第284話 バレンタイン・デイ・・・その2

わたしはちづちゃんが好きだ。


かわいい、とも思う。


けれどもそれはあくまでも親友としての話であって、女子が女子を恋愛対象と見るような意味ではない。


わたしにそういう嗜好はない。


そういう状態のはずなのに、ちづちゃんはわたしに、『本命チョコを貰って!』と言ってきた。


バレンタインの3日前。


やはり学校で渡すのは気がひけるのか、バレンタイン前日の祝日に図書館で勉強した後、一緒にお食事しようと誘ってきた。


別にそれは全然構わないのだけれども、まるで恋人同士がチョコレートの受け渡しをやるためのアポという状況にわたしはうろたえた。


「じゃあ、男子も誘って5人組でどう?」


と逃げようとすると、


「ダメ」


と却下されてしまった。


こういう時には押しの強いちづちゃんが前面に出てくる。

悩んだわたしは何を血迷ったかお師匠につい漏らしてしまった。


「ちづちゃんがバレンタインの本命チョコくれるって」


無視されるのかと思ったらお師匠が食いついてきたのだ。


「そうか。私ももよりの母さんから本命チョコ貰ったのが馴れ初めだったな」

「え? そうなの? 意外・・・・」

「なんだ。私がチョコレート貰うのが変か」

「いや、そういう訳じゃないけど、お師匠が自分の恥ずかしい話をするなんて思わなかったから」

「チョコを貰うのは恥ずかしい話じゃないだろう。まあ、千鶴さんとはそういういい友達でいさせて貰いなさい」

「いやいや。女子同士だよ?」

「ん? それが何か問題あるのか。友チョコとか流行っているんだろう」

「聞いてなかったの? 本命チョコって言ってるんだよ」

「だから、友達の本命、ってことだろう」

「ん・・・」

「もよりも自意識過剰だな。あの常識をわきまえた千鶴さんがそんな破廉恥な意識でチョコを渡そうとする訳ないだろう。もよりもちゃんとチョコを用意しておくことだな」

「うーん。そっか。そういうことなのかな」


わたしは自分自身をなんとか納得させて当日を迎えた。


図書館のロビーで待ち合わせていたのだけれども、殊の外月参りが長引いて時間ギリギリになった。

ブーツで融雪に溶けかかった雪をバシャバシャやりながらロビーに駆け込んだ。


「あ、もよちゃん!」


ちづちゃんが立って手を振ってくる。


ああ、まずい。


多分ちづちゃん、持ってる内で一番かわいい服着て来てるよ。

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