第19話 純喫茶アラン その8
「それで、店は賃貸だけど厨房機器とか改装費とかは自前だから初期投資として設備資金を政府系の銀行から借りたんだよね。父親が債務者、母親が連帯保証人になって。無担保で500万まで借りられる創業資金でね」
「ごめん、イメージだとお金を借りる時って自分の家を担保にしたりするんじゃないの?ちょっと自分が無知なだけかも知れないけど・・・」
「いや、それナイスな質問。うちは父親がサラリーマン時代に買った一戸建てに住んでて、住宅ローンもあとちょっと残ってる。家は住宅ローンの方の担保にはなってる」
「うー・・・ん?」
先祖代々のお寺で住宅ローンという概念に疎いわたしは混乱する。市松くんは、にこっ、と笑って解説を続けてくれる。
「普通は自己破産申請をしてすべての借金をほぼチャラにしてもらう人が多い。でも自己破産だと20万円以上の資産は処分される。つまり、自宅は手放さなきゃならなくなる。でも、個人民事再生だと自宅は手放さずに住宅ローンだけは払い続けて他の借金については大幅にまけてもらうことができるんだ。だから父親はそっちを選んだ」
「うーん、何となく分かった」
「父親はずっと俺にそのこと黙ってたんだけど、高校の入学式の日にお前も大人になったから、って話してくれた。まあ、バイトしてるのは自分も何か大人としての責任を果たしてみたいっていうのもあるし。うちは駄目だったけど喫茶店そのものは好きだし」
ああ。大人だ。
「じゃあ、学校には事情を話して特別に許可貰ってるとか」
「バイトの許可?ううん、そんなの貰ってない。っていうか家の事情は担任にも誰にも話してない。話したのはジョーダイさんが初めて」
「ふーん。え、でも何でわたしに話してくれたの?」
あれ?身のこなしも会話もスマートで澱みなかった市松くんが急に挙動不審になったぞ?
「いや、ほら。ジョーダイさんちはお寺だから、なんていうか、こういったことを野次馬的に面白がったりはしないだろうなっていうか・・・まあ・・・そんな感じ・・・・」
なんか、態度がヘン。けれどもわたしにそういう印象を持ってくれてるんならそれは嬉しい。
「じゃあさ、お店やってる時、市松くんはパフェ食べ放題だったんだよね?やっぱりそれって羨ましいなあ」
「いやいや、全然。店がオープンした時、駄々こねて一回だけ作って貰ったけどさ。後で父親が自分で伝票書いて自分の財布からお金出してレジに代金を払ってたんだよね。自分の店なのにさ」
「!!!」
「だから決して放漫経営じゃなかった筈なんだ。それでも駄目な時は駄目なんだなって。まあ、厳しい環境でよく5年も頑張ったなって思うよ」
生きるって、ここまで厳しいことなのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます