第257話 肉まんおでん・・・その3
取り敢えず四等分してみた。
でも、まだ大きい。
更に分け、八等分にした。
一口大だ。
お腹の空いている時ならば大きなハンバーグを箸でぐっと持ち上げ、かぶりつくのがおいしいのだろうけれども、なんとなく時間稼ぎしたくなる。
みんな、『さあ、ぐっと』という目でわたしを見る。わたしは、『いや、まだまだ』ということを挙動で伝える。
まるで相撲の仕切りみたいだ。
「あ、女の坊さんだ」
甲高い声と来客を告げるメロディ音とが同時にした。わたしは振り返る。
小学生男子の集団。
ああ、そういえば。
月参りのために自転車で移動しているとき、わたしの法衣姿を見てからかうので、「こら!」と怒鳴りつけてやった子たちだ。
わたしに黒い考えが浮かんだ。
「キミらお腹空いてない?」
「うん。腹減ったー」
「じゃあ、もしよかったらこれあげようか」
「おお、いいの?」
「ちょっと待って」
ぱっ、とその集団の中で一目で大人びているとわかる子が単純そうな子を制した。めんどくさくなりそうだなと直感した。
大人びた子がわたしに語りかける。
「そのおでんってあなたが買ったんですか」
「えーと。買ったんじゃないけど。まあ、景品みたいなもの」
「ならばあなたがそれを僕らに譲る理由があるはずですよね」
「え・・・えーと」
「聞かせてください」
「まあ・・・わたしがお腹いっぱいで食べられないから」
「じゃあ、あなたは僕らに頼んでるんですよね」
「まあ・・・そうなるかな」
「僕ら全部で10人です」
数えると確かに10人居る。けど、何が言いたいんだろう。測りかねる。
「おでん、追加してください」
「お、なら俺のをあげるよ」
学人くんが自分のがんもどきの容器を突き出すとその子はにべもなく首を振る。
「いいえ。僕らはハンバーグがいいんです。それにその女のお坊さんと交渉してるんです」
「交渉って・・・わかった。じゃあ、もっと細かく分けるよ」
「ダメです。それ以上小さくすると食べた気がしません。もう一つ追加して平等になるように分けてください」
「・・・分かったよ。じゃあ、自分のお金でもう一個買うよ」
わたしがハンバーグおでんの追加を注文する横からその子がまた口を挟んできた。
「ハンバーグだけだともけもけしてて食べられません。飲み物もお願いします」
「うー・・・」
わたしはほんとにうー、と口に出して苛立ちを表に出し、10本調達するために飲み物のエリアへ進もうとした。五人組のみんなもお金出すよ、と言ってくれたけれどもそれだと小学生に負けたような気分になる。
その時、思いもしない助け舟をオーナーが出してくれた。
「これ、試供品なんだけれどもよかったら使ってください」
とこっそりとなにやら袋に入った筒状のものを出してくれた。
見た瞬間にオーナーの意向を察した。
わたしは500mlのペットボトルを一本買って小学生男子どもの前に戻った。イートインのカウンターにどん、とボトルを置く。
「一本じゃ足りませんよ」
大人びた子に同調して他の男子どももそうだそうだと囃し立てる。わたしはオーナーからもらったそれを10個、トントン、と置いてペットボトルの中身を注いだ。
「はい、どうぞ」
全員、無言。
カウンターの上には透明な使い捨てのプラスチックカップ。
それもただのカップではない。
目盛りがついてるのだ。
そのカップに注いだ黄色い液体には少し泡も立っている。
液体は栄養ドリンク系の炭酸飲料。黄色とは言いながら、やや茶味を帯びるぐらいの濃い色だ。
オーナーもいたずら心で試供品のカップの解説をする。
「いやー、このカップね。バーベキューの時なんかにソースとか醤油とかの分量をきちんと測るのにも使えるよう目盛り付きなんだけどね。なんか、健康診断の時に使うアレみたいだって評判悪くてね。ちょうど本部にそのモニタリング報告をしたところなんだよ」
「アレって・・・」
「もちろん、トイレで使うカップだよ」
最後にわたしが補足した。
「1人50ccね」
「・・・ccなんて、言うなよ」
最後には大人びた子も敬語じゃなくなった。
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