第180話 プレフルマラソン(その8)

 平地に入り、わたしは佐古田くんの真似をして、


「はっ!」


と声に出して気合いを入れた。

 これがびっくり。つりそうな一歩手前の足からつっぱりが引き、骨盤を更に5°前傾させて、自分でも怖いぐらいのスピードに乗った。

 病院の正門を突き抜けると、真正面が救急搬入用の入り口だった。

 看護師だろうか、男女一人ずつがわたしに手を振っている。2人してそのまま駆け寄って来てくれた。


「大丈夫?」


 女性がわたしを支えてくれる。


「ありがとう! 血液を!」


 男性の声に促され、リュックをゆるめ、そのまま引き剥がすように受け取って貰った。男性はそのまま小走りで院内に消えていく。


「本当にありがとうございました。これでよければどうぞ」


 しゃがみ込んだわたしにタオルをかけてくれ、キャップを開けたスポーツドリンクのペットボトルを渡してくれる。


 うーっ、効くー!


 ごくごくと良く冷えたそれを5秒程飲んで思い出した。


「あ、タイムタイム!」

「?」


 わたしが慌ててG-Shockを見るとストップウォッチは動き続けている。


 ”13分05秒”


 そこでストップボタンを押した。甘めに見て、看護師さんたちに出迎えられてから1分近くは経っているだろう。

 とすると、12分ちょっと?

 つまりわたしは、3分/km ぐらいのペースで走ったってこと?


 ひえー。


 いくら下り坂とは言え、びっくりだ。

 まあ、お兄ちゃんがわたしの尻をぐいぐい押してくれたんだろうな、多分。

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