第227話 あなたが欲しい・・・その8

土曜の夜、お師匠に、近本から、


「もより、お前が、欲しい」


と囁かれたことを報告すると、


「分かった」


とだけ言ってそのままご本尊に向かった。

眠れない夜を過ごしたわたしが目を覚まして本堂に行くと、お師匠がご本尊の前で端座して手を合わせていた。


一晩中そうしていたようだ。


お師匠をしてここまでさせるほどの相手なのだと、わたしは得体の知れない恐怖と疲労感でいっぱいになった。


日曜はほぼ何もせずに過ごした。


何も考えたくなくって宵のうちから布団で体を丸め、赤ちゃんのように眠った。


月曜。


ふっと気配を感じて目を開けると、自室の布団の脇にお師匠が呆然と立っていた。


むっくりとわたしは起き上がる。お師匠はこう言った。


「すまん」

「え」

「守れなかった」


そう言ってわたしにガサガサと朝刊を渡す。


お悔やみ欄が、目に入った。


『熊山運輸社長の熊山士郎さん、64歳。昨夜亡くなりました。お通夜は火曜夜7時シティホールにて。葬儀は翌水曜日午前10時から同じくシティホールにて。喪主は長男の・・・』


「なに、これ・・・」

「近本が、呪い殺した」

「そんなこと・・・」

「『お告げ』すら遮られて届かなくなった。一志の声も、雑音ノイズで妨害された」

悪鬼神あっきしんって、何なの?」

「私にも分からなくなった。ただ、近本は人を殺すのなどたやすく、しかも何の罪悪感もなくそれをやってのけるということだ」

「わたしが欲しいって、どういうことだろ」

「近本本人に訊くしかないな」

「え」

「私が、近本に、会う」

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