第67話 メイド その4
「え?何ですか?」
息子であるおじいちゃんの声に凄みが加わる。
お師匠は平然としてわたしを促す。
「もより」
「はい」
わたしはすっと立ち上がる。
躊躇したらもう動けなくなるので何も考えずにコートを脱ぐ。
みんな声を出さずに驚く。
いや・・・・現田先輩だけは
「えっ!?」
と声に出して驚いた。
おばあちゃんが少し間を置いてから笑みをこぼして言う。
「メイドですね」
「はい、そうです」
答えてからわたしは改めて自分の服装に意識を戻す。
襟と袖口にフリルのついた白のブラウスに黒のサスペンダーでひざ上10cmの黒のスカートを吊るし、白のオーバーニーソックス。そして白のエプロン。巾着から白のカチューシャを出し、それだけは今着けた。
立ったままだと恥ずかしいので、再び正座する。
「もよりさん、かわいらしい」
頓着せずにおばあちゃんがにこにこと褒め続けてくれるので場の空気がやや和らぐ。
おじいちゃんは無言で怒りを発している。代わりにひいおじいちゃんが色々と喋り始める。まずはわたしにこう質問した。
「その服は何ですかな?」
「メイド服です」
「冥途服?死装束ですか?」
「という訳ではないんですが、今こういうのが流行ってるんです」
「へえ、こんなかわいらしいのが。じゃあ、わしも死ぬ時はこれを着なきゃならんということですな」
「えーと、一応この恰好は女だけですけど」
100歳なのだ。多少噛み合わない部分はそのままに会話を続ける。
お師匠が話に加わる。
「この間、100歳のお祝いをなさったそうですね。わたしも何か贈り物をと思って、娘にメイドの格好をさせて連れて来ました」
お師匠が意味ありげに付け加える。
「メイドの土産です」
おじいちゃんが鋭く反応する。
「縁起でもない!」
けれどもお師匠は、まるで耳に入らないかのようにゆったりと応対する。
「人生僅か50年、と言います」
お師匠の言葉におじいちゃんが反論する。
「父親は100歳ですよ。昔と今と違いますよ」
微かに笑みを浮かべる。お師匠には珍しい表情だ。
「現田さん、五十歩百歩とはまさにこのことです。昔の人はみんな、人の命がもろく、儚いことを自覚して生きていました。50歳も100歳も同じことです。夏の日の朝顔の花にのった一滴の露のように、日が昇り切れば、人間の生涯はすうっと消えてしまうものなのです。さて、ひいおじいさま」
「はい」
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