プレ・フルマラソン(その1)
「来たか、ついに!」
わたしはスマホで応募要領を何度も確認した。
よし、年齢制限はどこにも書いてない。唯一、参加料1万円というのが手痛いけれども、”お師匠、わたしの労働の対価としては十分でしょ”、と心の中でつぶやき、エントリーの最終確認を送信した。わたしの席の周りで、ちづちゃん、ジローくん、空くん、学人くんが動きを止めている。息さえしていないような表情だ。
「あ、ごめん。みんな先に食べててくれてよかったのに」
「何々? 何に応募したの?」
「へっへー」
とわたしは鼻高々とスマホをの画面を見せる。
「第一回ユアタウンマラソン?」
「あ、ついに出るんだ!」
みんな口々にポジティブな言葉を投げかけてくれる。盛り上がった気分でわたしは答える。
「10月30日、県主催としては初のフルマラソン大会。とうとう決まりました」
「高校生もOKなの?」
ちづちゃん、よくぞ訊いてくれたよ。
「うん。年齢制限なし。小学生も80才も参加可能。ただし」
「ただし?」
「42.195kmを概ね7時間以内に完走できるトレーニングを積んでいること。要件としてエントリー後に完走の目安タイムを自己申告すること」
「あ、なるほど。そういうシステムか」
空くんが納得した顔をする。
「そう。んで、自己申告タイムに応じてスタート位置が変わる。速い人は前の方に」
「スタート位置でそんなに違うもん?」
「一応15,000人が参加予定だから、最前列が出発してから最後尾がスタートラインを通過するのに10分くらいかかるよ」
「あ、それは大きいね」
「と、いうことで、わたし、今週末にタイムトライアルをします」
「え? もよちゃん、週末に42.195km走るの?」
「ううん。一応20km走ってそのタイムから推測して自己申告するよ」
「それでも20kmかあ。僕なんか絶対無理だな」
そういう空くんにわたしはいたずら心で答える。
「空くん、一緒に走ってくれたら1か月間毎日ジュースおごってあげるよ」
「いい、いい。その前に脱水症状になっちゃうよ」
「わたしも一緒に走れたらなあ」
「嬉しいけど、ちづちゃんと言えどもこればかりは。一緒に走る、というより、それぞれのランナーが自分の健康状態とか走る力とか目標に応じて挑戦するものだから。ちづちゃんも自分なりの目標定めて走るんだったらいいと思うよ」
「そっか、そうだね」
5人組の外からも声が掛かる。
「え? 何何? もより、フルマラソン走るの?」
「うん」
「うちの陸上部ですら臆して出場しないのに。すごいね」
おっと。陸上部に義理はないけど、弁護しておいてあげよう。
「ちょうど10月って運動部はみんな秋季大会でしょ。フルマラソンって完走したらダメージ抜くのに1か月ぐらいかかる時もあるから、部活やってる子はちょっと無理だよ。わたしは気楽な帰宅部だからできる、ってだけで」
「へー」
お、1年の時に1,500mでやり合った佐古田くんが会釈してくれてる。気を遣わなくてもいいのに。いつか一緒に参加しようね。
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