーダイさんが参加してくれるんなら、俺たちはひたすら走り続けるつもりだったからね」
「すみません、ありがとうございます」
わたしは、本当に嬉しくて、しおらしい返事をした。
とにかく、運動会まで後一週間。他のクラスもそろそろ練習を始める中、わたしたち2組はその遥か先のレベルへと到達していた。第一、第二ボードもスピードをどんどん上げてきている。第三ボードはもはや普通に全力疾走する以上に早いのではないかというぐらい、完全に5人全員の体重をただひたすら前への推進エネルギーへと変えることができるようになった。
「よーし、後もう少し、本番にはぶっちぎりで優勝できるように、頑張ろう!」
楽しい時間が過ぎるのは本当にあっという間だ。一週間経った。毎日、ちづちゃん、ジローくん、空くん、学人くんも応援に来てくれた。今日は運動会前日。練習を終え、鮮やかな夕陽が薄く開けた目に差し込んでくる。
「いよいよ明日だ。みんな、よくここまで頑張ってくれたね」
五十嵐先輩が、明日の本番に向け、気持ちを落ち着かせてくれる。確かに、自分たちはよくここまで頑張ったな、って思う。帰宅部のわたしが、この練習期間、運動部に属しているような気分になれた。みんなとの距離もとても近くなった。ああ、参加できてよかった。
「それじゃ、これから毎年恒例の所に行くよ」
おー、という男子全員の掛け声。どうやらわたしだけがこれから何をするのか理解できていないようだ。
「どこに行くんですか?」
わたしは皆を鼓舞している五十嵐先輩に訊く。
「必勝祈願だよ。護国神社に」
おー、5人でお参りに行って以来だ。確かに学校から一番近い神社は護国神社。北星高校の氏神様、っていうことだ。みんなでぞろぞろと護国神社まで歩く。
「よし、整列!」
夕暮れ時の、もうじき閉門間際という時間帯。まだ神職の方がお社の中に残っておられたので、わたしたちがきちんと横3列に整列して二礼二拍手を始めると、太鼓を打ち鳴らしてくれた。その太鼓の音を聞きながら、全員が心の中で、”2組、必勝”と言葉少なに祈願する。
最後に一礼して、眼を開ける。
ふっ、と気配に顔を上げると、それは夕陽の光の質量だった。
お社を逆光のシルエットにして、夕陽が目に差し込んでくる。わたしたちの体をすり抜けたその夕陽が、鳥居の上をすうっと、明日の朝日になると連峰の稜線を黒く染めた逆光のシルエットにして朝日が昇って来るであろう、その方向へ加速して移動していく。
お社の背後は、神降川だ。
「よし、神降川まで、走るぞ」
みんな、わーっと言って、ボードなしでいつものメンバーの肩に手を置いて、縦一列に走る。神降川の河原の土手を登り上がると、夕陽がまともにわたしたちの目の前に、どーん、と現れる。
「せーの」
五十嵐先輩の掛け声で、全員が夕陽に向かって怒鳴る。
「勝つぞーっ!!」
古の学園ドラマみたいだ。明日は、快晴だ!
運動会。予定通り、高い高い空。青く晴れ渡った空。
朝から、北星高校生徒全員がエネルギーのあらん限りを放出している。
わたしも、通常競技をそれなりに楽しんだ。
わたしは実は短距離もそれなりにいけるので、100M走の自分の出走組では、まあ、一位になった。それよりもびっくりしたのは、ちづちゃんだ。
「おわっ、速いぞ!」
ちづちゃんはスタートダッシュから明らかに他の選手より抜きんでていた。最後まで加速し続け、自分の出走組では2位に大差をつけての1位だ。体育の授業でもここまでの走りを見せたことはない。わたしももしちづちゃんと一緒に走っていたら勝てたかどうか、微妙だと思った。
「ちづちゃん、すごいよ!」
わたしが戻ってきたちづちゃんにハイタッチすると、ちづちゃんは遠慮がちに手を挙げてぱちん、と合わせてくれた。
「これくらいしか得意じゃないから」
素直にそう言うちづちゃんはやっぱり可愛い。以前も似たようなことを言ったかも知れないけど、わたしが男だったらちづちゃんを放ってはおかない。
「みんなで弁当食べようよ」
ジローくんが声を掛けてくれた。
「うん、うん、お腹すきまくりだよー」
わたしは速攻でリュックから弁当を取り出し、いつもの5人でリラックスしたひと時を過ごそうと顔が思わずほころんだ。
「ジョーダイさん!」
倉くんが向こうの方でわたしを呼ぶ。
わたしは1個目のおにぎりを頬張りながら、何?という表情を倉くんに向ける。
「陸上軌道のメンバーで一緒に弁当食べて、士気を挙げるよ!」
それを聞いてちづちゃんが言ってくれる。
「もよちゃん、行っておいでよ」
空くんも続ける。
「うん、陸上軌道必勝のためなら、ちょっと寂しいけど、行って来てよ」
ここしばらくの間、わたしはこの5人で一緒に何かをするっていうことがほとんど無かった。休み時間も陸上軌道のメンバーと一緒だったから。わたしは、その時々で何が大切かってことが分かる。だから、こう言う。
「倉くん、ごめん。わたし、ここでみんなと食べたいから、そうするね」
倉くんが、顔をしかめる。
「そんな目立たない所にいないで、陸上軌道で2組のために、必勝のために、こっちで食べてよ」
こだわり、と取られるかもしれないけれど、わたしはきっぱりと言う。
「いくら倉くんでも、怒るよ。わたしはこの5人と一緒に食べたいの。ここにいるみんなも、2組のために戦ってるよ」
倉くんは、はっ、とした顔になる。
「ごめん。悪かったよ」
そう言って、陸上軌道の他のメンバーにもごめん、と謝る仕草をしてわたしたちの方に歩いて来る。
「俺もここで一緒に食べていいかな」
「うん、もちろん」
学人くんが、倉くんの座るスペースを空けてあげる。
「その。決してここにいるみんなのことをないがしろにした訳じゃないんだ。そうじゃなくって・・・・」
「うん、分かるよ」
ジローくんが、倉くんに優しく答えてあげる。
「これ、みんなで食べて」
ちづちゃんが保冷バッグの中から大き目のタッパーを取り出してふたを開ける。
「あ、梨だ!」
「ありがとう、千鶴さん」
男子たちが口々に言いながら、小さな使い捨てのフォークで、つっくんと梨を刺し、ぽいっと口に入れてしゃくっと食べる。
「お、冷えてるー」
倉くんもにっこり笑う。クラスの中ではいわゆる主流派っぽい雰囲気の倉くん。わたしは陸上軌道の練習で色々と話したりして倉くんは決して地味な生徒を軽んじたりするような人ではないということが分かったけれども、他の4人はちょっと怖さを感じていたはずだ。でも、今はもう、打ち解けて、クラスの友達であり、まあ、仲間、ってことなんだろうね。
午後の競技もするすると進み、白熱した展開。応援合戦もそれなりに盛り上がった。けれども、最後の最後の盛り上がりに向けてのお膳立てみたいな雰囲気がやっぱり漂ってる。
「陸上軌道競走の選手は大会テント前に集合してください」
アナウンスが流れると、五十嵐先輩が真っ先に立ち上がった。
「よし、行こう!」
おー!とぞろぞろとメンバー全員が立ち上がり、ゆっくりとスタート地点まで歩いて行く。
いつも通り、ボードの準備を始める。ボードの留め具を念入りにチェックし、自分にとってのベストフィットのポイントを、さっ、と作り上げる。
「五十嵐、どういうつもりだ!」
突然、大声を掛けられて、みんな顔を上げる。
「佐藤先輩、来てくださったんですね。ありがとうございます」
セットの終わったわたしが先頭のボードに、その佐藤先輩、と五十嵐先輩が呼んだ人が近づいて来る。なんだろう、何を怒ってるんだろう。
「どうしてこの子がメンバーなんだ。しかもどうして第三ボードの先頭なんだ」
佐藤先輩の激しい口調に五十嵐先輩は柔らかく答える。
「佐藤先輩、安心して下さい。俺たちの走りを見て頂ければ、きっと納得されると思います」
「何ー?」
佐藤先輩はそう言ってじろじろとわたしを見る。後で知ったのだけれども、佐藤先輩は去年の卒業生で、隣の県の大学に進学した。今日はわざわざ自主休講をして応援に駆けつけて下さったのだそうだ。まあ、ありがたいことだね。その佐藤先輩が、わたしを胡散臭そうに見ている。
「君、何年生?」
「一年です」
「一年!」
うーん、と唸ってなおも佐藤先輩はわたしを値踏みするかのように見続けている。
「いや、五十嵐は決して判断を誤らない。名前は?」
「上代です」
「上代さんか。上代さん、僕も陸上軌道には今も思い入れがあるんだ。どうか、頑張って!」
あ、ねちねちするのかなって思ったら、なんてすかっとした人だろう。わたしはでっかい声で返事する。
「はい!頑張ります!」
さあ、スタートだ!
「よーい」
パンっ!で、各クラスの第一ボードが一斉に足を踏み出して加速していく。2組はアウトコースの一番外だけれども、そんなこと関係無くボード一つ分、既に他のクラスよりもリードしている。が・・・さすがに他のクラスも10連敗の怨念を込めて死ぬ気で練習してきたのだろう。思うように差を広げられない。第一ボードは、ボード2つ分ほどの差を後続につけて第二ボードにバトンタッチする。2位は思ったとおり、PTA会長がクラス編成にまで圧力をかけた程らしい5組だ。敵ながらなかなかきれいなフォームで走っている。
「充分だ」
「よっし、行くぞ!」
気合いを発し、2組の第二ボードが駆けだす。倉くんのボード。
「頑張れー!」
2組の応援席も選手に負けじと声を張り上げ、鳴り物をドカドカと鳴らしまくる。
おーっ、なんか、いーなー、こういうの。
「倉くん、行けっ!」
わたしも既に半周のコーナーを越えてトラックの向こう側を走る第二ボードに怒鳴る。
2位の5組との差はボード3つ分のままだけれども、3位以下には3/4周ほどの差をつけている。
よし、貰ったね。第三ボードで5組を完全に絶望させる!
わたしは本やマンガでしか読んだことのない武者震いってやつを、今、体感している。あ、これがそうなんだ、と客観的に思えるぐらい、心は熱く、頭はクールだ。第二ボードの到着が待ち遠しい。
来た!
2組も5組もその第二ボードは物凄いスピードと、まるで巨大な重機が質量を全てそのスピードに上乗せして突進してくるみたい。
いや、なんてレベルの高い戦いなんだろう。
「五十嵐先輩!」
第二ボードの先頭を務める二年生が叫ぶ。
「ナイスラン!」
五十嵐先輩が労う。そして、叫ぶ。
「行くぞ!頼むぞ、ジョーダイさん!」
はい、と答えて、わたしも叫ぶ。
「行くよー!ショウっ!」
咄嗟に出た気合いの言葉と共に、第一歩を踏み出して確定した。
今までの、ベストだ!
他のどのボードにもできない、コンマ以下の秒数でのトップスピードへの加速をたったの数メートルで実現させた。
「もよちゃーん!」
おとなしいちづちゃんの声が、今日はよく通って聞こえる。
「もよりさーん!」
学人くん、空くん、ジローくんの声もクリアに聞こえる。
まだ、加速できる!
けれども。あっという間に目の前に迫るのは、周回遅れの他のクラスのボードたち。圧倒的な走りの2組の第三ボードは周回遅れのボードたちの混戦をうまく避けて抜き去るのも、2組に課された使命だと叩きこまれてはいた。
最後尾のチームを、わたしはボードコントロールで緩やかに軌道を変え、スピードを落とさずに抜き去った。
でも、様子が変だ。
混戦している他クラスのボードは、わたしたちが近づくと、明らかにおかしな動きをする。
わざわざスピードを落として前方の道をふさぐように幅寄せているような感じがする。
こいつら、グルだ。
打倒2組を他クラス連合で実現させようと、わざと進路を妨害するような走りをしてる。でも、これも立派な作戦だ、とわたしは敵たちの執念を認める。
たとえば、プロの自転車のロードレースだって、同チームの選手同士が連携して敵チームの選手を牽制し、自チームの誰かが1位を取れるようにサポートする。このボードたちも、打倒2組のために、わたしたちのボードの進路を遮り、5組がトップに躍り出るように動いているのだ。
よし、分かった。それも織り込んで、勝つ!
わたしは瞬間瞬間の判断で最小限のロスに抑えてコースを変え、周回遅れ共を抜き去る。
さあ、あと3ボード。
けれども、目の前の2ボードが恐ろしく連携が上手い。
並行して走りながら行路を巧みにふさぐ。
「ジョーダイさん、5組との差、3.5!」
五十嵐先輩がわたしに状況をを伝える。
よし、わたしの答えは出た。
「みんな、スピード緩めないで!わたしに任せて!」
わたっしは前方2ボードが並行して走る、そのトンネルのような間のスペースを突破する!
「全速・全力!」
わたしの掛け声に五十嵐先輩が、
「ぞうっ!」
という気合いと共にストライドに力を込める。その圧力でもって他のメンバーも更にパワーを増す。
「ナイス!」
と叫んだわたしのその思惑を察知した前方2ボードが慌てて幅寄せし、トンネルを狭くしようとする。
でも、もう、遅いよ!
明らかにこれまでのMAXのスピードと重圧でわたしたちはその狭いトンネルをすり抜けた。
いや、すり抜けたなんてやさしいもんじゃなかった。わたしたちの電光石火プラス風圧で、通過後、2ボードは
「わあっ!」
と言って転倒してた。
さあ、残り1ボード。
見たところ普通に走ってるけれども油断できない。何を企んでるか、分からない。
わたしは超高速のまま、少し余裕を持ってアウトから抜こうと、そのボードに迫る。
「あ!」
まさか、と思った。
その前方のボードは、わたしたちをかなり引き付けた状態で、突然トラックの進行方向に対して斜め45°になるように急激に方向を変えて急ブレーキをかけようとしてる。トラックをふさぐような感じで完全に道がふさがれた。
このままだと、ぶつかる。
いや、彼らはぶつけられて刺し違えてでもわたしたちを阻止するつもりなのだ。
そもそも、スピードに乗って走っているボードで急ハンドルを切り急ブレーキもかけるというのは技術的にも筋力的にも高度なものだと思う。突然できることじゃない。彼らは練習していたのだ。
敵ながら天晴と思う反面、こんな思いも浮かぶ。
”そんなことする間に、走ればいいのに!”
わたしは間髪入れずに声を発した。
「どけっ!」
前方の彼らから、びくっ、と震えた感覚が伝わってきた。
女子で、しかも1年生のわたしが、そんなぞんざいな言葉を放つとは思っていなかったのだろう。もう一発、放つ。
「どけーっ!!!」
わたしは自分で自分の声にぞっとした。
今の声はわたしの口から出たけれども、わたしの声帯は全く振動しなかった。わたしの体の入れ物から、わたし以外の誰かが発した声。
それこそ、閻魔様が地獄の底から発する、亡者共の鼓膜を破る声って、こんなんじゃないだろうか。
その、どなたかの怒髪天を衝くような声に、前方のボードは完全にびびった。
急ブレーキをかけるどころか、
「わーっ」
と訳の分からない声を出して、しゃかしゃかと逃げるように進路を空け、そのままコースアウトして転倒した。
「行くぞっ!」
これまたわたしじゃない声がわたしの口から出てわたしたちのボードの男子共全員に号令する。
わたしはただ、全速力で足を動かす。ボードが更に加速する。
行く手を阻むものは、もう、無い。
「せーっ!」
全員で声を上げてゴールした。
気が付けば、2位の5組をもほとんど周回遅れにするぐらいの差をつけてゴールテープを切った。わたしたちは勢いが止まらず、そのままトラックを1/4周ほどしてようやくブレーキをかけた。
「どわーっ!」
というようなどよめきがグラウンドを覆い尽くしている。
わたしたちはボードを履いたまま2組の応援席の前まで進み、みんなで手を突き上げる。
「もよちゃん、おめでとー!」
「もよりさーん、すごいよっ!」
いつもの4人もはちきれんばかりの笑顔だ。
第一、第二、第三ボードのメンバー全員で円陣を組んで、五十嵐先輩が号令する。
「せーの」
「うーー、2組っ、ファイっ!ファイっ!、せえーっ、2組っ、ファイっ!!」
毎年恒例、2組の勝鬨だ。
運動会の総合順位では2組は3位だったけれども、主役は完全に2組の全員だった。
さて、今日という日は実はまだ終わらない。
これも恒例の陸上軌道競走優勝チームの打ち上げがあるのだ。
学校の向かいに駄菓子屋兼お好み焼き屋の”モダン”というぼろぼろのお店がある。
この店は運動部の部活後の溜まり場になっているんだけれども、運動会の日は陸上軌道競走優勝チームが貸し切りで打ち上げをする習わしだ。総合1位のチームを差し置いて、2組の、優勝した第一、第二、第三ボードの15人だけによる打ち上げという特権なのだ。
一応、数百円の会費は徴収するけれども、例年、OBの先輩方も参加して下さり、少なからず寄付して(=おごって)下さる。今日もさっきの佐藤先輩を含め、5人のOB方が参加して下さった。
「いやー、圧巻だった!すかーっ、とした!」
佐藤先輩が、わたしにコーラを注ぎながら話しかけて下さった。
「上代さん、君は本当に凄い。さっきは無礼なこと言って申し訳なかったね」
そう言って頭を下げられたので、わたしは慌てる。
「いえ、とんでもないです。佐藤先輩が”すかっとした”なんて言って下さったらわたし、すごく嬉しいです。わたしもすかーっ、としました!」
お酒も入ってないのにみんなげらげら笑いながら、大いに盛り上がる。
今日のフォームは本当に美しかった、と陸上軌道のなんたるかを熱く語るOBもおられれば、
「ほっとしたよーっ」
と、プレッシャーから解放された安堵と本音を素直に漏らす1年2組のクラスメートもいる。
会場が何かあったかいような、ああ、いいな、という雰囲気に包まれる中、五十嵐先輩が立ち上がる。
「まずはOBの先輩方、サポート、叱咤激励、本当にありがとうございました」
そう言って深々とOBの方に頭を下げる。OB方はありがとう、と返す。
「そして、メンバーのみんな、本当にありがとう。みんなの素晴らしい走りで見事11連覇の偉業を成し遂げることができた。3年生の俺たちにとって、最高の卒業土産です」
みんな、俺たちこそありがとうございます、と返す。
「それから、ジョーダイさん、女子なのに男の中に引っ張り込んでしまって色々と苦労したと思う。ジョーダイさんの大きな力も加わって、全員でゴールできた。本当にありがとう!」
いいぞー、って声が掛かり、他のメンバーもジョーダイさんありがとう、と言って拍手してくれる。わたしは自分でもらしくなく照れて俯いて、いえいえという感じのジェスチャーをする。
「それから」
おっ、五十嵐先輩の話、まだ続く。よし、きちんと清聴しよう。
「みんなの前でする話じゃないと最初は思ったけど、でも多分、俺と同じ気持ちの男子がこの中に何人もいると思う。だから、こそこそと人目につかない所じゃなく、みんなの前で言うことにしました」
え?一体、何の話?
「ジョーダイさん、俺と付き合って下さい!」
コンマ数秒の間を置いて、
「おおーっ!?」
と男子共全員がどよめく。
「いいぞ、五十嵐!」
OB方や3年生方も五十嵐先輩に野次を飛ばす。
「さすが五十嵐先輩!」
1、2年生も囃し立てる。
わたしはというと、完全に頭に血が上ってしまい、地に足がつかないとはこういう感じか、と無理矢理現実逃避の思考に走ろうとした。
「ちょっと待ってください!」
え、倉くん?
倉くんが、がたっ、と椅子を鳴らして勢いよく立ち上がる。
「俺は到底五十嵐先輩の足下にも及びませんけど、それでも俺も男です。ジョーダイさん、好きです!」
「倉、お前最高だー!」
どこからか称賛の声が上がる。
「倉、男らしいぞっ!」
みんな盆と正月が一度に来たような騒ぎ方をする。
わたしは。
実はわたしはというと、自分自身に容姿を含めて女子としての魅力が無いことに加え、幼・小・中の12年間、周囲の男子共をビビらせ続けてきた歴史があり、テレビやマンガや小説や言い伝えといったものでしか触れたことの無かった、”付き合ってください”、”好きです”という言葉を、現実世界の当事者として耳にしたことは一度も無かった。つまり、一挙に要約すると、わたしは生まれて初めて男子から告白されたのだ。しかも、一度に2人から。
わたしは一体どーすりゃいいの?と心の中の台詞をおちゃらけた感じで言うことによって事態が収拾できるかのような錯覚に陥っている。
それほど混乱している。
けれども、わたしの体は思いに反し、意外な反応をする。
ほぼ自動的に、わたしは、すっ、と立ち上がってしまったのだ。
”あ、しまった!”、と思ったけれども、もう遅い。しーっ、という雰囲気でその場は静まり返る。
「わたしは・・・・」
後に続く言葉も無いまま、一言呟いてそのまっま黙ってしまった。
正直、わたしは学生の分際で惚れた腫れたと抜かす男子は、みんな浮ついたふにゃふにゃ共だと考え、切って捨てればいいと思ってた。けれども、五十嵐先輩と倉くんの姿を見て、そうじゃないと考え直さざるを得なくなった。2人とも、本当に真摯で真剣、つまり真面目に告白してくれたんだ、ってことがよく分かる。そして、2人だけでなく、男子が女子に好意を持つ時は、みんな少なからず真面目で本気なんだ、って初めてわたしは気付いた。
ならば、わたしも、誠実に答える必要がある。でも、何と言えばいいの。どうしようどうしよう・・・・けれども、心配する間も無く、わたしの口から、言葉がひとりでに溢れてきた。
「わたしは五十嵐先輩とも、倉くんとも、今はお付き合いできません」
全員、静かなまま、じっと聞いている。
「男は18歳、女は16歳で結婚できます。それってつまり、わたしたちぐらいの年齢になれば、心も育ち、見識も高まり、自分の人生をいかに生きるべきかっていうことも判断できる、つまり大人になるっていう意味だと思うんです」
五十嵐先輩も倉くんも、わたしから視線をそらさない。
「でも、事実は今のわたしの状態は、社会の中に於いては経済的にも自立してない学生でしかなく、家のお寺の仕事の面でも修行中の身でしかありません」
みんな、聞いてくれている。目を閉じて聞いている男子もいる。
「わたしが変なヤツで、ズレてるだけかもしれないんですけど、わたし、やっぱり、最終的には結婚につながる恋愛がしたいんです。だから、わたしが本当に人間として成長できるまで、もし待っていただけるのなら待ってください。それで、まだ2人の気持ちが変わっていなければ、その時こそお返事します」
ほうっ、と息を吐いてわたしは言葉を終える。
けれども、この後の事なんて考えてない。この場は一体どうなるんだろう?
「3人とも、最高だ!」
突然大声を出して佐藤先輩が立ち上がる。
「かんぱーい!」
佐藤先輩の号令につられて反射で全員立ち上がり、酔っ払いみたいに口ぐちに、かんぱーい、いえー!とかなんとか言って、またわやわやと騒然としていった。
お開きとなり、店の外で五十嵐先輩が佐藤先輩に頭を下げている。多分、さっきのわたしたち3人の三すくみ状態を解決して下さったことへのお礼だろう。
その後、倉くんとわたしの所に五十嵐先輩が歩いてきた。
「倉くん、ジョーダイさん、色々ごめんな。俺って恥ずかしい奴だよな」
「何言ってんですか、かっこ良かったです。俺も五十嵐先輩を真似てかっこつけてみたんですけど、駄目でしたね」
2人は男同士の清々しさを出してて、ちょっと羨ましい。五十嵐先輩は今度はわたしに話し掛ける。
「ジョーダイさん、懲りずにこれからも仲良くしてな」
「もちろんです。大切な仲間ですから・・・・って、先輩を仲間なんて、ちょっと失礼でしたね」
「いや、そんなことない。仲間って言ってくれて、俺の方こそ嬉しいよ」
「ジョーダイさん」
おっと、今度は倉くんだ。
「その、俺とも今まで通り仲良くしてよね。キモい奴だとか言って、クラスで俺のこと避けたりしないでよね」
「わたしがそんなことするわけないでしょ」
「やっぱり、ジョーダイさんだ。だから好きなんだ」
倉くんは言ってから、はっ、とする。
「ごめん。また好きって言っちゃった」
わたしはふふっ、と笑って答える。
「いいよ。そういう意味での”好き”だったら、わたし倉くんのことも、みんなのことも好きだから」
あー、今日はいい一日だった!
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