第113話 Goodbye Mom その2

「もより、お茶がいいかい?それともコーヒー?」

「じゃあ、コーヒー」

 おばあちゃんが立ち動いている間、台所のテーブルでおじいちゃんと無言で向き合うこと約1分。たまらなくなってわたしが先に言った。

「おじいちゃん、年取ったね」

 相手は当然、黙って青筋を立てる。

「もよりの正直な所は変わらないねえ」

 おばあちゃんが絶妙な間合いでコーヒーをテーブルに置く。

「でも、ものすごい美人さんになったね。ねえ、おじいちゃん?」

 おじいちゃんは無言のままだ。

 実は、おばあちゃんにはメールを送っておいた。

”行っていい?” ”いいよ、もちろん。待ってるね” 

 お父さんとお母さんは法律上赤の他人になったけれども、祖父母と孫はそういう訳にいかない。

「あれ?おじさんと時子さんは?」

「出て行った」

「そう、なんだ・・・」

 想像はついた。

 母の兄、修一しゅういちおじさんと奥さんの時子ときこさんはもともと舅・姑とうまくいってなかった。お母さんが戻ってくるのを機会に訣別したのだろう。

「何しに来た」

 出た!ドラマや小説でありがちなこの台詞を自分が生で聞く日が来るとは思ってなかった。まあ、確かにおじいちゃんはこんな人ではあったけれども。

「おじいちゃん、何言ってるんですか。せかくもよりが来てくれたのに」

「ううん、いいよ、おばあちゃん。おじいちゃん、ただ、顔を見に来ただけ」

「誰の」

「ん?もちろんおじいちゃんの」

「嘘つけ」

 いただきまーす、と言ってコーヒーを一口啜る。

「うん。おばあちゃん、さすがだね。おいしいよ」

「もよりはコーヒーにうるさいからね」

の悪い影響だな」

「そんな言い方しちゃだめですよ。もよりのお父さんのことを」

 ちっ、とおじいちゃんが舌打ちする。大人げないと思うけれども、別に腹も立たない。

「それで、お母さんは?」

「さなえは部屋で寝てるよ」

「そう・・・やっぱり、夜眠れないんだ?」

「うとうとはしてると思うんだけどね」

「外、出掛けても大丈夫かな?」

「え?」

「ちょっと、お母さんと2人で話がしたいんだよね」

「私がスーパーに行く時、一緒について来る事あるから大丈夫だとおもうけど・・・おじいちゃん、どうですかね?」

「・・・行きたかったら行ってこい。家の中であーだこーだやられるよりよっぽどいい」

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