第172話 反転しようか(その8)

 三木さんが帰った後、久し振りに5人組だけでお茶を飲んだ。


「もよりさん、さっき言ったこと、本当に本気?」


 学人くんがわたしに真顔で訊く。


「もちろん。本気」

「じゃあ、本当に僕らも彼氏になる可能性があるってこと?」


 ジローくんの純粋な問いにわたしは微笑して答える。


「彼氏・彼女ってお互いの気持ちが問題だけど、ともかくわたしは3人のことを、”男”、として見て好きだな」

「どこがいいの?」


 学人くんは切実な顔で追加の質問をしてきた。


「どこと言われると分かんない」

「なあんだ」


 3人とも落胆の顔をしたのでフォローする。


「たとえば、わたし、EKが好きじゃない? ギターがガーン、となって、宮二が、わっ、って吠えた瞬間に、”あ、これ好き!”ってなったもん。理屈じゃないよね。こればっかりは」

「僕はてっきりもよりさんは、お情けで一緒に居てくれるのかと思ってた」

「ひどいなあ。わたしのことそんな目で見てたんだ」


 空くんらしくないコメントにわたしが少し意地悪く答えると、あわてて空くんはごめんごめんと言った。


「じゃあ、もよちゃんとわたしが結婚するってこともあり得るのかな」

「・・・結婚はさすがに無理だけど、生涯付き合っていくだろうなっていうのは1年の4月に結論出してるよ、わたしは」

「いやー、なんか嬉しーなー」


 学人くんがしみじみ言ってくれる。わしの方こそ嬉しい。


「だって、わたし、みんなのこと好きなんだもん。しょうがないよ。逆にわたしの方こそ一緒にいてくれてありがとう」


 そーなのだ。立場として、職責として好きになる努力をすることも大切だし尊いこと。

 でも、この5人に関しては、そーいうことと無関係に、単に、”好き”、なのだ。

 しょーがないよ、惚れちゃったんだから。


 翌日、朝いちに廊下で三木さんとすれ違った。


「おはようございまーす!」


と、でかい声であいさつしたら、


「ああ。おはよう」


と、小声で答えてくれた。昨日は意地悪してすいませんね。別にあなたのこと嫌いじゃないからね。

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