第228話 あなたが欲しい・・・その9
火曜の夜。
わたしたちはシティホールに集った。
お師匠。わたし。ちづちゃん。学人くん。空くん。ジローくん。
全員黒の礼服だ。一般参列の席に座る。
社葬ではなく、個人としてのお通夜の形式をとっている。
社員だった金田さんのお通夜は昨夜。葬儀が今日の午前中。しかも皮肉にも同じこのシティホールだったので、配慮してできるだけ簡素にということなのかもしれない。
熊山社長のお通夜は仏式ではなく神道式だった。
焼香の代わりに玉串を捧げる。順に参列者が祭壇に向かう列をなす。
「お師匠。あれが近本だよ」
「ああ。分かっている」
会社の幹部として重々しく祭壇の前に立つ近本。
土曜に見たスーツ姿よりも、黒づくめの礼服の方が異様なまでに似合っている。
そして、わたしには分かった。
目が、笑っている。
嫌悪というよりも恐怖を感じる。
祭壇から参列席に戻るとき、どうした訳か近本はわたしらのグループの方へ視線を向けた。
そのまま、少しだけ歯を見せて微笑でわたしたちに会釈する。
「目を合わせるな」
お師匠がわたしたち全員に指示した。
「もう近本の術が始まっている」
・・・・・・・・・・・・
お通夜が終わり参列者たちが会場を出始める。
お師匠は全員固まって行動するようわたしたちに厳命した。
1人でも気力が多い方が、敵に呑まれないということらしい。
周囲の参列者からは奇異な目で見られることは分かっていたけれども、大人1人と高校生の集団で近本が乗り込もうとしている車の脇にずらっと立った。
「何かご用ですか?」
近本の自家用車なのだろう。近本は自ら運転席のウインドウを下ろし、表面上は丁寧な言葉をお師匠に向ける。それに反してお師匠の言葉は苛烈だった。
「ここには事情を知っている者しかいない」
「何のことですかね?」
「単刀直入に訊く。熊山社長を殺したな」
「はあ? あなたは何を言ってるんだね」
「もう一度言う。ここには事情を知っている者しかいない。私も、娘のもよりも。そしてもよりの友達のこの子たちも、お前が
「いきなり『お前』呼ばわりかね。何なんだ、君たちは」
わたしはてっきり近本がとぼけているのかと思った。でも、違った。
「神に対して無礼だな、君らは」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます