第103話 クリスマス・フィードバック・ブディズム その14

 今、何をすればいのか。

 お母さんは、わたしに電話を渡した時の態勢のまま立ちつくしている。

 ”南無阿弥陀仏”

 わたしは天戸さんに聞こえないように喉の奥で呟くと、自分は冷血だろうかと驚くぐらいに心が平静になった。

「どちらへ行けばいいんでしょうか」

 天戸さんと、ごく事務的な応答を1分程した。

 

「お母さん、行こう」

 家族自身も本人確認をすると言われたので、健康保険証をポケットに突っ込む。

 檀家さん廻りからまだ戻らないお師匠の携帯に架電する。

 読経中なのだろう。留守電に、”お兄ちゃんが死んだかもしれない。警察に行く”、という内容の簡潔な事務連絡文を録音した。

 お母さんは自分では動けない。

 本当は車を運転して欲しかったのだけれども、無理なのでタクシーを呼んだ。

 お母さんは自分の意思では動けないけれども、手を引くと簡単に歩いた。タクシーの中で、お母さんの背中をさすってあげる。お母さんが何かつぶやいている。お念仏を称えているのかと思ったけれども、違った。

「どうして、どうして?・・・」

 それをずっとお念仏の代わりに繰り返していた。

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