第161話 とある証明をするナッキー(その2)

「ナッキー、ご指名でーす」

「はーい」


 軽やかな足取り。


「いらっしゃいま・・・おお、もより!」

「こんにちは、奈月さん」

「いやいや、来るならメールしてくれればいいのに」

「お邪魔でしたか?」

「いやいやとんでもない。もよりならいつでもOK。さ、ご注文は? おごるよ」

「大丈夫です。お師匠にお小遣い貰いました」

「へえ。幾ら?」

「3千円」

「うーん。中学・・・いや、小学生のお小遣いみたい」


 まろやかアメリカンを頼んだ。

 比較的空いていたので、奈月さんは店長の了解を得てわたしの前の席に座る。

 メイド服の奈月さんはかわいい、というよりも可憐だ。


「背、また伸びたね」

「実は176cmになりました」

「お、四捨五入したら180cmか。ほんとにモデルになったら?」

「いえ、無理ですよ」

「思ったより元気そうだね」


 不戦敗のその日に、”落ちましたー”、と一言だけメールを送った。奈月さんからは、”そうかー”、とやはり一言だけの返信だった。


「どう? 5人組はもよりのこと、慰めてくれた?」

「そのことなんですけど・・・」


 わたしはお母さんを殴ったこと、それをネタに立候補を取り下げさせられたこと、そして理由はどうあれ人を殴ったわたしを怖がってちづちゃんから避けられていることを話した。


「うーん、千鶴の反応は意外だなー」

「殴る殴られる、っていうのがちづちゃんにとっては大事なポイントみたいです」

「んで、仲直りの兆しは?」

「全然ないです」


 10秒ほどの沈黙の後、奈月さんが、くるっ、とカウンターを振り返る。


「店長、あれ、かけてください」

「ええ? またあれかい?」

「はい。今月まだ1度もですから、権利ありますよね?」

「しょうがないなー」


 奈月さん、くるっ、とわたしに向き直る。やたらにこにこしてるな。


「何なんですか? かけるって」

「もよりはバンドとか好きなんだよね」

「バンドが好きな訳じゃなくって、EKが好きなんです」

「ACIDBOYっていうバンド知ってる?」

「ACIDBOY? ああ、そう言えばEKとよく一緒にフェスに出てるバンドですかね?」

「EK絡みはよくわかんないけど、多分そう。この店ではね、月に5回、自分の好きな曲を好きな時に流せる権利があるんだ。わたしが今頼んだのは、ACIDBOYの、”とある証明”、っていう曲」

「”とある証明”?」

「まあ聴いてみてよ」

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