第162話 とある証明をするナッキー(その3)
澄んだ金属音のようなシンプルリフが4度繰り返され、スネアの音が割り込んできた。
店内の空気が整う。
ハイハットをオープンにして脳内に心地よい高域音が滑って入って来る。ベースが走り出し、クリアなギターのリフが小刻みなカッティングに変わる。
そして、ヴォーカルの第一声が流れた。
”昨日の僕らが 震えてた頃、街では別の歌が流れた”
ファルセットか喉を開けているのか区別のつかないような繊細で美しい男の声。
わたしはそっと目を閉じて、曲に集中した。
”けれど僕らの作った歌は 、誰も知らぬ君に寄り添う”
「歌だけでなく、ギターのフレーズも聴いてみて」
奈月さんにそう言われて気付いた。
ヴォーカルはギターを弾きながら歌ってる。歌の感情にギターの感情も加わり、更に波長が合い切なくなる。
サビの部分に入った。
”とある証明を僕は繰り返す 花のない部屋の澄み切る空気を 過ぎてゆく日々の残り香を届けよう 明日も”
ああ。なんだろう。このまま目を閉じていたい。
「ナッキー、いい曲だね!」
「ありがとうございます」
お客さんと奈月さんのやりとりで、はっ、と我に返った。
「どう? わたしは大好きな曲なんだけどね」
「いい曲ですね。なんでだかわかりませんけど、星のちらつく夜空が見えました」
「え? もよりも?」
「あれ? 奈月さんもなんですか?」
「うん。初めて聴いたACIDBOYがこの曲だったんだよね。んで、わたしは満月が見えた。ぼわっとしたのじゃなくって、キンキンに冷えた空気の中の、青白いぐらいに輝いている月。そしたらね・・・」
「はい」
「死にたい気持ちが消えてったんだ」
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