第272話 RED & WHITE ROSES・・・その1
大晦日。
師走に入ってからもイベントが目白押しでお寺の年末年始の準備をするのも押せ押せだった。
「ふう、終わったー」
「もより、お疲れ様」
御本尊へのお供え用のおせちをなんとか作り終え、よっこらせっと、居間畳にあぐらをかく。
そのままストレッチを始めた。
「はあ・・・今年も結局怪我しちゃって、最後の辺は全然走れなかったからなー」
「ストレス溜まったろう」
「ほんとだよ。これも全部近本のせいだ」
わたしはテレビをつける。
ちょうど紅白が始まるところだった。
「おっ、始まった!」
「なんだ。いつもは観ないのに。誰かお気に入りの歌手でも出るのか?」
「へへ。EK」
「ああ、あの男か。亡者共を歌で怒鳴り鎮めた」
そう。
隣の県までEKをみんなで観に行ったのは一年生の夏休み初日だった。
あれからもう一年半近く経つのか。
「まさかEKが紅白に出るなんて」
「この世に『あり得ない』という言葉はない」
「お師匠がそう言うとなんか実感湧くなー。ほんと。わたしが初めてEKの曲ラジオで聴いた時、小学生ながらにこれはテレビは無理だろう、って直感してたんだけどなー」
EKの出番は後半。
明日は年始のお勤め始めだから夜更かしはできない。
なので、EKを見届けたら即寝られるように、お風呂から歯磨きから全部済ませて万全の体制でスタンバる。
途中で出てくるアーティストで心に引っかかる素晴らしいパフォーマンスもいくつかあった。ただ、やっぱり、
「EKの比じゃないね」
と、わたしの偏愛ぶりをお師匠に憚ることなくブツブツ呟く。ついでに呟くように口に出してみた。
「お師匠はどんな音楽好きなのかなー」
「オルタナティブだ」
「え?」
「何度も言わせるな」
聞き間違えでなければお師匠はオルタナティブロックのことを言っている。
初耳だった。今までお師匠が車の中で受動的に流れてくるラジオ以外で音楽を聴いているのを見たことがなかったので。
「意味分かって言ってるんだよね」
「失礼な。高校の時の英語の成績はもよりよりも良かったぞ」
そういう問題ではないんだけれども、あとで具体的にどのバンドが好きかという質問をして検証しよう。
それより今はEKだ。
「さあ、それではお茶の間の皆さんは初めてという方も多いでしょう。EKの皆さんです!」
おお。なんと。
演奏前に白組の司会者のタレントと絡みがあるようだ。
わたしは自分のことのように緊張する。
大丈夫だろうか。ちゃんと受け答えできるのだろうか。
なんだか、学校祭の劇に出演する小学生の親の気分だ。
実体験はないけれども。
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