第130話 一応、バレンタイン(その4)

 疑問文に対し、解答をしない内にモンブランが、とっ、とわたしの皿の上に置かれた。万事休す。覚悟を決めてテーブルに戻る。


「食べてみよ?」


 ちづちゃんの女の子らしい可愛い囁きに、男子3人の目が女子2人のフォークの先に集中する。

 まず、ちづちゃんが、さくっ、とフォークでモンブランの10分の1ほどを切断して口に運ぶ。つん、という感じで口から抜き取られたフォークと、咀嚼ではなく、舌で自然に溶かしているであろうその仕草が本当に可愛い。わたしには真似のできない可愛さだ。


 見届けた男子3人の視線が、今度はわたしの一挙手一投足を監視する。

 おもむろにフォークを持ち上げた。

 3つに枝分かれした先端でモンブランの頭頂部に狙いをつける。


「・・・・」


 何だこの静寂は。


 いい加減雑談でも始めてくれないかな、と願うけれども、かなわぬようだ。

 ふう、と深呼吸し、そのままフォークを垂直に下ろす。


”ぷすっ”という感じで頭頂部に乗っかった”栗の甘煮” の表面に突き立てた。けれども、上手く刺さらない。仕方なく少し力を加えると、ややくしゃっとする感じでモンブランの美しいはずのシルエットが崩れた所でようやく栗を持ち上げられるまでの深さに達した。

 そのまま栗を口にぽん、とねじ込むような感じでもぐもぐする。


「・・・・」


 え?食べたんだからもう勘弁してよ。と言いたくなるところを先廻ってジローくんに念押しされてしまう。


「あ、もよりさんって苺ショートとかもまず苺から食べる派なんだね」


 そんな訳あるか!、と思いながらも、


「うん・・・そう・・・」


と答えてしまう。

 ああ、いつもの潔いわたしはどこへ行った。頑張ってフォークをケーキ本体に差し込もうとする。

 うう、駄目だ。もう、限界だ!


「ごめん・・・」


「?ごめん?」


「?何?どうしてあやまるの?」


「いや・・・その・・・ちょっと、駄目なんだ・・・」


 ちづちゃんの方が気を遣ってくれる。


「え?もよちゃん、もしかしてモンブラン嫌いだった?ごめんね、わたし気が付かなくって」


「ううん、ううん、そうじゃないの」


「でも」


「違う。そうじゃなくってね。実はわたし・・・」


「?」


「ケーキが大っ嫌いなんだ!」


「・・・・・」


 30秒程、全員絶句した。


 ああ、ごめん・・・・

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