第68話 メイド その5

 語り掛けられて100歳が素直に返事する。

「わたしの娘のこの姿をどう思われますか?」

「そうですなあ。まあ、かわいらしい。それとやはり若い」

「若い。確かにそうですね。こういう服は最近若い女の子がよく着るようです。それでは、おばあさま」

 突然振られたけれども、おばあちゃんは存外に落ち着いて答える。

「はい」

「おばあさまはこういう服を着れますか?」

「わたしなんぞ到底無理ですね。あつかましいというもんです、この歳になって」

「そうですか。そう、物事には潮時、というものがあります。速くなり過ぎたら緩める。熱くなり過ぎたら冷ます。そして、始まりがあれば終わりがある。おばあさまはそれが分かっておられる。では、おじいさま」

「はいっ」

「親孝行とは何だと思いますか?」

「それは・・・・できるだけ親の望みをかなえ、長生きしてもらうことです」

「違う」

 一言の下に切って捨てるお師匠に、一同が軽く驚きの表情をする。発したのはきつい言葉だったけれども、その顔は柔らかいものだ。

「真の親孝行とは、親を済度することです。済度とは仏法を教えるということです。苦言を呈する、というのとも違う。ありのままの事実をきちんと伝えること。100歳を過ぎたんなら、そろそろ寿命ですね。と、教えてあげること。そうしないと、死ぬための準備ができない。生まれる時におむつやらミルクやらの準備が必要だったのと同じで、死ぬ時にも準備が必要なんです。年を取ってるのにいつまでも生きるように錯覚してる親が居たら、きちんと本当の事実を分からせてあげるのが、親孝行です」

「・・・・・」

「おじいさま、どうか孝行してあげてください」

 

 今更ながら思うのだけれども、わたしがわざわざメイド服を着る必要ってあったのだろうか。

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