第271話 経営者・もより・・・その4
みんなで手伝って、中学生たちのお昼の対応が終わった。
それでようやく自分たちの分の精進料理をいただいている。
「妙さん、ずばり核心を聞いていいですか?」
「いいよ、もよもよ。どーんとおいで」
「結婚の予定は?」
「そう来たか!」
妙さんは腕組みをして、うーん、と唸ることしきり。
「今のところ・・・無い」
「えー。妙さんキュートなのに。モテるんじゃないですか?」
「もよもよ。はっきり言っておくよ。お寺の娘って時点で遠慮する男子がほとんどだよ」
「うーん」
今度はわたしが唸る。
「でももよもよは大丈夫でしょ。男子3人も周りにいるんだから」
「いえ! もよちゃんはまだ結婚しません!」
「あらあら」
ちづちゃんの甲高い声に妙さんが意地悪なにやけ顔になる。
「そっか。今のところもよもよはちづっちのモノか」
誤解を招く発言に男子は誰も反応できない。
ちづちゃんだけがわたわたと赤い焦り顔になっている。
「まあ、冗談はさておき、もよもよはこれからどうするの、お寺のこと。うちみたいに観光客取り込んで副収入を得るなんてのは多分難しいよ」
「ええ、分かってます」
「じゃあやっぱりコスト削減が主か」
「いいえ。それはあくまでも並行しての作業です。わたしは本業をより深めます」
「本業?」
「はい。妙さん。お寺の坊主の本業はなんだと思いますか?」
「そりゃあもちろん仏様の教えを世に伝えて人々を済度することだよ」
「その通りです。じゃあ、どうやったらそれを実行できますか? そもそも済度するってどういう状態ですか?」
「それはまあ・・・檀家さんの心に安らぎを与えることで、かな。法話なんかしたりして」
「妙さん。わたしは、クリスマス・フィードバック・サンタボーズみたいなことを年じゅうすることだって思ってるんです」
「年じゅう?」
「はい。あの時はクリスマスにかこつけて、いじめ問題限定でしたけど、檀家さんのあらゆる現実生活の悩み・苦しみを具体的に解決するパートナーでありたいんです」
「ふむ。弘法大師のようにか」
「そう!」
お師匠がずばり適切な指摘をしてくれたので、わたしは思わず手を打った。
妙さんも感心した顔で頷く。
「確かにそうね。弘法大師は僧の理想像ね。私らはお経を読んで説教するだけじゃダメだね。檀家さんが分かるような言葉で教え、悩んでいることには体も動かして支援する・・・私たち自身が仏様の教えを身をもって実践することだね」
「はい。そうして檀家さんの苦しみを取り除いて栄えてもらって、自然な形で分相応のお布施を仏様にいただけるのかなと」
とてもおいしい陽念寺の精進料理をいただいて全員心もほっこりした所で帰路に着く。
「もよもよ。私も今やってることに満足せずに試行錯誤していくよ。まあ、まずは一緒に跡を継いでくれる結婚相手見つけないとね」
「ちづちゃんはダメですからね」
わたしはそう言ってさっきのお返しのように、きゅっ、とちづちゃんの肩を抱き寄せる。
「ぷ。もよもよもちづっちも、お似合いだよ」
「え? え?」
妙さんとわたしの冗談にどぎまぎしているちづちゃん。
かわいらしい。
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