第285話 バレンタイン・デイ・・・その3
ふわっとした白のセーターにニットのシックなチェックのスカート。
足元はリボン型のアクセントが付いた茶色のショートブーツ。
マフラーもいかにも女の子といった感じの赤とグリーンのチェック。
受験シーズンの殺伐とした図書館のロビーを通り過ぎる学生服の高校生や中学生男子たちが、ちづちゃんを振り返る。
「ちづちゃん。見られてるよ」
「え」
こういうことに慣れてない、という感じで顔を赤らめるちづちゃん。
「もよちゃんとお出かけだから、きちんとした服装がいいと思って」
「いやー」
わたしも意味もなく照れる。
まあ、もうじき受験生となるわたしたちも一応は勉強しないとなあ、という感じで午後のある程度の時間まで粘って問題集など解きまくってみた。
周囲の机に座る男子たちが明らかにちづちゃんを意識しているのを見てわたしは誇らしくなった。
『いいでしょ』
と自慢したいくらいだ。
「おっと。そろそろ行こっか」
「うん」
ゆったりと過ごしたいので少し早い時間だけれども夕食をいただくお店に2人して向かう。
予約を入れたのは、イタリア料理のお店。
パスタももちろんなのだけれども、女性オーナーシェフがイタリアの地元ワイナリーと契約してワインを輸入していることで話題らしい。
もちろん未成年のわたしたちはソフトドリンクで乾杯、ということにしたのだけれども。
「いらっしゃいませ。お二人は学校のお友達ですか?」
オーナーシェフの挨拶に、はい、と2人して答えた。
「お若いお客様にこうしたイタリアの現地の人たちが普段から実際に食べている料理を知っていただくのはシェフとして光栄です。今日はごゆっくりと楽しんでくださいね」
まだそう歳を重ねていないであろう若き女性経営者の挨拶に雰囲気が盛り上がる。
高校生としては少し贅沢かもしれないけれども、この日のためにちづちゃんもわたしもなけなしの貯金を若干崩して用意していた。
普段質素にしてるんだからいいよね、とお互いに笑い合う。
「乾杯」
いっぱしの女性みたいに2人してグラスを、カチッ、と触れ合わせる。
トマトとオリーブを使った前菜に始まって出されるものすべてに『おいしい!』と反応するちづちゃんとわたし。
途中途中でオーナーシェフも飽きが来ないようにチーズを勧めてくれたりして、アクセントを入れてくれる。
「デートみたいですね」
とにっこり微笑むシェフに、
「や・・・えーと」
と思わず2人して俯いてしまった。
「あの、もよちゃん」
デザートが出されるタイミングでちづちゃんが真面目な表情になる。
トートバッグから小さな箱を取り出した。
『来た!』
わたしも応戦態勢を取らねば。
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