第222話 あなたが欲しい・・・その3

土曜日になった。


熊山運輸本社前で現地集合したわたしたち5人は緊張してぎくしゃくした動きのまま今日の案内役を務めてくださる、総務課長の種川たねかわさんの後に続いた。

まずは社長室に行き、熊山社長に挨拶するのだ。


「こんにちは」


5人全員で元気よく挨拶した。

すかさず熊山社長が立ち上がってわたしたちの方に歩み寄ってきてくださった。


「ジョーダイさん、それからお友達の皆さん。今日はわざわざお越しいただいてありがとうございます」

「熊山社長、こちらこそありがとうございます。今日は楽しみにして参りました」


わたしが挨拶を返し、それからみんな自己紹介をした。


楽しみにして参った、とは言ったけれども、冒頭に言ったように全員とても緊張している。


なぜなら。


わたしはお師匠がご本尊からいただいたお告げをみんなに話していたからだ。


『わたしたちの友情は悪因縁に絡まれている』


こんな残酷なことを端折らずに説明した。

正直な所、行かない、と言われてもわたしがどうこう言える筋合いではなかったし、事実全員行かない場合もあり得るなと覚悟していた。


けれども。


「わたしは行きたい」


と、まずちづちゃんが言ってくれた。


「俺も行くよ」

「僕も行く」

「もちろん僕も」


学人くん、空くん、ジローくんも行くと言ってくれた。

わたしは訊いた。


「相手は『悪鬼神』なんだから、行けば何が起こるか分かんないよ。それに、わたしが多分悪因縁を受ける元凶だろうと思うし・・・」

「関係ないよ、もよちゃん」

「ちづちゃん?」

「悪因縁だろうとなんだろうと、もよちゃんに出会わせてくれたのが『悪鬼神』ならわたしは感謝したい」

「僕もそう思う」

「ジローくん・・・」

「きっかけが何かなんて僕にとってはどうでもいい。大事なのはもよりさんやみんなと友達になれた、ってことだよ」

「ありがとう・・・」


みんなの暖かで勇気溢れる友情を感じつつ、わたしたちはここに集った。

ただやはり分からないのは、秩序がきちんと保たれた民間企業の社屋の中で白昼堂々、悪鬼神が一体何をしようとしているのか、何が起こるのか、ということだ。


「じゃあ、皆さん。本当ならわたしも見学に同行したい所なのですが、ちょっと急ぎの案件が入ってしまいまして。昨日連絡させていただいた通り、種川がご案内しますので」

「こちらこそお忙しい中ありがとうございます」


全員で頭を下げた。


違和感はあった。

土曜日に社長自らが急ぎの案件って、そんなことしょっちゅうあるのだろうかと。

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