第104話 クリスマス・フィードバック・ブディズム その15

 ”白昼、通り魔殺人。5人死傷”

 これが朝刊の大見出し。

 その次に中見出しがあり、お兄ちゃんの顔写真が載っている。

 ”勇気ある男子高校生、女の子の命を救い、自らが犠牲に”

 本文。

 ”この凶行の中、自転車で通りかかった男子高校生の上代一志さん(16歳、中央高校2年生)は、母親と一緒に犯人に襲われていた高畑美夢たかはたみむちゃん(3歳)を犯人から救い出し、地面に倒れ込んだ。起き上がろうとしている所を背後から首、背中など10箇所をナイフで刺された。市民病院に搬送されたが心肺停止の状態で、その後死亡が確認された。美夢ちゃんは手や膝を擦りむいた程度の軽傷。母親の早希さんは腕を刺され重傷だが、命に別状はない。”

 腹が立った。

 もちろん、この記事を書いてくれた記者は、なんとかしてお兄ちゃんの尊い行為に最大限の敬意を払おうと厳粛な気持ちで書いてくれたに違いない。そんなことは分かっている。

 分かっているけれども、お兄ちゃんの16年間の人生が、この新聞記事にまとまっているのだと思うと切なすぎる。

 テレビでも全国ニュースでしばらくの間、取り上げられた。

「この一志さんは、県内でもトップレベルの進学校である中央高校の生徒で、また、バドミントン部のエースとしてインターハイの出場が決まっていたんですね。事件の日もチームメイトと一緒に練習した帰り道だったそうです。自転車ですから自分はそのまま逃げようと思えば逃げられたのに、本当にに勇敢な少年です。

「いやー、本当の意味での文武両道ですね。どうして彼が死ななければならなかったんでしょうか。」

 どうして?・・・・・

「それを思うと、この犯人の男、岡元充博38歳。統合失調症で入退院を繰り返し、生活保護を受けていたそうですが、精神鑑定で罪に問えないとなったら、何ともやりきれないですねえ」

「そうですね」

 やりきれないのは、本当は誰?お兄ちゃん?お母さん?

 それとも、わたし?

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